夢だと思いたい 部屋に入ってくる太陽の光が眩し過ぎて目を開ける。頭が痛い。
自室のベッドで目覚めたあたしは欠伸を噛み殺した。眠い。やけに寒い。
(あれ、いつ帰ってきたんだっけ……)
昨日はスマイル遊園地でハロハピのライブがあった。成人した今も、こうしてたまにライブに呼んでもらえるのだから有り難いことだ。
ライブは大成功に終わり、その後メンバー五人で打ち上げに行ったのは覚えてる。
(その後……その後は……?)
「んぅ……、」
思考の最中、自分以外の声がしてびっくりして隣を見る。
あたしの隣ではこころが眠っていた。大人っぽくなった顔も、眠っているとあどけない。
(……いや、そうじゃなくて! なんでこころが此処で寝てるの!?)
必死に記憶を探る。
遊園地ライブは演出が大掛かりになるから準備が本当に大変で、無事に終えられてほっとして、昨日は少しだけ羽目を外して飲み過ぎてしまったんだ。
歩くのも覚束ないあたしを、こころが黒服さんの車で送ってくれたのをなんとなく思い出す。
(じゃあ、そのまま泊まっていったのか)
迷惑を掛けてしまったと反省する。頭が痛いのも飲み過ぎたせいか。
ちょっと吐き気もする。水でも飲もうと、上体を起こして、
「はっ……くしゅ! …………え?」
とんでもない異変に気付く。
寒い訳だ。あたしは服を着ていなかった。下着もなんにも付けていない。本当に生まれたままの姿。防御力ゼロ。
「んん……みさき?」
自分の姿に困惑していると、身動ぎしたこころの毛布が捲れる。なんてことだ。こころも服を着ていない。
えっ、なんで。導かれた答えにあたしは首を振る。違う、そんな訳ない。きっとお風呂から出てそのまま寝たんだ。きっとそう間違いない。
「んん、起きたのね。おはよう……」
眠そうに目を擦りながらこころが上体を起こすので、あたしは咄嗟に毛布を掴んで自分の身体を隠した。対してオープンなお嬢様は服を着ていない事実にも怯まず微笑んだ。視線がどうしても露わになってる胸に行ってしまう自分が情けない。
「お、おはよう。あの、あのさ、こころ。昨日さ……、」
「昨日? ……ああ、」
なんて確認しようか言い淀んでいると、こころは合点がいったようで顔を赤らめた。目を細めるその笑顔がやけに艶を含んでいて、あたしは逆に顔を蒼褪めさせる。
その反応で確信する。待って。確かにこころと付き合ってはいるけど、まだキスがやっとで、そんな関係まで行くなんてまだまだ先の話だと思ってて、
「ご、ごめん!!」
ぐるぐる目を回しながら、あたしは勢いよく謝罪を口にした。
いくら酔っていたからといって、家まで送ってくれた恋人を襲うなんて最低だ。
「美咲?」
「あの、迷惑かけたうえに、そんな、謝って許されることじゃないと思うけど……、あああ、とにかく服持ってくるから!!」
勢いに任せてベッドから飛び降りて、何かこころが着れそうなものを持ってこようとしたが———それは叶わなかった。
床に足を着けた瞬間、あたしはその場にぺたりと座り込んでしまった。なんだこれ。身体に力が入らない。
「無理をしてはダメよ、美咲」
ベッドから降りたこころが、しゃがんであたしの頰に手を添える。それだけで身体に熱が集まっていく。
「昨日は、あたしも無理をさせてしまったもの」
…………ん?
こころの台詞に違和感を感じて、あたしの思考が止まる。
「でも昨日の美咲、とーーっても可愛らしかったわ! つい可愛がり過ぎてしまったもの」
満足げなこころが満面の笑みを浮かべる。下半身が鈍く痛む気がする。
えっ、待って待って。これじゃあ、
(これじゃあ、まるで、)
「美咲はまだ寝ていてちょうだい! 服を持ってくるわね。あと水も。……昨日はたくさん可愛い声を聞かせてくれたから、喉も渇いているでしょう?」
あたしの額にキスを起こしたこころは立ち上がり、そのまま足取り軽くスキップで寝室を出て行った。
その背中を見送って、
「…………そっち!!!?!!??」
ついそんな突っ込みが飛び出した、午前7時。