暁に截つ① 国境を超えたのはすでに日没に近い時間だった。
風龍廃墟を右手に望む崖の上に立って、かれはかつて暴君が治めたという荘厳な都市を眺めた。無人の王都には往時のきらびやかさなど見る影もなく、すでに魔物の巣窟と成り果てている。四方を聳り立つ山地に囲まれた天然の要塞。そこから南に下ればまもなくかれの故郷が見えてくる。足を速めれば今日中にはたどり着ける場所だ。
しかしディルックはその場を動かなかった。
山際に茜色の太陽が音もなく沈んでゆくのをただ眺めている。
時をおかず日は暮れるだろう。
夜は魔物の領分である。
四年にも及ぶ放浪の末、モンドへ戻ることを決めたのは、半ば諦念の入り交じった決心からだった。
父を死に至らしめた遠因。それを滅ぼすにはおのれの手ひとつには余ること。そして出自は違えど、自分と志を同じくし(そして同量の熱量をもって)ファデュイに立ち向かう地下組織があること。それが血まみれた旅路で得た収穫だった。
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