Recent Search

    ehara5

    風降の人です。
    Twitter→https://twitter.com/ehara5?s=09

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    ehara5

    DONE風降と二十四節気を書きたいという野望(その13)
    上司からしたら冗談くらいのテンションでも部下は頑張っちゃうとかあると思います。
    011_小暑(7月7日頃) 風見にとって、七夕の時期は曇りや雨が多いイメージがある。七夕の当日は、お天気キャスターが織姫と彦星の逢瀬が達成されるか否かを必ず口にしているが、今年の予報も曇りだった。晴れようが曇ろうが、都心では天の川が見えることはないため、仕事に支障がなければ風見にはあまり関係のないことだった。
     風見が所用で訪れた警察署の玄関には、七夕の笹が飾り付けられていた。金銀の網飾りが生暖かい風になびいて、鈍い光を放っている。多くの警察署では地域の保育園や小学校と連携して、子供たちに七夕の飾り付けをしてもらうイベントが催される。笹のすぐ近くに協力団体の名が掲示してあった。
     色とりどりの短冊には、つたない字で願い事が書き記されていた。ゲームソフトが欲しいだの、友達ともっと仲良くなれますようにだの、子供らしい純粋な願い事が並ぶ。よくよく見てみると、警視庁からのテコ入れがあるのか、交通安全の標語のような文言も入り交じっており、折り紙で作られたパトカーまである。その中に「お父さんがじこにあいませんように」と健気さを感じるものを見つけ、思わず風見は頬を緩めた。
    1770

    ehara5

    DONE風降と二十四節気を書きたいという野望(その5)
    師走です。
    021_大雪(12月7日頃) 暦の上でも本格的な冬が到来していた。今週に入ってから、平均気温が十度を割るようになった。ハロウィンの終了後、世間は速やかにクリスマスの準備を整えつつあったが、いよいよ聖夜間近という空気が漂い始めていた。
     風見はコンビニで購入したホットコーヒーのカップを片手に、駅前広場の中央に飾られたツリーを眺めていた。そこそこの大きさで、しかし、これでもかと電飾が施されている。待ち合わせにはちょうど良い目印だ。風見がここにいるのは、イルミネーションを見る約束がある訳ではなく、上司に物品を渡すためだ。
     先日、薄手のカーディガンが欲しいと降谷から連絡が入った。何かの暗号ではないかと一瞬考えを巡らせたが、折り返してみると彼の持っている服では、涼しいか暑すぎるかになってしまうとのことだった。確かに冬に備えて、厚手のセーターやら裏起毛のトレーナーやらを購入した覚えがあったが、体温調節に適した物を買っていなかった。というのは、冬物の備品を渡した際、彼はちょうど薄手のカーディガンを着ていたからだ。降谷のことなので、何らかの理由で汚すなり破くなりしたのだろう。
    1318

    ehara5

    DONE風降と二十四節気を書きたいという野望(その4)
    降谷さんがいない日の話。
    003_啓蟄(3月5日頃) 通勤ラッシュを過ぎた頃に、風見は家を出た。向かうのは上司の自宅だ。今日は非番だったが、三日ほど家を空ける上司に、飼い犬の世話を頼まれていた。名前はハロという。餌の補充と、健康チェック、余裕があれば散歩に連れていく。ついでに、ベランダ菜園の水やりも依頼されていた。
     風見の自宅から降谷の住む町までは数駅だ。最寄り駅からコンビニに寄り道をして、ハロの好きなおやつを購入する。コンビニを出ると十分程度で三階建てのアパートに着いた。
     そこそこの頻度で訪れる自分を、周囲の住民はどう思っているのだろうと風見は思う。独身男性の部屋に、頻繁に出入りする男がいるのはあまり自然ではない。ゆえに風見は人目の少ない深夜に出入りした方がいいのではと提案したこともあった。しかし、人目を忍ぶように来訪する方がよっぽど怪しいと降谷に言われてからは、堂々と昼間に出入りするようにしている。そのためか、風見がアパートの住民に声を掛けられたことはない。昔の助手に飼い犬の世話を頼んでいるとか、ペットシッターを利用しているとか、降谷が当たり障りのない理由をつけているのもあるだろう。
    3812

    ehara5

    DONE風降:風降と二十四節気を書きたいという野望(その2)
    最終的には時系列順にする予定ですが、書きたいところから書いていくスタイルです。
    015_白露(9月8日頃) 秋の虫が鳴き始めていた。つい一週間前にはセミが鳴いていた気がするが、気づけばセミは仰向けになって道路に転がるようになっていた。仕事終わりに上司に連れられて繁華街へ向かう途中でも、街路の茂みからかすかに虫が鳴いているのを聞きつけたが、風見にはスズムシではないことが分かるだけで、何が鳴いているのか区別がつかない。かといって上司に「なんか鳴いてますね」と声を掛けるのも、幼稚な気がして結局黙って歩くほかなかった。
     ギラギラと周囲を照らす看板の立ち並ぶ道を上司に付いて進んでいるうちに、目当ての店に着いた。歓楽街の中にあるにしては落ち着いた雰囲気の小料理屋で、風見は身内の話もできる類の店なのだと一目で理解した。一方で、秘密の話ができるようなところに連れてこられた自分が叱られるのか褒められるのか、見当がつかなかった。数十分前に風見を誘った降谷は、特別に機嫌がいいというわけでも何か言いたいことがありそうだというわけでもなかった。何を考えているのか読めない顔。それゆえに、風見は降谷の意図が分からず、やや緊張していた。普段、降谷と訪れる店が相席を装えるような大衆的な店ばかりだったというのも、その要因の一つだった。
    2589