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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    かおみさ(吸血鬼パロ)

    食欲は理性すらも喰らって この日は真夏日となる為、熱中症に気を付けてください、と朝の天気予報では言っていた。
     だから美咲がCiRCLEのラウンジでぐったりとしている薫を見た時、熱中症だと思って血相を変えた。


    「か、薫さん!? どうしたの、大丈夫?」

    「美咲……?」

    「熱中症……? あたし水持ってるから、これ飲んで、」


     慌てて鞄から水の入ったペットボトルを取り出そうとするが、その手首を薫に掴まれ止められた。
     違うんだ、と首を振る薫の顔色は蒼い。熱中症ではなさそうだが、体調が悪そうなのは変わらない。


    「で、でも……、」

    「少し休んだら良くなるから」

    「それなら尚更、帰った方がいいんじゃ……っ、!」


     いつも人で賑わっているラウンジだが、今は薫と美咲の二人だけだ。まだ集合時間には大分早いので、他のハロハピメンバーが来るのはもっと後だろう。
     一人でなんとかしなければ。焦る美咲が薫を見上げ、——驚いたように、目を見開く。


    「薫さん、それ……?」

    「っ……!」


     美咲の指すものを察した薫が、咄嗟に自分の口元を手で覆い隠す。
     美咲が一瞬だけ捉えたのは、薫の口から覗く鋭い犬歯だった。自分が知る限り、彼女には無かったもの。

     まずいものを見られたと顔を顰める薫だが、心配そうな顔をして見上げてくる美咲の視線に負けて、口元の手を下ろした。
     ちゃんと説明するべきだ、と決心した。


    「……ちゃんと話すよ。此処では話しにくいから、こっちへ」


     立ち上がった薫はフラフラと頼りない足取りのまま、使っていない控え室へと美咲を先導した。





     薫は吸血鬼の家系の者だった。
     元々の赤い瞳に、先程一瞬だけ見えた犬歯。そして今日は夏日で日差しが強い。全てがパズルのように繋がったみたいで、美咲は思いの外アッサリと納得していた。
     吸血鬼が人間の中に紛れている、という話も聞いたことがあった。


    「今日は太陽の光が思ったよりも強くて……。日傘を忘れてしまってね。情けないところを見せてしまった」

    「それはいいけどさ……。大丈夫なの? すぐ治す方法とかないの?」


     依然として薫の顔色は変わらない。
     薫は少し迷ったように視線を彷徨わせた後、家にある血のストックを飲めば気分は良くなる筈、と話した。あまり、この話を美咲にはしたくなかった。


    「……じゃあ、それってさ。あたしの血じゃダメなの?」


     やっぱりそう来たか。薫は心の中で溜息を吐いた。
     美咲の血が飲みたくて、自分の正体を明かした訳ではない。何より、彼女を傷付けることは嫌だった。


    「駄目、ではないが……。あまりお勧めはできないな」

    「なんで? ていうかお勧めとか言ってる場合じゃないでしょ」

    「血を飲む、とはどういう行為か、美咲は分かっているのかい?」


     諭すように問い掛ける。
     人間から血を直接飲むということは、噛むということだ。鋭い犬歯で、その肌を破るということだ。それは献血みたいな医療行為ではない。ただ、自分の腹を満たすことだけを目的とした行為だ。食料への思いやりは存在しない。


    「……噛まれると、相当痛いと聞く。君にそんな思いはさせたくない。傷も付けたくない」

    「でも、薫さんが具合悪いままは心配だし、あたしも嫌だよ」

    「私は休めば大丈夫さ。日が沈めば自力で歩いて帰れる」


     どちらも引かない。このままでは埒があかないし、早くしないとこころ達が到着してしまう。きっと薫は、美咲と同じく他のハロハピメンバーにも自分の正体を隠している。そして、出来れば知らないままでいて欲しい。そう考えている筈だった。


    「……美咲?」


     だから急ぐ必要があった。無理矢理にでも薫を納得させて、自分の血を飲んで元気になってもらいたかった。
     そんな思いで美咲は立ち上がると、座っている薫に抱き着いた。首を傾げ怯んでいる薫の服をずらして肩を露出されると、


    「痛ッ……!?」


     その肩に思いきり噛み付いた。

     薫の悲鳴に罪悪感を感じながら、ぐぐ、と肌に沈めるように歯を食い込ませる。
     口を離せば、意味が分からず呆然としている薫が美咲を見上げていた。


    「やっぱりあたしの歯じゃ血は出ないか。これ内出血になりそう、ごめんね薫さん」

    「美咲……?」


     肩に小さな歯型が残る。
     どういうつもりだ、と薫が問い掛ける前に。
     再び隣に座った美咲が薫の手を取って、自身の首筋へと誘導した。


    「これならおあいこになります、よね……?」


     挑発するような、勝ち誇ったような視線。
     射抜かれた薫は眉を下げて情けない笑い声を小さく漏らす。それは敗北の意であった。


    「……君って子は、本当に……、」


     薫は自分の意思で美咲の首筋を軽く撫でると、その真紅の瞳をぎらりと煌めかせた。
     恐怖を和らげるように頭を撫で、痛みに耐えられるようにその身体を抱き締めると、犬歯を美咲の首筋へとゆっくり突き立てた。


    「……ッ!?」


     最初はぴり、と鋭い痛み。次いで傷口が焼けるように熱くなる。じんじんと鈍くて深い痛み。まるで全身の血を持っていかれそうな、恐怖感。


    「……っぐ、う、うぅ、」


     自分から噛めと煽った手前、痛みで叫ぶなんてカッコ悪い。美咲はただ唇を噛み、涙で滲む視界の中で痛みに耐えていた。
     呻き声が薫の耳に届く。それでもまだ首筋から離れられなかった。もっと欲しい。もっと味わいたい。


    「…………ぅ、ぁ、」


     呻き声が弱々しくなってきて、慌ててやっと口を離した。
     薫の背中に回っていた、シャツをくしゃくしゃに握り締めていた手が緩められる。目尻の涙を指で拭ってやってから、薫は自分の噛み跡をそっと撫でた。


    「ありがとう、美咲。痛かっただろう……?」

    「だ、いじょぶ」


     ちょっと予想より痛くてびっくりしたけど。眉を下げて困ったように笑った美咲が首を振る。
     鞄を漁り手持ちのカットバンを探していると、後ろから声を掛けられた。


    「薫さん、体調は?」

    「ん? ……ああ、お陰で大分良くなった。本当にありがとう、助かったよ」


     顔色も戻り、足取りもしっかりしていた。これなら大丈夫だろう。美咲は安堵の表情になる。良かった。でももう噛まれるのはいいかな。結構痛かった。


    「傷が見えるからカットバンを貼ろう。美咲、もう一度首を見せてくれるかい」


     そう言えば、美咲は素直に首筋を薫へと晒した。今さっき付けた噛み傷が視界に入る。犬歯が刺さった痕。少しだけ血が滲んでいる。

     嗚呼、駄目だ。所詮は応急処置として噛ませてくれただけなのに。
     あんな味を知ってしまったら。


    (また、噛みたくなってしまう)


     無意識に舌舐めずりをしたのは、美咲からは見えることはなかった。
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