ウィルが実家の手伝いをした日、パトロール帰りを装って終わる頃に顔を出した。
断られるのを覚悟で一緒にタワーに帰らないかと言うと、しばらくじっとこちらを見詰めて、小さく頷いた。
付き合い始めたとはいえ、そんなに急に態度が軟化するわけではないと覚悟していたので、正直かなり嬉しい。
ただ、「ストーカーっぽいから待ち伏せは止めろ」と釘を刺された。
やっぱりバレていたか、と、曖昧に笑って誤魔化す。
今日はサウスでパトロールがあったのは本当だから、多少は許してほしい。
折角だからと、遠回りしてミリオンパークに寄った。
紅葉が美しいから、少し見ていこうとはウィルの提案だ。
日も沈んだばかりで、暮れかけた空に色付いた木々はよく映えた。
ウィルの横顔はいつもより視線が上向きに、それらを愛でるように穏やかな顔をしていた。
手を繋ぎたいとぼんやり思っていると、あ、と声がして、ウィルが立ち止まる。
つられて立ち止まると、ウィルはゴミ箱に捨てられた花束を見ていた。
「どうかしたか?」
声を掛けるも、ウィルは黙ってそれを見詰めるのみで、やがて「何でもない」と言ってまた歩き出した。
もう一度ゴミ箱を見ると、まだ生き生きと鮮やかな花が綺麗にラッピングされて、確かに勿体ない気もした。
草花の好きなウィルだから、ああいうのは胸が痛むのかもしれない。
やがて公園を抜けて道路沿いを歩いていると、ずっと黙っていたウィルがぽつりと呟いた。
「あれ、俺が作ったやつだった」
「え?」
「今日、プロポーズするってお客さんに花束を作ったんだ。……うまくいかなかったのかな」
そう零す横顔は、さっきとは違って少し寂し気に見えた。
「……あー、えっと、まぁ、そういう事もあるだろ? 全部がうまくいくとは限らないだろうし」
「分かってるよ。……たまにあるんだ」
今まで気にもしなかったが、ウィルが言うには、用済みの“商品”が捨てられるのは当たり前のことで、それはどんなに心を込めて作ったものでも仕方のないことなのだという。
「あの花は役に立てなかったんだろうなって、少し残念なだけだ」
仕方ない、という言葉が、自分に言い聞かせているように聞こえた。
あの花束をウィルはどんな気持ちで作ったのだろう。
「……役には立っただろ。ウィルの花はプロポーズの後押しをしたんだ」
ウィルがこちらを振り向く。すっかり日が暮れて、街灯が点き始めた。
「背中を押したんなら、十分だろ」
その人は花束が無かったら言えなかったかもしれない。
結果はどうあれ、伝えることには意味があったはず。
心を込めて編まれた花束は、きっと心強かっただろう。ウィルの願いと応援の気持ちも、届いていたはずだ。
「……慰めのつもりか?」
「え、いや、そういうつもりじゃ」
慌てて弁解しようとすると、ウィルはふ、と笑って前を向いてしまった。
並んで歩いている為か、今日はずっと横顔を見ている気がする。薄暗がりの中で、ウィルは確かに微笑んでいた。
手を繋ぎたい、とまた思った。けれどタワーはもうすぐそこで、拒まれるのは目に見えていた。
「……なぁ、俺がウィルに花束を贈ったら、大事にしてくれるか?」
「当たり前だろ」
ウィルは間を置かずにそう言った。
正直、少し期待していたが、思いの外早い返事に思わずウィルを振り向いた。
「花に罪はないからな」
そう言って笑う横顔は、もう寂し気ではなかった。
胸がぎゅっと締まる。カーっと耳が熱くなり、辺りが暗くなってて良かったと思った。
やっぱり手を繋いでおくんだったと後悔した頃には既にタワーの目の前だったので、人目の無いことを確認してから、ほんの一瞬だけ握って放すと、呆れたように「ヘタレ」と罵られた。
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