Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    HayateFuunn

    @HayateFuunn

    @HayateFuunn

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 64

    HayateFuunn

    ☆quiet follow

    パロで花吐き病のヴィク
    相手は未定

    「……、ぐ、っ」
    口元を抑えた手に吐き出されたものは、およそ通常では考えられないものだった。
    「……はなびら……?」
    手のひらいっぱいにこぼれ落ちたのは、深紅に染まった薔薇の花びらだった。



      *  *  *  *  *



    「え……花吐き病? ヴィクが?」
    報告するなり素っ頓狂な声を上げるノヴァに、ヴィクターは複雑な心境でじとりと睨む。
    先日、薔薇の花びらを吐いた。
    正式名称『嘔吐中枢花被性疾患』――通称『花吐き病』。そういう奇病があることは知っていたが、ヴィクターだってその病と自分は縁がないものだと思っていた。
    花吐き病に罹患するのは、誰かに恋をしている者、かつ、他の罹患者の花に触れたことがある者のみだと、奇病の類に興味を持ったときに一度読んだ文献には記してあったからだ。
    ノヴァがシオンと恋仲になった時も、ポップコーンパーティで恋愛映画を見た時も、ヴィクターは普段と同じすまし顔でいた。身の周りに花吐き病の罹患者はいなかったはずだし、ヴィクターがこれまでに触れて来たことがある花など花屋で購入したものばかりだ。
    さすがに感染源となる花を売り物にはしないだろう。
    「へぇ……ヴィクが、ねえ~?」
    「言いたいことがあるならどうぞ」
    「いやあ、ヴィクにも春が来たんだなあと思って」
    最初こそぽかんとしていたノヴァだったが、理解が追いつけばそそくさと野次馬に早変わりだ。
    どことなくにやけているノヴァを張り倒したい衝動に駆られたが、理性で抑え込んで溜息をつく。
    「体内から花びらが出てくるという時点で理解しがたいのに、当事者になるなんて思ってもいませんでした」
    「そうだねえ。花弁については、血液が何らかの原因で凝固して花びらみたいな形になって吐き出される……喀血や吐血の亜種みたいなものっていう巷説はおれも聞いたことはあるけど。それも憶測に過ぎないし、せっかくだから分析しちゃう?」
    「そう言うつもりで来たんですよ。花びらは集めてこちらに詰めてありますので。貴方は大丈夫かもしれませんが、一応素手で触れないように」
    「分かってるよお」
    白衣のポケットに突っこんでいたミニボトルを取り出して机に置く。
    ノヴァは興味深そうにしげしげと眺め、ヴィクターはこの時あくまでこれは自分の吐瀉物だということに気づき、なんだか居た堪れなくなりこほんと誤魔化すように小さく咳払いをした。
    「あまり、じろじろ見ないでください」
    「あ、ごめんごめん。でも初めて見た、本当に血みたいな色してるね」
    「一度自分でも軽く解析してみたのですが、ノヴァが言う巷説のように血液が凝固したものと特定するに値する結果は出ませんでした」
    「ふぅん? サブスタンスが絡んでたりするのかなあ」
    「その線も考えましたが、この疾患はサブスタンスが出現するよりずっと前からあるとされています。サブスタンスが絡むとしたら、元々存在していた病に干渉することで性質が変化したか、でしょう、か、ぅぐ」
    仮説を説いていたらせり上がって来た不快感に、ヴィクターはデスクに片手をついてしゃがみこむ。
    口元を抑えた手のひらからは、やはり赤い花びらがこぼれ落ちた。
    「ヴィク、大丈夫?」
    「……は、い。すみません」
    さすがに心配したノヴァが背をさすってくれたが、ただの気休めにしかならない。
    「解析、おれのほうでもやってみるからヴィクは休んでなよ。恋がどうのこうの以前に、吐くの苦しいだろ?」
    「いえ……いえ、はい。少し……ですが」
    ヴィクターの様子に考え込んだノヴァは、少しして名案を思い付いたとばかりに手を叩く。
    「じゃあさ、ヴィクは通説に則って治療してみたら?」
    「通説?」
    「花吐き病を完治させる方法は、片想いの相手と結ばれることとも言うでしょ」
    ヴィクターは切れ長の目を丸くして瞬きをする。
    「仮にも病が、そんなおとぎ話のような治療法で通用するとは思えません」
    「先人の知恵ってやつだよ。昔から廃れず言われてきてるんだから、やってみる価値はあるんじゃない? 駄目なら駄目で噂は噂に過ぎなかったっていう証左にもなるでしょ」
    「……なるほど。あまり腑には落ちませんが、理にはかなっています」
    溢れる花びらを見つめて、ヴィクターはしばし黙り込む。
    ノヴァは床にこぼれた花びらを手袋をしてから一枚つまみあげ、顕微鏡の準備を始める。
    「……ノヴァ、どうしましょう」
    「なにが?」
    座り込んだままノヴァを見上げたヴィクターは、困ったように眉を寄せて首を傾げた。
    「片想いの相手とやら、心当たりがありません」



