紡ぎ繭 夢を見ている、はっきりとそう知覚していた。
指先には荒い糸の触覚がある。それは眼前のあたたかい闇から仄かに光を帯びて現れ、手繰り寄せると掌に垂れてあったものは背後の闇へと沈んでいく。先も終わりも知れぬその糸の手触りを、ただ確かめるように前から後ろへと送った。
それには時折絡まった結び目のような瘤があり、また、強く扱けばハラと解けてしまいそうな頼りない部分もあった。そこにきては前後を寄せて強く撚り合わせる。するとそこは清潔でない自分の手垢で薄汚れ歪な塊となった。それでももう千切れぬと安堵すると、また後ろへ送る。
幾時間、もしかすると幾日、そうしていたかしれない。指先が痺れを感じてもなお、糸を送り続けた。
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