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    #青北茶会 で完成させるかもしれないし、このままになるかもしれない

    アイブルーノースの研修チームのメンター部屋で、ヴィクターたちが制服に着替えているとぽよんぽよんと可愛らしい足音を立ててジャクリーンが入ってきた。
    「ヴィクターちゃま、マリオンちゃま、おはようございますナノ」
    「おはよう、ジャクリーン」
    「おはようございます、お転婆ロボさん」
    朗らかな笑顔で挨拶を返すマリオンに数瞬遅れて、ヴィクターも挨拶をする。
    二人とも粗方準備は終えているが、ヴィクターはどことなく動きがぎこちない。
    目を閉じたまま、テーブルの上に置いたものを手探りで手に取っている。
    「ヴィクター、それレンから借りてた文庫本だぞ」
    「おや……。ありがとうございます、マリオン。このあたりにスマホはありますか?」
    「そこから右、眼鏡と一緒に置いてある」
    マリオンの指示に従い右手を滑らせ、なじみのある眼鏡とその下の端末の感触に行きついて、ヴィクターはほっと息をつく。
    「ああ、ありました。重ね重ね、ありがとうございます」
    「別に……。というかオマエ、そんなんで仕事する気なのか」
    「さすがに外出の許可は出ませんでしたが、タワー内なら各施設がどこにあるか把握していますので、迷うことはありませんよ」
    マリオンはどことなく不服そうな表情だが、ヴィクターはそれに気づかない。
    スマホを制服のポケットに入れ、眼鏡をかけたヴィクターはお先にと言ってリビングへ向かう。
    マリオンは小さくため息をついて、じっと眺めていたジャクリーンを抱き上げてあとに続いた。
    リビングのキッチンにはガストがいて、朝食を作っているところのようだった。
    「おはよ、ドクター、マリオン……と、ジャクリーンもいたのか」
    朗らかに挨拶をするガストに三人もそれぞれに返事をし、ヴィクターはキッチンへ向かう。
    「卵料理ですか?」
    「おう、エッグベネディクト」
    「何かお手伝いすることはありますか?」
    「うわ、ドクター危ないって」
    「食器の位置ぐらい分かりますよ」
    「さっき自分のスマホの場所が分からなかったくせに」
    「スマホはあまり重要視していないもので、決まった置き場所というものがありませんから」
    しれっと返すヴィクターと、困ったようにマリオンを見つめるガストに、マリオンは再び息をついた。
    「ヴィクター、ボクがやる。皿の位置は分かってもどれが誰のかまでは分からないだろ」
    「そんなもの決まっていましたっけ」
    「今ボクが決めたんだ!」
    マリオンは食い下がるヴィクターを入れ替わる形でキッチンから追い出す。
    ヴィクターもヴィクターで、手伝いを拒否されて少し不服そうだ。
    しかしこればかりは、ガストもマリオンの味方にならざるを得ない。
    「えー……と、あ! じゃあさ、ドクター、レン起こしてきてくれよ。さっき一回起こしたけど、多分また寝てるから」
    「……、分かりました」
    少しの間はあったが、ヴィクターはようやく折れてルーキー部屋に向かってくれた。
    ガストは思わず安堵のため息を深々とつく。
    「はぁ~。ドクターに悪いことしちまったなあ、せっかく手伝ってくれようとしてたのに」
    「あの状態でおおかた普段通りに動いているアイツがおかしいんだ。うっかり怪我でもしたら、大したことなくてもノヴァが大騒ぎするに決まってる」
    ――うわあああんヴィク! ばか! ばかばかばか! 部屋で怪我するならタワー内の散策も禁止にするからね!?
    たとえかすり傷程度でも、取り乱して泣きわめくノヴァの姿が容易に想像できてしまい、ガストは苦笑いをするしかない。
    まったくもってかの博士は、家族への愛情が突き抜けているのだ。過保護なくらいに。
    そしてノヴァにとっては、マリオンだけでなくヴィクターも当然のように家族にカウントされているのである。
    「イクリプスが持ってたサブスタンスの影響……だったよな」
    「ああ。逃げ遅れた市民を庇って、ということらしい。現物はイクリプスが持っているから、いつまでこの状態が続くか詳しく調べられないとノヴァが言っていた」
    食器棚からジャクリーンの分も含めた五人分の食器を取り出しながら、マリオンは苦虫をかみつぶしたような顔をする。
    マリオンが取り出した皿にガストが料理を盛り付け、ジャクリーンは冷蔵庫からミルクを取り出してご機嫌でコップに注ぐ。
    先日、ヴィクターはパトロール中にイクリプスと遭遇し、戦闘に発展した。
    その際に敵の攻撃により視神経にダメージを負い、現在失明状態となっている。
    厳密にはとてもうっすらとは見えているらしいが、どれほど近づいても輪郭すら捉えられず、ぼんやりとなんとなくここは青っぽいだとか、ここはおそらく赤っぽい色があるだとか、そういうことが分かる程度で、とても日常生活に支障はないと言えるレベルではない。
    しかし当の本人は何故かそれほど焦っておらず、タワー内なら普通に生活ができると豪語する。実際にタワー内の、トレーニングルーム、ラボ、屋上などに迷わず行けるかという司令が出したテストも難なくクリアしてしまって全員を黙らせ、タワー内でなら自由に行動していいという許可をもぎ取ったのである。
    データの入力などは音声でもできるが、当然限界はあるので満足に研究ができないということは不満なのだそうだが、普通はもっと不便が出てくるもんじゃないのかとガストはこっそり思っている。
    以前記憶喪失になった時も、こちらが拍子抜けするほど冷静で落ち着き払い、勝手に察してくれて恐ろしく話が早かったことを思い出す。
    この反応は彼が天才たる所以であり、ディノを見てひっくり返ったというキースの反応の方が一般的なのだ。きっと。
    「まあ、ドクターらしいっちゃらしいけど」
    これで彼が見えない、とパニックにでもなっていたら、こちらまでパニックになっていただろう。
    なんだかんだで頼りにしていたヴィクターがそんな風になってしまったらきっと、チーム全体が泣きべそをかいてしまう。
    ジェイがヴィクターは常に余裕があると評しているが、実際その通りだ。
    粗方朝食の準備が整ったところで、ルーキー部屋から眠そうに目をこすっているレンがヴィクターと共に現れた。
    「おはよ、レン。もう朝食できるから、顔洗って来いよ」
    「……ああ」
    「ドクターも座ってくれ、レンが戻ったら一緒に食べよう」
    「はい」
    座る位置はこの一年で全員、なんとなくの定位置が決まっているのでそこに座る。
    ジャクリーンはマリオンが持ってきたスツールに座り、ヴィクターの手を取ってテーブルの上の、どこに何があるかを教える。
    「ヴィクターちゃま、こっちがナイフで、お隣がフォークナノ」
    「ありがとうございます」
    少ししてレンが戻り席につき、ノースチームの少しいつもとは違う日常が始まった。
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