      *  *  *  *  *



    花吐き病とは、片想いをこじらせてしまった者が罹患する奇病であり、治療法はその恋が実ることのみである。
    どれだけ文献を漁っても、並べられている文字はそんなおとぎ話のような文言ばかりだ。
    何度も目を通した医学書を閉じ、ヴィクターはふぅと小さく息をつく。
    最初に症状が現れた日から、すでに一週間。幸いまだ生活に深刻な支障が出るほど症状は酷くないが、司令部の判断で大事をとって特務部としての活動はパトロールのみ、イクリプスと遭遇した場合は戦闘を避けることと制限されてしまった。
    つい先日、特務部のヒーローとしての活動にちからを入れると誓ったばかりなのに早速破るなんて、悪いことをしている気分になる。
    そうこぼしたとき、ジェイはその気持ちがあるなら十分だと言ってはくれたのだが、ヴィクター自身が納得できないままだった。
    しかし、吐くのにも体力がいる。鍛えているおかげか、こう言った体調不良の類はほとんど経験してこなかったためにより心身に負荷がかかっている。
    胸の辺りにずっとわだかまっている吐き気による不快感と、花びらを吐くたびにじわじわと削られていく体力とで疲弊していることは事実だった。
    小さな瓶に詰めていた花びらは、その小瓶だけでは収まらなくなりミニサイズのペットボトルに詰め替えた。しかしこれもそろそろいっぱいになってしまいそうで、次の入れ物を考えなければならない。
    ノヴァが解析をしているが、ヴィクターがしたのと同じようにあやふやな結果ばかりで進展はない。
    「……私が、誰かに恋をしている、なんて」
    何度も何度も考えるが、やはり心当たりは思い浮かばない。
    行動範囲も交友関係もさほど広くないヴィクターにとって、エリオスの関係者ぐらいしか候補になりえる人物がいるとは思えない。
    マリオン? 彼のことは赤ん坊のころから知っている。彼がそうならさすがに自分でも気づくはずだ。
    レン? 確かに世話を焼いている自覚はある。しかしそれは本人にも伝えたとおり赤ん坊の世話をするのと同じ感覚だ、恋とはまた違うだろう。
    ガスト? チームの雰囲気が氷点下だった時から彼だけが皆のことを気遣っていたことを知っている。しかしだからと言って、恋として好きになったかと言われると違う気がする。
    こんな風にひとりひとり思い浮かべては、いいや違うと思考を振り払うことを繰り返す。
    そもそも恋とはなんなのだろう。
    どういう気持ちを持つことが恋となるのか、ヴィクターには分からなかった。
    好ましいという感情があればそれは恋になるのだろうか。
    なるのであれば、ヴィクターはエリオスの関係者ほぼ全員に恋をしていることになる。
    さすがにそれはないだろうと打ち消したが。
    恋愛を題材にした映画や小説は、登場人物たちの感情の理解はある程度できるが、それを自分に当てはめようと考えるとどうもうまくいかない。
    理解はすれど共感ができないのだ。
    作品ごとにキャラクターたちが抱く恋を構成する感情がひとりひとり違うことも、ヴィクターが混乱する要因のひとつだった。
    ある者は一目ぼれ、ある者は幼馴染、ある者はライバルと意識していたものがいつの間にか。
    それぞれをひとつの物語として楽しむことはできるのだが、いかんせん自分が当事者になるとどの心境が一番当てはまるのかまるで見当がつかない。
    彼女が複数いるというフェイスに聞いてみたり、ジェイやリリーに聞いてみたり、ヴィクターも色々と試してはいるのだ。
    ノヴァに聞くことだけは彼の事情を慮って遠慮したのだが。
    そして彼らから返ってくる言葉も三者三様で、何が恋という定義の正解なのかが分からない。
    ひとを好きになるということ、愛するということ。
    愛を冠するヴァレンタインの名を持ちながら、愛に関してヴィクターはあまりにも未熟で無知だった。
    「オズワルド……私は、どうすればいいのでしょう……?」
    虚空に問いかけても当然ながら返事が返ってくることなどあるはずもなく、ヴィクターはベッドに沈み込んで花びらを一枚こぼした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏😭😭😭😭👏👏👏👏💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    HayateFuunn

