カリカリとドアを掻く音に、寂し気な鳴き声が続けば、勝てる訳もなく。
「……フェイスくん」
「…………」
重なっていた体をようよう起こし、一つ溜息を吐いた。
のろのろとベッドから降りると、裸足でドアの前に立ち、ドアノブを回すと、待ってましたとばかりにニャア、と鳴いて、開いた隙間に体を滑り込ませる。
彼はするりと足元を過ぎて早足でベッドまで行くと、軽々とジャンプして、寝そべるウィルに擦り寄った。
甘えるように鳴きながら、ウィルの体に乗り上げて、裸の胸にすりすりと擦り寄っている。
「ふふ、くすぐったいよ」
ウィルは彼の背中を大きく撫でながら、あやすように声を掛けている。
裸で突っ立ったまま、俺はその光景になんとも言えない気持ちになった。
知り合いから預かったこの猫は、やって来たその日からウィルに大層懐いていた。
後ろをついて回り、頻繁に抱っこを強請り、撫でられると満足そうにゴロゴロと喉を鳴らした。
ウィルは嬉しそうだったが、俺は俺との時間にまで挟まって来るのがほんの少しだけ不満で、『君は甘えん坊だね』なんて嫌味と共に、ウィルの膝の上で丸まった彼の鼻先をつんつんと触ったりして顔を背けられた。
そんな彼とのやり取りを笑いながら見ていたウィルを、今夜こそ独り占めしようと思ったのに。
「一人は寂しかった? ごめんね」
額にキスしてやりながらウィルの手は優しく猫の体を撫でる。
今じゃなければこれも平和な光景なのに。
仕方なくベッドの端に腰掛けて猫をあやすウィルを見詰めた。
さっきまでの熱っぽい目は穏やかに細められ、慈愛に満ちた顔をしている。
ウィルのこんな優しさや穏やかな表情が、平時ではとても好きなそれが、今は自分に向いていないのが不満で、あまりいい気分じゃない。
いじけた俺に気付いたのか、ウィルは上体を起こすと彼の両脇に手を差し入れ、そっと持ち上げてから抱え直した。
そのままベッドを降りてドアを開けると、彼を隣の部屋に降ろした。
「ごめんね、もう少し待ってて」
隙間から様子を伺いながら、ゆっくりドアを閉める。
ウィルはベッドまで戻ってくると、苦笑して俺の頭を抱き締めた。
「機嫌直して」
「別に……どうもしてないけど」
ウィルは彼にしてやったように、俺の頬やこめかみに優しくキスを落としていくので、頭を撫でるその手を取って、指先にキスを返した。
「俺も寂しそうに鳴いたらウィルは抱いてくれるの?」
「鳴かなくても、いつでも抱き締めるよ」
唇を強請るとすぐに降りてくる。宥めるような言葉が気になるけれど、ドアの向こうで静かになった彼に免じて、一先ず忘れることにする。
「今は俺だけのウィルになって」
そう囁けば、ウィルはにかむように笑って、赤くなった顔を誤魔化すように両腕で俺の頭を抱いた。
再びベッドに体を沈め、触れ合ってキスを交わしながら、ニャア、と鳴いて見せればウィルは可笑しそうに笑って、いい子いい子と俺の頭を撫でるのだった。
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