鍾タルワンライ1231「先生のお誕生日」「プレゼント」「先生、何か欲しいものはある?」
瞳を細め、興味を滲ませた男が言葉を紡いだ。
職人が繊細な手技で仕上げた螺鈿の箱。大自然が永きをかけて作り上げた大ぶりの真珠――それを用いた、首飾り。求むに足るものは多い。
「これ以上となると、さすがにこれ以上は持ち運びに支障が出る。後日に持ち越しても?」
「此処で遠慮しないのが先生の良いところだよね。良いよ。先生が凡人二歳になったお祝いに何か買ってあげようかなって思っただけだから。ちなみに何をねだるつもりだったの?」
ぱち、と瞬きをひとつ。今年も終わりを迎える頃合いだと思っていたが、そんなに経っていたとは。
ふむ、と思案した後で視線を上げる。
「そういう事ならチケットを二枚、取ってくれ。演目はこちらで指定する」
演目を告げると「ああ、」と納得する声が聞こえた。
「雲菫が主演を務める舞台か。あの天権が投資している劇団だろう?」
「ああ、彼女の舞台は実に優雅だ。時間を消費し、見るに値する」
「ふぅん……先生のお気に入りの役者ってわけだ。分かった。チケットを取ったらプレゼントするよ。日時の指定は?」
「俺が受け取るのは一枚で良い。日時は公子殿の都合のつく日で構わない」
中身を飲み干した茶器を置くと、かつんと乾いた音を奏でた。弾けたような笑い声が寒空の下で高らかに響く。
「本当に遠慮の〝え〟も無いね!」
「幾つまで、と言う数の指定は無かったはずだが」
「無いけどさ。先生の辞書には二兎追う者は一兎も得ずって言葉は書いてないみたいだ」
「詳細が決まったら連絡してくれ」
「はいはい」
未だに喉奥で笑いを噛みしめながら呼び止めた店員に、次から次と注文を始める。物欲を満たした次は食欲を満たすつもりらしい。当人よりよっぽど楽しそうだ。
「そうだ。まだ言ってなかった。誕生日おめでとう、先生」
「今年も公子殿からの祝いの言葉を聞けるとはな」
「俺も言うとは思わなかったよ」
たかが二年、されど二年。この二年で璃月も随分と姿を変えた。それはきっと鍾離としても同じこと。
三度目の誕生日にはどのような形になっているのか、くるくると目まぐるしく変わり始めた世界では予想することも難しい。小さな楽しみが増えたことに口元が緩む。
二度目の誕生日は、食卓いっぱいの美食と共に過ぎていった。