いっぱい食べる君が好き 三月一日。高校の卒業式の日に玲太くんと二人だけの結婚式を挙げてから一年が経ち、初めての結婚記念日を迎えた。
初めての結婚記念日は玲太くんがおじいさんのお店のお手伝いから帰って来た後、玲太くんの家で一緒にお祝いした。玲太くんは記念日に青いバラの花束をわたしにプレゼントしてくれて、わたしは玲太くんに手料理をたくさん振る舞った。
「すごいな、こんなに作ったのか?」
玲太くんはわたしが作った料理の多さに驚く。
「折角の結婚記念日だから頑張っちゃった。ちょっと作り過ぎたかな?」
「大丈夫。店の手伝いで腹減ってるし、おまえが作ったものを残すわけないだろ?」
「ふふっ、そうだね」
確かに玲太くんがわたしの作った料理を残したところは見たことがないと頷く。
食卓に玲太くんが帰りに買って来てくれた青いバラの花束も飾り、二人で向かい合って座る。初めての結婚記念日を祝して乾杯すると、玲太くんはすごい勢いで食べ始め、わたしの手料理を残さず完食した。おじいさんのお店のお手伝いの後でお腹が空いていたとはいえ、まさかこの量を完食するとは思わなかったので、ちょっと驚いてしまった。
「ごちそうさま。美味かった」
「ふふっ、お粗末様。玲太くんって何でもよく食べるよね」
高校生の時からそう思っていたが、結婚して一緒に食事をする機会が大幅に増えてからも改めてよく食べるなと思う。食べ物の好き嫌いもなく、わたしの手料理をいつも残さず全部食べてくれる他、イギリスにいた頃の食事も日本食と同様に好んでいたらしいし、甘いものも好きで、この前デートに行った時は最近女子に人気のスイーツショップも一緒に行ってくれた。
「そうか? まあ、食べ物の好き嫌いはないし、食べるのは好きだよ」
玲太くん自身も食べることは好きな方だと言う。
「食いしん坊ってこと?」
すると、玲太くんはムッとした表情になる。
「食いしん坊って……おまえにだけは言われたくないな、それ」
「うう……」
玲太くんの言うように恥ずかしながらそれは否定できない。というか、よく食べる玲太くんに釣られて、わたしも結婚してから食べる量が増えてしまい、ますます食いしん坊になったような気がする。そんなことを考えていると、玲太くんはクスっと笑う。
「ま、おまえに胃袋掴まれてるのは本当だけどな」
そう言って玲太くんはわたしの頭に手を乗せた。
「玲太くん……?」
「ありがとうな。いつも俺のためにたくさん作ってくれて」
初めての結婚記念日に玲太くんはわたしに感謝の言葉をかけてくれた。切れ長の目尻を下げた穏やかな表情で、結婚してからよく見るようになった玲太くんの表情だ。この表情でわたしを愛しげに見つめてくれる。
「わたしも玲太くんがいつも美味しそうにいっぱい食べてくれて嬉しいよ。だから、これからもお料理頑張るね」
わたしも玲太くんのいいお嫁さんになれるようにまた頑張ろうと思えて、玲太くんが好きだと言ってくれた笑顔で返した。
玲太くんとお互いに感謝の気持ちを伝え合って、初めての結婚記念日に幸せな一時を過ごすことができた。
食事を終えて、玲太くんと二人で後片付けをする。たくさん料理を作ったので、食器の数も多かったが、二人で一緒に後片付けをしたので思ったよりも早く終わった。
「ふう、終わったね」
「じゃ、片付けも終わったし、今度はこっちな」
と、玲太くんはわたしを抱き寄せて腰の辺りを撫でる。
「……っ! 玲太くん⁉」
「記念日だし、いいだろ?」
玲太くんの意図していることが分かると、頬が一瞬にして赤く染まった。記念日だから、勿論今夜はわたしも期待してそのつもりでいたけれど――。
「うん……ベッド行こう……?」
頬を真っ赤に染めて頷くと、玲太くんは嬉しそうに笑った。
「ああ、こっちも頑張ろうな」
「もう……」
そして、今度はベッドでわたしが玲太くんに美味しく頂かれた。残さずどころか、おかわりまでされてしまい、食べ尽くされたと言ってもいい。
(玲太くんったら、記念日だからってあんなにするなんて……)
新婚とはいえ、玲太くんからの夜の求めは想像以上で、これも結婚してから驚かされたことだった。もしかしたら、玲太くんは食欲以上にそちらも旺盛なのかもしれない。
「悪い、ちょっとやり過ぎたよな……」
ベッドの上でぐったりしているわたしに玲太くんはバツの悪そうな表情になる。普段の凛々しさとは一転した表情だが、そんな表情も何だか愛おしく見えてしまう。
「ううん、いいの」
体を起こして玲太くんにキスをする。わたしからキスをすることはまだ少ないので、玲太くんは目を丸くして驚いている。
「わたし、いっぱい愛してくれる玲太くんが大好きだから」
こんなにもわたしを求めて愛してくれる人はきっと他にいない。だから、一生この人と添い遂げようと一年前の今日決めたのだ。
「ほら、来いよ。俺のお嫁さん」
玲太くんはこの日一番幸せそうな笑顔で一年前の今日と同じようにそう言うと、わたしをぎゅっと抱きしめた。大好きな人の腕の中でわたしも幸せな気持ちでいっぱいになる。
「ずっと愛してる」
「わたしも……」
改めて永遠の愛を誓い合うと、わたしたちは抱き合って何度もキスを交わした。