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    おにきゅ

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    【鍾タルワンライ0724WEBオンリー「祝福」】

    鍾タルワンライ「祝福」執務も落ち着いて蝉の鳴き声が響く夏の夜。この日も変わらず、共に夕食を摂っていた。夏の賑わいもあり、飲み進めていた酒のペースも量もそれなりだった。だから、つい口を滑らせたのだ。『無妄の丘まで任務に出てから、どうにも夢見が悪い』と。

    何度も食事を共にしてきたし、ちょっとした時間潰しなら誘い合う仲だが、互いに譲れない立場がある。それは向こうも理解しているからこそ、どれだけ無茶をしても、無理をしても、形の良い眉を顰めるだけで口を挟んできたことなど無かった。そんな相手が「顔色が悪い」「無妄の丘に行くのは止めた方が良い」と言い、「さもなければ任務に自分も同行する」とまで言い出した。

    ここ数日まともに眠れていないのだ。顔色のひとつも悪くなるだろう。腹の奥底から湧き出るような不快感を抱えたまま、続く言葉を吐きだした。

    「……だから? 顔色が悪かろうが、先生には関係ないだろう。それとも先生が執行官として……んっ、」

    互いの呼吸が混じり合う。性急な舌使いに睡眠不足の頭が翻弄されて、素直に声が零れ出る。甘く響く自身の啼き声が居た堪れず、抵抗しようにも力を上手く往なされるばかりだ。

    「んん……んぅ、…っ、」

    喉奥を舌先で突かれて、反射的に涙が浮かぶ。口付けの合間に酸素を求めて大きく開いた唇を、相手のそれが深く塞いだ。ようやっと解放されたと同時に肩で荒く呼吸を繰り返す。薄くなった酸素の所為か、朦朧とした意識のまま深い眠りに落ちていった。


    ◇◇◇


    タルタリヤは自室の寝台で、自身の右手に嵌められた指輪を眺めていた。岩元素で作り上げられたそれは黒とも見紛うような濃い茶をしており、精巧な細工が施されている。鮮やかな橙がアクセントとなり、特定の誰かを彷彿とさせた。愛する妹が言うには指輪を嵌める箇所によって意味合いが変わるらしい。たしか……と、霞がはれた思考を巡らせて遠い昔の記憶を探った。

    右手の中指は魔除けの証。

    だからなのか、それとも岩神の恩恵でもあるのか。あれほど繰り返し見ていた悪夢を見ることは無くなった。むしろ、使い物にならないからと言って、久しぶりに有休を取らされるほどに良く眠れたほどだ。代わりに部下と往生堂の客卿が無妄の丘まで向かったと聞いたが、特に問題が上がってきていないと言うことは上手くやってくれたのだろう。情けなさに零れそうになる溜息を飲み込み、来訪者へと視線を向ける。

    「公子殿、具合はどうだ?」
    「先生」
    「随分と顔色が良くなったな」

    ほっとした表情の相手が頬に手を添えて、前から横から。様々な角度から顔色を確かめるものだから、思わず笑いが零れる。

    「おかげさまで。任務の手伝いまでしてくれたって聞いたよ。必要経費と支払いが必要なら話は通しておくから北国銀行に宛ててくれる?」
    「経費については既に話を通してある。それに、俺は公子殿の体調が心配だっただけだからな。良くなったならそれでいいさ」

    寝台の横に腰を掛けた相手は優しく微笑みを浮かべて甘い言葉を紡ぐ。流れる甘やかな空気にいつまで経っても慣れる気がせず、どうにか流れを変えようと自身の手を相手に向けた。

    「そうだ、先生。この指輪」
    「数日前は公子殿の誕生日だったと聞いた。遅くなったが、そのまま贈り物として付けていてくれると嬉しい」
    「……ありがとう」

    元素で出来た代物だ。生成し続けるにも元素力を使うだろう。だから、返すべきかと思ったのだが。それでも祝ってくれる相手の気持ちが嬉しいのも確かで。貰えるものは貰っておくか、と指輪の縁を撫で、タルタリヤは口端を緩めた。

    「すまない、公子殿。そのままと言ったが、少し手を加えても良いか」

    こちらの意志を確認しているようでしていない相手が、返答を待つ前に互いの両手を重ね合うように手を握った。ふわり、と橙の粒子が舞ったのは元素を使ったからだろうか。ゆっくりと開かれた両手の先では右手にあったはずの指輪が、左手の薬指に移動させられていた。

    「遅くなったが、おめでとう。これから先も健やかな日々を過ごせるように」

    そこらの女性にでも向ければ簡単に道を踏み外しそうな極上の微笑みを浮かべている。額への口付けと共に贈られる言葉は間違いなく祝福だ。試しに指輪を引っ張ってみるが、うんともすんともしない。さながら、二度と外せない首輪をかけられた気分だ。タルタリヤは何とも言えない表情を浮かべて、鍾離へと感謝の言葉を返した。
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    おにきゅ

    DONE【鍾タルワンドロ0925「月見」「抱擁」】
    鍾タルワンドロ「月見」「抱擁」柱の上に、ひとりの子供が座っている。
    その眼下では流水で形を成した刃が真一文字を描き、ヒルチャールを吹き飛ばした。遠方では木陰に身を潜めたアビスの魔術師が火球を練り上げている。あの水の刃は火球を受け止めたら蒸発するのだろうか。どうやら空気中の水分を元素力で固着しているようだが、例えば周囲を炎の海にしたらどうだろう?空気中の水分は蒸発し、形になる基を失くした状態でも刃を成形できるものだろうか。子供が「ふむ」と思案を混ぜ込んだ一言を零した。

    「公子殿、聞きたいことがあるのだが、――ああ、後で構わないぞ」
    「そりゃ、お気遣いどーも! 今は手一杯だから助かるよ!」

    戦場を舞うように駆ける男――タルタリヤが、周囲を敵に囲まれながら、嫌味混じりの返答を吐き捨てる。手にした松明を掲げ、火の粉を散らしながら走り寄ってくるヒルチャールをくるりと振り向きながら蹴り飛ばし、すぐさま手元の武器を弓へと変形させて火球を作り出していたアビスの魔術師を打ち抜いた。あいにくとシールドに阻まれて致命傷には成り得なかったが、一時的に詠唱を止めることは出来たようだ。不完全な火球は魔術師の足元に落ちて、草原を燃焼させた。
    1841

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