「類」
司は自室で困ったように恋人を呼んだ。
「なあ、おい」
「寒い」
司の帰宅は一番乗りだったようで家の中は冷え切っていた。エアコンもつけたが、リビングと吹き抜けで繋がっている司の部屋は温まるのに時間がかかる。
「だからといってなぁ……」
類はベッドに腰掛けている司に後ろから抱きついている。さながらコアラのようだった。脇の下を通して司の胸部を抱き締める腕に力が込められる。梃子でも動かないと言わんばかりだ。
「寒いものは寒いんだよ」
司の背中に顔を埋めたまま類が言う。周りがマフラーに手袋までしている中、薄手のコート一枚で登下校している男が何を今さら……と司は思った。そこまで考えて、コイツは本当は寒くないのではないか? と思い至る。
そっと類の手に触れてみる。別に冷たいわけではない。では何故、類はくっついて離れないのか。恋人に抱きつかれて悪い気はしないが、不思議ではある。
「……あ」
司はそこでようやく思いついた。類は自分からスキンシップをしてこないが、こちらからのアクションを拒むこともない。嫌ではないのだろうが、あまりベタベタすることを好まないのだろうと考えていた。
しかし、神代類という人物は自分の感情に少し鈍かったり、キャパオーバーしてしまった気持ちを上手く発露できなかったりと、自身の想いに対して不器用なときがある。
もし、もしこれもそうだとしたら。
司はにやつかないように気合いを入れて類に声をかける。
「わかったから少し腕を緩めてくれないか?」
優しく腕を撫でると、司の様子を窺うようにゆっくりとその拘束から力が抜けた。司は身動きが取れるようになったことを確認すると、身を捩って体の向きを百八十度回転させた。
司の意図が分からずキョトンとしている恋人の頭を抱き寄せる。仕返しのようにぎゅっと力を込めて、足も類の体に巻きつけた。
「この方が、良くないか?」
ややあって類の腕と足が元のように司を抱きしめた。
「ああ、そうだね」
部屋が十分暖かくなっても離れようとしない類に、自身の予想が当たっていたと司が悟るのはもう少しだけ先の話。