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    原神 / ガイアとでディルックの再会と決別のはなし(未発表の地理関係は書き手の想像によるものです。)

    暁に截つ① 国境を超えたのはすでに日没に近い時間だった。
     風龍廃墟を右手に望む崖の上に立って、かれはかつて暴君が治めたという荘厳な都市を眺めた。無人の王都には往時のきらびやかさなど見る影もなく、すでに魔物の巣窟と成り果てている。四方を聳り立つ山地に囲まれた天然の要塞。そこから南に下ればまもなくかれの故郷が見えてくる。足を速めれば今日中にはたどり着ける場所だ。
     しかしディルックはその場を動かなかった。
     山際に茜色の太陽が音もなく沈んでゆくのをただ眺めている。
     時をおかず日は暮れるだろう。
     夜は魔物の領分である。

     四年にも及ぶ放浪の末、モンドへ戻ることを決めたのは、半ば諦念の入り交じった決心からだった。
     父を死に至らしめた遠因。それを滅ぼすにはおのれの手ひとつには余ること。そして出自は違えど、自分と志を同じくし(そして同量の熱量をもって)ファデュイに立ち向かう地下組織があること。それが血まみれた旅路で得た収穫だった。
     敵はあまりに強大で狡猾だ。
     ただがむしゃらに剣を振るえばどうにかなる問題ではないのだ。
     それはディルックにも理解できた。
     そしてそれを理解するのとともにひとつの決意がディルックの胸に芽生えた。かれの内なる声は帰郷を告げている。
     その声を背に重く負いながら、しかしディルックが故郷への道をたどるのにはすこしの時間を要した。
     かれが戦いに倒れたのは遠くナタの地。そこから素直にモンドへもどるのなら璃月を経由するのが最も早い道程だ。だがディルックはそれを選ばず、北回りにスネージナヤからフォンテーヌを経由してモンドへ足を踏み入れた。その回り道がディルックの、故郷に対して抱えているわだかまりそのものであったのかもしれない。
     しかしモンドの峻厳な山の上に立ったとき、頬を撫でる風にどうしようもなく懐かしさを感じることに気付いて、ディルック・ラグヴィンドは軽い衝撃を受けた。
     乾いた風に草木の香りが混じる。その風はまるでかれの帰郷をよろこび迎え入れるようにディルックの身体を撫でた。そんなふうに感じた。そんなふうに自分が感じることに、ディルックは慄きさえしたのだ。
     ーー 一度は捨ててもいいとさえ思ったこの国に、まだこれほどの懐かしさを感じるとは!
     苦い思いを呑み込むことさえできず、ディルックの足はそこで止まる。
     南に視線を向ければ、もうそこにふるさとのぶどう畑が見える気がする。風晶蝶の音のないひらめきも。
     だがディルックは進めなかった。
     逡巡し、かれはまたひとつ決断する。ともかくも背後に迫った夜をやり過ごさなければならない。
     ディルックは手近な場所で野営することに決め、森の中に分け入った。沢にほど近い場所に腰を落ち着け、火をおこして携帯食を口にする。異国を放浪していたときにあった緊張も、もはやない。ここは騎士団時代の訓練でも、それ以前にも、幾度となくすごしたモンドの山中だ。
     そしてやはり思い知る。
     ここがどうしようもなく自分の故郷であるということに。

     風に混じって時おり狼たちの遠吠えが聞こえる。奔狼領が近いせいだろう。それ以外はまったく静かな夜だった。
     焚き火の揺らぎを眺めながら、自然とディルックの思考は自分の深いところへ沈んでいく。
     モンドには戻ってきた。
     明日にはアカツキワイナリーへ戻らなければならないだろう。
     ここまできて何を迷う必要がある。自分には使命があり、それに殉ずるのだと、そう、決めたではないか。
     そう叱咤をしてみるものの、ディルックのなかのなにかが揺らいでいる。
     もう二度と、決して揺らぐまいと焼き締めたはずの心がくじけそうになる。
     ディルックはそれが、このモンドという国土に自身が抱く懐かしさからくるものだと理解していた。それはかれの亡き父に対する思い、そのものだったからだ。


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    DOODLE匋依 / デキてる / ちょっとはやめのクリスマス小話
    クリスマスソングも弾かないで 街がイルミネーションに彩られている。
     地上26階から見下ろすと、ひかりのつぶてを纏う木々はまるで海の底に沈んだ流れ星のようにみえた。いつもより思考がロマンティックになっているのは場の空気に酔っているからだ。首筋に細く湿った吐息がかかる。煙草と石鹸と匋平の香水のかおり。はだけたバスローブのした、膚を撫でる手つきはやさしかった。

     これまでクリスマスというものに特別な思い入れをもったことはなかった。年に何度かある掻き入れ時のうちのひとつで、年の瀬も近いから人々が浮足立って賑やかしい、その空気感が心地いい。依織にとってクリスマスとはながらくそういうイベントだ。
     もちろん楽しみもあって、弟たちとパーティもすれば、プレゼントを贈り贈られすることもある。先代翠石が存命だったころも同様で、ど派手な宴会(あれはパーティと形容できるものではない)が行われ、大量の酒がふるまわれたあげく、泥酔した組員たちによるビンゴ大会などが催されていた。若いころの依織はどちらかというと会の裏方に回ることが多く、宴もたけなわのころには邸のキッチンなどで一服するのが常だった。そういうときに決まって親父がひょっこりと顔を出し、「袖の下っちゅーやつや」などと冗談を言いながら贈り物をしてくれたのを覚えている。いつまでもガキじゃねぇんだと嫌がる依織の心情を思いやってかプレゼントとは言われたことはなかったが、あれは間違いなく親父からのクリスマスプレゼントだった。だから依織にとってクリスマスとは家族のためのイベントだ。
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