「なんだって?」
類は今し方の司のセリフを理解しきれずに尋ね返した。
「だから……。結婚もしていないのに、そういったことはだな……するべきではない、と……」
類は目眩がした。一体いつの時代の話だろうか。しかしその律儀さが彼らしいと言えばそうなのだが。しかし、類はそういったことが司としたかった。もっと触れたいし、独占したかった。
「司くん、その理屈で行くと僕らはいつまで経ってもそういったことができないままになってしまうよ」
「な……! 類はオレとは嫌なのか!? 結婚、してはくれないのか……!?」
わかりやすく絶望を顔に貼り付ける司。
「十八になったらすぐに申し込めるようにバイト代も三ヶ月分貯めたのに……類は、嫌だったのか……?」
気になる発言があったが、本題から逸れるので指摘したいのをグッと堪えて、類は重要なことだけ口にした。
「僕だって、君と婚姻できるならしたいさ。もちろん」
「では何故……」
「無いんだよ、制度が。同性同士が結婚するというね」
「あ……」
司の顔から色が無くなった。今の今までうっかり忘れていたが、自分も、類も、男なのだ。
「できない、のか」
司はよろよろと類に抱きついた。
「こんなに、こんなに好きで、愛しているのに……?」
類は後悔した。軽率に口にするべきでは無かった。もっときちんと話し合うべき事柄だった。
ぎゅうと司を抱きしめ返す。どうして、望む姿で生きていくのがこんなにも難しいのだろうか。
「でも、シブヤならパートナー制度もあるし、世間には事実婚もある。それにいざとなれば認めてくれる国へ行ってしまえばいいさ」
気休めを口にする。ズルと鼻を啜る音がした。
「でも、制度が無いだけなんだよな? 類は、オレがプロポーズすれば、指輪を受け取るつもりはある、んだよな?」
「ああ、もちろんだ」
「なら、いい。今は、それでいい」
司は一層、力を込めて類を抱きしめた。類も同じだけ、いや、それ以上に力いっぱい抱きしめた。
「だからね、僕らがそういったことをするのに婚前も何も無いんだよ」
「へあ!?」
突然話題が巻き戻り、司は思わず奇妙な声を上げた。
「司くんはしたくないのかい? 僕と、そういったこと」
「いや、したいかしたくないかで言えばだな……しかし、いや、あれ……?」
もう一押しかな。類は今だけはと寂しさと悔しさにそっと蓋をして、混乱する恋人を愛し気に見つめた。