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    ehara5

    風降の人です。
    Twitter→https://twitter.com/ehara5?s=09

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    ehara5

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    風降と二十四節気を書きたいという野望(その5)
    師走です。

    021_大雪(12月7日頃) 暦の上でも本格的な冬が到来していた。今週に入ってから、平均気温が十度を割るようになった。ハロウィンの終了後、世間は速やかにクリスマスの準備を整えつつあったが、いよいよ聖夜間近という空気が漂い始めていた。
     風見はコンビニで購入したホットコーヒーのカップを片手に、駅前広場の中央に飾られたツリーを眺めていた。そこそこの大きさで、しかし、これでもかと電飾が施されている。待ち合わせにはちょうど良い目印だ。風見がここにいるのは、イルミネーションを見る約束がある訳ではなく、上司に物品を渡すためだ。
     先日、薄手のカーディガンが欲しいと降谷から連絡が入った。何かの暗号ではないかと一瞬考えを巡らせたが、折り返してみると彼の持っている服では、涼しいか暑すぎるかになってしまうとのことだった。確かに冬に備えて、厚手のセーターやら裏起毛のトレーナーやらを購入した覚えがあったが、体温調節に適した物を買っていなかった。というのは、冬物の備品を渡した際、彼はちょうど薄手のカーディガンを着ていたからだ。降谷のことなので、何らかの理由で汚すなり破くなりしたのだろう。
     冷めかけたコーヒーを口に含んで周囲を見渡すと、帰宅途中のOLに、これから飲みに行くのだろうサラリーマン、別れがたそうに手を握り合っている高校生のカップルが目に入る。風見のように誰かと落ち合う予定らしき人々もいた。目当ての彼は、まだ見当たらない。駅から姿を現すのか、通りの方からやって来るのかも見当がつかないため、隣にたたずむスーツの男に倣って、スマホの画面を見始めた。

    「お待たせ」
     予想外の言葉を掛けられたのはコーヒーをちょうど飲み終わった頃だった。声の方に目線をやると、風見の見覚えのないコートを着た降谷が立っていた。まさか、正面から来るとは思っていなかった。最初から二人で動いているならともかく、外で落ち合う際は基本的に他人の振りをしているのだ。
    「いえ、それほど待っていません」
     降谷の意図が読めず、無難な返事をする。
    「寒くなかったか?」と聞かれたので、そのまま会話を続けることにした。正直、寒かったのだが、わざわざ寒かったと言うのも気が引けて「いいえ」と答える。降谷の方も、本当に心配していたわけではないらしく、適当な相槌を打つと、街の方へ歩き始めた。風見は、新品のカーディガンが入った紙袋を渡せぬまま、降谷の後を追った。
    「やっぱり十二月になると急に寒くなりますよね」
     無言のまま歩くのも変な気がして言う。
    「まあ、立冬もとうに過ぎているし。大寒はもう少し先だが」
     小さく笑って、降谷が答える。行く先を言わぬまま先を進んでいくため、表情が見えないが楽しそうだ。
    「飛田と飲むの、久しぶりだな」と言われて、なるほどこれから飲み屋に連れていかれるのだなと理解した。そして、これが忘年会だということも。かなり早い気がするが、毎年年末には何かしらの会が催され、部下を労おうとしてくれるのだ。
    「そうですね。楽しみです」
     緩やかな坂道に並ぶ店々を通り過ぎていく。ほどなくして路地に入ると、辺りが急に暗くなったように感じる。軒先の行灯が石畳を照らしていた。
     息が白い。
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    ehara5

    DONE風降と二十四節気を書きたいという野望(その13)
    上司からしたら冗談くらいのテンションでも部下は頑張っちゃうとかあると思います。
    011_小暑(7月7日頃) 風見にとって、七夕の時期は曇りや雨が多いイメージがある。七夕の当日は、お天気キャスターが織姫と彦星の逢瀬が達成されるか否かを必ず口にしているが、今年の予報も曇りだった。晴れようが曇ろうが、都心では天の川が見えることはないため、仕事に支障がなければ風見にはあまり関係のないことだった。
     風見が所用で訪れた警察署の玄関には、七夕の笹が飾り付けられていた。金銀の網飾りが生暖かい風になびいて、鈍い光を放っている。多くの警察署では地域の保育園や小学校と連携して、子供たちに七夕の飾り付けをしてもらうイベントが催される。笹のすぐ近くに協力団体の名が掲示してあった。
     色とりどりの短冊には、つたない字で願い事が書き記されていた。ゲームソフトが欲しいだの、友達ともっと仲良くなれますようにだの、子供らしい純粋な願い事が並ぶ。よくよく見てみると、警視庁からのテコ入れがあるのか、交通安全の標語のような文言も入り交じっており、折り紙で作られたパトカーまである。その中に「お父さんがじこにあいませんように」と健気さを感じるものを見つけ、思わず風見は頬を緩めた。
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