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    tukichi

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    tukichi

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    お米さんの「海賊🌟×人間の体になったばかりの無知無知なクラゲ🎈」の三次創作です。無知無知(意味深)まで辿り着けなかった……。今後に期待……。

    ##司類
    ##パロ

    「船長! なんか網にかかってやす!」
     とある海賊団。長い航海の途中、食糧である魚を得るために網で漁をしていた。
    「大物か!?」
     船長と呼ばれた金髪の男は、声を上げた船員の傍へ駆け寄った。
    「大物、というか……いや、デカくはあるんすが……」
    「見せてみろ」
     船員を押し退けて船長が網を引き寄せると、海中からザバァと音を立てて『ソレ』は姿を現した。
    「人!! 人間じゃないか!!」
     急いで引き上げろ!! 船長は持ち前の大声で船員たちに指示を飛ばした。
     徐々に姿を現したソレは、半透明の衣を纏っていた。細長い装飾が網に絡まってしまっている。白磁のような肌、整った顔はまるで人では無いようだ。そして――実際にソレは人間ではなかった。
     上半身は人の形をしているが、腰から下はどう見ても人では無い『何か』だった。半透明のヌルヌルした触手のようなものが無数に生えている。例えるなら、クラゲが一番近いだろうか。
     船員たちは見たことも聞いたこともないその生き物に怯えながらも、ソレを甲板まで引き上げた。網に絡まったままのソレはピクリともせず、ぐったりと倒れている。
    「大丈夫か!?」
     船長は明らかに人では無いソレに臆することもなく、一目散に駆け寄ると胸に耳を押し当てた。とくん……とくん……と微かに音がする。しかし呼吸はしていないようだ。
    「死ぬな……!」
     船長はソレの胸に両手を押し当て力強く押す。ぐっぐっぐっと圧迫されるたびにソレの体が跳ねる。数十回繰り返すと、船長はソレの顎を持ち上げた。
     そして、口付けた。人工呼吸だ。船長はありったけの力を込めて息を吹き込む。
     同時に周囲の船員たちがどよめき出した。船長が口付けた瞬間から、ソレに変化が起きたのだ。半透明の触手だったものが二つの束になり、みるみるうちに人間の足になってしまった。
     爪先まで綺麗な肌に覆われるのと同時に、ソレの体が微かに動いた。
    「――っぷは!」
     船長が口を離した瞬間、ソレは息を吹き返した。綺麗な金色の瞳が、金色の太陽を映す。正確には太陽の光を背後から浴びた船長の金髪だったのだが、生まれて初めて水上で光を目にしたソレは、そのキラキラが太陽だと思った。
    「大丈夫か!?」
     ゲホゲホと咳き込むソレの背中を支えながら船長は尋ねる。
    「――ぁ。……ぅ」
     しかしソレは口をパクパクと動かすだけだ。
    「酷く冷えているな……。すぐにシャワーを浴びたほうがいい」
     船長はソレの背中と膝裏に腕を通して抱え上げた。
    「コイツはオレが何とかするから、お前らは片付けを頼む!」
     そしてそのまま船内に消えていった。
    「……何だったんだ、アレ」
    「化け物か、御伽噺の人魚……とか?」
    「どっちにしろ……」
    「ああ。」
     船長は『死にかけの人間』にしか見えてなかったんだろうな。船員たちは苦笑いを零すと、淡々と片づけに移った。

     × × × ×

     船長はバスタブにソレをゆっくりと降ろす。ソレは珍しげに浴室をキョロキョロと眺めている。シャワーを手に取り、ぬるま湯になるように調整する。
    「ほら、できたぞ」
     船長がお湯をソレにかける。
    「あっっっっつい!!」
     お湯がかかった瞬間ソレは飛び跳ねた。飛び跳ねて、足を滑らせ、ゴンと鈍い音を立ててバスタブに後頭部をぶつけた。
    「大丈夫か!?」
     船長は慌ててソレを抱き起こす。
    「ひどい、じゃないか……急に熱湯を浴びせるなんて……」
    「全く熱湯ではないが……むしろ水と言ってもいいくらいなんだが……?」
     頭を押さえながらソレは文句を垂れた。
    「それより! 体は大丈夫か!? 苦しかったり、痛むところはないか?」
     ソレは自分の体をぐるりと見渡すと、船長に振り返って答えた。
    「頭を打ったところが痛いのと……足が二本しかない以外は普通かな? あ、水中じゃないのに呼吸もできてる」
    「足は二本……だろう? にんげ……」
     そこでようやく船長は思い出した。海水から上がってきた瞬間の姿を。死にかけの顔に気を取られていたが、確かに、コレは人間ではあり得ない下半身を持っていた。
    「ば、化け物ーーーーーー!!」
    「失礼だな。ちゃんと人間になっているよ」
     青い顔をして叫んだ船長にソレは不服そうに答えた。
    「に、人間に……なった?」
    「元々はクラゲだったんだけどね。知り合いが別の生き物になれる薬を作ったとかで、飲んでみたんだ」
    「よくそんな得体の知れないものを飲んだな……」
     荒唐無稽な話に唖然とする船長。しかし、目の前に証拠がいるので信じざるを得ない。
    「クラゲの寿命は短いからね。僕はもう少し生きてみたかったのさ」
    「理由が想像以上に重い」
     本気で同情したような顔をする船長に、元クラゲはケラケラと笑う。
    「君はおもしろろろろいいいいねねねねねね」
     突然、元クラゲは奥歯をガチガチ言わせながら震え出した。
    「やっぱり寒いんじゃないか!」
     船長は改めてシャワーを元クラゲに向ける。
    「うわー! 釜茹でにされ……る……?」
     元クラゲは急に大人しくなると、不思議そうにシャワーから出るぬるま湯を見つめた。
    「熱くない」
    「人間はこの温度ならまず熱くはないだろうな」
    「そうなんだね。さっきはクラゲの感覚が残っていたのかな?」
     大丈夫ならもう少し温度を上げるぞ。船長が蛇口をひねるともわりと湯気が浴室に溢れた。少しずつバスタブにお湯が溜まっていく。
    「気持ちいいね。これ」
    「風呂だ。温まったら呼んでくれ。着替えを持ってこよう」
     船長はバスタブにお湯が溜まったのを確認するとシャワーを止め、浴室を後にしようとした。
    「待って!」
     その背中を元クラゲが呼び止める。
    「僕は類。君の名前を教えてくれるかい?」
     船長は浴室に戻って屈むと、類の金色の目に自分の視線を合わせた。
    「オレは司。この船の船長だ」
    「つかさ……。司くん、君が初めての人間の知り合いだ。どんな付き合いになるかわからないけど、よろしく」
    「ああ、よろしくな。類」
     司は類に手を差し出した。類は不思議そうにそれを眺めている。司は類の手を湯船から引っ張り出し、ぎゅっと握った。
    「握手、だ。人間同士の挨拶のひとつだ。海の中には無かったのか?」
    「手がある生き物の方が稀だからね……。あくしゅ。悪くないね」
    「それはよかった」
     そして今度こそ司は浴室を後にした。
    「……人間って、風呂より熱いんだね」
     類は司と握手した手を眺めながら湯船に沈んだ。
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