私しか勝たん彼は全くもって隙が無い。鋭い眼光、獣のように敏感な耳、気配を感じる力に長けていて反射神経も抜群に良い。戦場に立つ武人ならば当然かもしれないが張遼ほど隙が無い人物を、郭嘉は知らない。少しくらい力を抜けばいいのにと冗談めかして言えば、いつ何時だって油断したくないのだと力強い返答がくるものだからそれ以上の追求はできなかった。
「目の辺り、塵がついているよ」
日が沈んだ涼しい夜、風が少々強かった。郭嘉が指摘すると張遼はそっと己の右目の辺りを指で拭い、取れたかと尋ねる。
「ううん、反対の方。そう、目蓋のところ……ああ違う、もっと、睫毛に近いとこ」
「そんなに取れないものでしょうか」
「うん。何か、小さな粒がくっついているように見えるのだけれど」
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