芽生え本気で戦って、初めて負けた。
目の前で放たれたあまりに強烈なシュート。
それは無色の世界を生きてきた凪には、あまりに鮮やかで。
試合が終わった後も、壊れたフィルムのようにそのシーンばかりを脳内で再生していた。
二次選考開始までの間行われている地獄のようなトレーニングを終えれば、汗を流してあとはひたすら泥のように眠る、というのが大半だった。
「凪?部屋戻んねーのかよ」
「ん……」
浴場を出たあと、部屋へ向かおうとしない凪に玲王が声をかける。
「先、戻ってて」
「……そーかよ」
遅くなんなよ、とだけ付けて玲王は部屋へ向かった。初めての負けを経験して何かしら思うところがあるのだろう、と、ここ最近の凪の様子を見ていたが、玲王は凪の意志を尊重して多くは聞いてこなかった。
今の凪には、それがありがたかった。
そのまま玲王が向かった方向とは真逆にペタペタと歩き出す。
辿り着いたのはモニタールーム。
慣れた手つきで凪はいつものようにリモコンを操作して、画面に先日の試合を映し出す。
再生が始まると、凪は座り込みただ一点だけを逸らすことなく見つめる。
チームZ。
背番号11番。
「潔、世一」
特別体格が良い訳ではない。
スピードもパワーもテクニックも秀でたものがある訳でもない。
でも、目を離せない。
ラストのパスを受けるまでの凪との睨み合い、そしてあのシュート。
この一連の動作が、凪を惹きつけて離さない。
「いさぎ、よいち」
もう何度呟いたか分からないその名。
潔が映るその映像を、ただひたすら見つめる。
「いさぎ」
気付けば潔が映るモニターに手を伸ばし、触れていた。
──その瞳に、俺を映して貰えたら
それは、どんな心地なんだろう
どんな、世界が見えるんだろう
溢れる想像に、背筋が震える。
──欲しい。欲しい。
「いさぎ」
初めて芽生える感情にどうすれば良いか分からず、助けを求めるように凪はひたすら潔の名を呼ぶ。
次に会えるのはいつだろうか。
二次選考が始まったら?それとももっと後??
早く、もう一度潔に会いたい。
この全身を駆け巡る熱と、それと同時に纏わりつく黒くて重い何かが、そう叫んで求めている気がした。