人魚姫の夢――夢を見ているのはすぐにわかった。
立香は人魚だった。
色とりどりの魚たちと共に縦横無尽に泳ぎ回り、疲れれば生い茂る海藻の中に潜り込んで眠り、時には海上に行ってマシュやイルカたちと歌う。そんなお転婆な人魚の姫だった。
――ああ多分、寝る前にアンデルセンとキアラさんと話したからかな?
「なんだか騒がしいね。胸がザワザワする」
ある日のことだった。魚たちはどこか落ち着きなく右往左往している。イルカたちの姿も見えない。
「嵐で海上が荒れておるのだ。今日は上へは行くでないぞ、立香よ」
堅牢なサンゴのお城の中、金の髪と髭を蓄えたどこか見覚えのある父王が玉座に頬杖をつきながら立香を『知っているんだぞ』という目で見た。
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