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    ehara5

    風降の人です。
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    風降と二十四節気を書きたいという野望(その13)
    上司からしたら冗談くらいのテンションでも部下は頑張っちゃうとかあると思います。

    011_小暑(7月7日頃) 風見にとって、七夕の時期は曇りや雨が多いイメージがある。七夕の当日は、お天気キャスターが織姫と彦星の逢瀬が達成されるか否かを必ず口にしているが、今年の予報も曇りだった。晴れようが曇ろうが、都心では天の川が見えることはないため、仕事に支障がなければ風見にはあまり関係のないことだった。
     風見が所用で訪れた警察署の玄関には、七夕の笹が飾り付けられていた。金銀の網飾りが生暖かい風になびいて、鈍い光を放っている。多くの警察署では地域の保育園や小学校と連携して、子供たちに七夕の飾り付けをしてもらうイベントが催される。笹のすぐ近くに協力団体の名が掲示してあった。
     色とりどりの短冊には、つたない字で願い事が書き記されていた。ゲームソフトが欲しいだの、友達ともっと仲良くなれますようにだの、子供らしい純粋な願い事が並ぶ。よくよく見てみると、警視庁からのテコ入れがあるのか、交通安全の標語のような文言も入り交じっており、折り紙で作られたパトカーまである。その中に「お父さんがじこにあいませんように」と健気さを感じるものを見つけ、思わず風見は頬を緩めた。

     七夕から各寺社の例大祭までの頃は、規模に違いはあれど祭りが連続している。所轄の地域課や交通課が現場に出ることがほとんどだが、大規模なものになると本部が指揮をとることになる。風見も警備計画の確認と祭りの当日の指揮が担当として振り分けられていた。数日後に予定されている下町の七夕祭りでは、警視庁の音楽隊が交通安全パレードを行うことになっている。交通規制をするような規模の祭りで、人出が多くなることが予想される。群衆を狙った犯罪が起こらなければよいが。
     風見は警視庁へ戻る電車内で、先ほど足を止めて眺めた笹飾りを思い出しながら、自分は短冊に何を書こうか、と考えた。降谷から「短冊に願い事を書いて寄越せ」と命があったのだ。降谷の潜入先でも七夕に合わせて店内を装飾するため、店舗に飾る笹を貰いに行ったらしい。笹飾りはポアロの店員と二人で休憩時間を削って生産し、短冊は店を訪れた客に書いてもらって飾るのだそうだ。風見は直接見たわけではないが、客が書いた短冊だけでも十分見栄えがいいはずだ。しかし、懇意にしている人にもぜひ書いてもらおうという、なんとも人懐っこいことを看板娘が言ったらしく、安室透の助手である飛田にも短冊が回ってきてしまったのだ。
     風見裕也としては国家の安寧など漠然とした願い事しか思い浮かばない。正直困る、ということを上司にも伝えたが「梓さんが書いてほしいって言っているから」と返されると、なぜ適当に誤魔化してくれないのかと思い、かといって「無理に書かなくてもいいぞ」などと言われると、書かねばならないという気になる。後になって振り返ると、冗談交じりに書けと命じられただけなので、書かなくても文句は言われないことは分かるのだが、その場では飛田男六が書きそうなことを考えなければならないという気がしてしまった。結局、すぐには思い浮かばず、持ち帰ることになった。
     ふと、車内のドア上のモニターに雑学クイズが流れているのが見えた。短冊に願い事を書く風習は何時代から始まったかという問題だった。風見は知る由もないが、選択肢から平安時代だろうかと目星をつけていると、正解を発表するアニメーションに切り替わる。答えは江戸時代だった。解説には、「江戸時代になると全国的に笹の葉に願いをつるすようになり、技芸や習い事の上達を願っていたようです。」と書かれていた。降谷が同じようなことを言っていたことを思い出す。確か彼は、芸事や習字の上達を願うと言っていた。
     何かしらの上達を願うなら――風見は考えを巡らせ、飛田ならば野球の技術向上を願っておけば、それらしいのではないかと思い至った。昨晩降谷から受け取った短冊はデスクに置いてある。書けば、あとは降谷に渡すだけだ。
     が、降谷と次に落ち合う日時はまだ決まっていなかった。時期を逃すことと慌ただしさへの懸念から、七夕祭りより前に渡したいが、間に合うかは分からない。まあ、間に合わなくても気にするほどのものではないので、会えたら、そして忘れていなければ渡そうと思った。

     後日、飛田の願いを見た降谷が野球に誘ってくることを、風見はまだ知らない。
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    ehara5

    DONE風降と二十四節気を書きたいという野望(その13)
    上司からしたら冗談くらいのテンションでも部下は頑張っちゃうとかあると思います。
    011_小暑(7月7日頃) 風見にとって、七夕の時期は曇りや雨が多いイメージがある。七夕の当日は、お天気キャスターが織姫と彦星の逢瀬が達成されるか否かを必ず口にしているが、今年の予報も曇りだった。晴れようが曇ろうが、都心では天の川が見えることはないため、仕事に支障がなければ風見にはあまり関係のないことだった。
     風見が所用で訪れた警察署の玄関には、七夕の笹が飾り付けられていた。金銀の網飾りが生暖かい風になびいて、鈍い光を放っている。多くの警察署では地域の保育園や小学校と連携して、子供たちに七夕の飾り付けをしてもらうイベントが催される。笹のすぐ近くに協力団体の名が掲示してあった。
     色とりどりの短冊には、つたない字で願い事が書き記されていた。ゲームソフトが欲しいだの、友達ともっと仲良くなれますようにだの、子供らしい純粋な願い事が並ぶ。よくよく見てみると、警視庁からのテコ入れがあるのか、交通安全の標語のような文言も入り交じっており、折り紙で作られたパトカーまである。その中に「お父さんがじこにあいませんように」と健気さを感じるものを見つけ、思わず風見は頬を緩めた。
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