ハッピーハロウィン!とお決まりの挨拶に、フェイスは少し唇を尖らせて「はいはい、トリックオアトリート」と言って手の平を差し出した。
お菓子を配り終えて仮装も解いて、最後の一つを渡そうとウエストの部屋に持ってきたのだが、ウィルはフェイスの不機嫌な様子に首を傾げた。
「……なんか、怒ってる?」
「別に、怒ってないよ」
溜息交じりに言われても信じられない。
パンプキンパイの包みをフェイスの手に乗せながら、ウィルは心配そうに顔を覗き込んだ。
「なにかあった?」
ウィルが問い掛けると、フェイスは肩をすくめて見せる。
「何も? 町中ハロウィンで賑やかだったのに、恋人に放って置かれてデートも出来なくて、そのまんま言葉通り“何も無かった”けど?」
丁寧にゆっくり言葉を紡ぐフェイスに、ウィルの表情は固まった。
ウィルはお菓子作りやランタンの手配を早い時期から準備し、空いた時間で試作を重ね、パトロール後も早々に帰宅して、ここしばらくはハロウィン一色だった。
誘いを断ったこともあったかもしれない。とにかく夢中で、言われてみれば確かに顔を合わせるのも久し振りな気がした。
「……ごめん」
「謝らなくていいよ。本当に怒ってないから」
フェイスはパイの包みを解いて一口齧り付いた。咀嚼してこくりと飲み込むと、ウィルににこりと微笑みかける。
「美味しい」
「あ、ありがとう……」
「キースに余った試作品渡してたでしょ。俺らみんなで食べてたから、どんどん美味しくなるって感心してたんだ」
ウィルは褒められているのにチクチクと刺さるものを感じた。後ろめたさにまごついているうちに、フェイスはパイをペロリと食べてしまった。
包装をゴミ箱に捨てるのを目で追って、何を言うべきか考えてると、フェイスがウィルの両頬を手の平で包んだ。そのままぐにぐにと揉まれて、ウィルはされるがまま。
「ねぇウィル、俺よりハロウィン優先したんだから、悪戯も受けるくらいじゃなきゃ、帳尻合わないよね?」
くちゃくちゃにされながらもウィルが頷くと、一瞬頬っぺたを左右に引っ張った後、フェイスがぱっと手を放す。
好き勝手された頬を擦りながら、ウィルはフェイスの表情を伺った。
「悪戯って……何するの?」
「んー、どうしようかな?」
楽し気に細められた瞳にはもう拗ねた色は無く、ウィルはそれに安心して、素直に悪戯に怯えることにした。
その後、サウスの部屋に戻ったウィルは、首元を隠しながらこそこそと自室に戻るも、くっきり付けられたキスマークをアキラに見られ、真っ赤になって布団に潜り込んだのだった。
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