    DONE貴方はノヴァヴィクで『名前を呼んで』をお題にして140文字SSを書いてください。

    140字をゆうに超えた
    まだお互い上手くやれていた頃
    ヴィクターと呼んでみてください。
    唐突な言葉にヴィクの意図を掴みあぐねて、瞬きをして振り返る。
    ソファで寛ぐヴィクは向こうを向いていて表情は読めなかった。
    「えと……ヴィクター?」
    ひとまず望まれるままに呼んでみるも、違和感が物凄い。
    ヴィクターと呼んだのなんて、それこそ出会った頃の初めの数回だ。たった二文字言うか言わないかだけなのに、他の人は皆ヴィクターと呼んでいるのに、彼の名前がヴィクターであること自体が間違いのような気さえしてしまうのだから、慣れというものは不思議だ。
    ヴィクはヴィクで押し黙ってしまうし、本当に何がしたかったんだか。
    「ヴィク?」
    「……顔が見えなければあるいは、と思いましたが。似ていませんね」
    くすくすと肩が揺れて、ヴィクのしたかったことを理解した。複雑なようなそうでもないような。ヴィクの声音はなんとなく楽しそうだっだから、まあいいか。
    ヴィクはそれ以上何も言わなかったし、俺も特に追及する気はなかったからモニターに視線を戻す。
    ヴィクが飲んでいるエスプレッソの香りだけがふわりとラボに漂った。 464

    HayateFuunn

    DONEノヴァヴィクのつもりでノヴァヴィク未満のノヴァとジャクリーンちゃまによるヴィクの髪をラプンツェルにしちゃおうみたいな話(?)3章のEDスチルが可愛くて
    メインストの流れはガン無視しているので普通に仲いい

    捏造幼少期・ヴィクのパパとママの容姿を捏造してる描写・最後の方の終わり方がなんか納得いかない などなどの懸念材料があります
    珍しく外に出ていた。
    ジャクリーンが外に行きたいと言い出して、それならと本を読んでいたヴィクも誘って連れ出そうとしたんだ。
    ヴィクには読書の邪魔だとか真顔のまま不満そうに言われたけど、最終的には読んでいた本を抱えて、ついでに分厚い本を二冊ほどおれに押し付けるように持たせつつ、大人しくついてきてくれた。
    本はめちゃくちゃ重かったけど、拒んだらヴィクは絶対についてきてくれないから、まあこれくらいは対価だと思って甘んじて受ける。
    外と言っても父さんの研究機関にある小さな中庭だ。
    そんなに広くなくて、円形の小さな開けた空間のど真ん中にいちょうの木が一本どんと植えてあってその木を見れるように四方にベンチが置いてあるだけ。
    それでもジャクリーンははしゃいで駆け回っているし、日差しもちょうど差してきてぽかぽかで気持ちよくて、その日差しを浴びるベンチで読書しているうちにヴィクの機嫌もいくらか直ったみたいだ。廊下を歩く研究員の大人たちがおれたちを見つけて手を振ってきたから振り返す。
    ヴィクの髪は陽の光を透かしてちかちかと瞬いて見える。
    そっと触ってみるけど何も言われなかった。かなり集中して読んでいるらし 3876