投げかけられた問いは突然だった。
「敬一くんはさあ、手術見学行かないの?」
いつものメンバーで遊びの約束をして、珍しく叶が一番乗りだったその日、空は雲一つない快晴だった。燦燦と降り注ぐ陽光を浴びながら、叶は椅子の背もたれに身を持たせかけながらオレに問いかける。
「一回行ったけど、それきりだな」
「なんで? おもしろいのに」
叶はこてん、と首をかしげる。心底不思議そうに。
「中身ったってただの肉の塊だろ。村雨みてえにそこから心の動きは読み取れねえ。オレが未熟なだけかと思ったけど、どうも違いそうだ」
見学に行ったあの日の「患者」は40代男性の債務者で、村雨はそいつの開腹を行いながら嬉々として臓物の所見を述べていた。手術の前には「患者」からの人生談を、手術が始まってからは村雨の解説を真面目に聞き、目をかっぴらいて内臓を見た。けれど、
「なんもわかんないだろ? よくわかってんじゃん」
叶が笑った。
「ああ? じゃあお前はなんで何回も見に行ってんだよ」
「そんなの決まってる。中身見てる礼二くんを見にいってるの!」
ぞわりと背筋が粟立ち、頭の中で警鐘が鳴り響く。真意を読み取ろうにもさっきからこいつは、その材料すら寄越していない。彼我の力量の差に歯噛みした。言葉を返せないオレに叶はなおも話しかける。
「そんな睨むなって。別に敬一くんの獲物を横から搔っ攫おうなんてしないし、オレどっちかというと応援側だし。安心してくれよ!」
「……次からお前が見学行くときは連絡入れろ。邪魔はしねえ。弁当作ってやる」
オレがそう言うと、叶は椅子から飛び降りて腕を振り回し歓声を上げた。
「やりい!! とーぜんオレのリクエスト聞いてくれるよな?」
「まあ、ある程度なら」
「よっしゃ! 今の聞いてたよな、晨くん!」
扉の外で息を潜めてじっとしていたらしい真経津が部屋にぱたぱたと駆け込んできて叶を羨ましそうに見やる。
「え~叶さんずるーい。ボクも見学行ったらお弁当食べられる?」
「どうなんだ、敬一くん。そこんとこ」
「事前に連絡入れるなら作ってやる。ってか、もしかしてこれが狙いか?」
真経津が入ってくるタイミングまでは計算していなかったとしても、最初の質問から今の流れまで。
「さあ、どうだろうな~ま、それはそれとして敬一くん、自覚してんなら早く言っちゃったほうがいいぞ! 礼二くんそういう分野不得意そうだから、絶対変なことする!」
「話逸らすなよ。まあ、確かにそろそろ言ってもいいかもな。外堀は勝手に埋まってるみたいだし?」
叶と真経津に目をやるとふたりでハイタッチしながらくふくふと笑っている。本人たちはキューピッドのつもりかしらないが本当に悪魔のようだった。