灰色のスパークル
魈は望舒旅館の最上階まで伸びる大樹の太い枝に座り、遠くにある孤雲閣を眺めていた。
近頃、この国はとても穏やかだ――魈は最初こそ警戒の気持ちを込めていたが、何も変わらぬ孤雲閣とその周りに広がる煌めく海面を見ている内に、ただその景色を眺める格好になっていたことを随分と呆けてから我に返る様に気が付いた。
風が吹いて周りの細い木の枝や葉がそよぐ。魈の髪もその風に乗る様にふわりと浮いた。柔らかい風に心落ち着かせていると、強い風の気配がして、間もなく頭上の枝葉がざざっと大きな音を立てた。次の瞬間には魈の周りにもその風がやってきて、体の前から後ろへと流れていく。翡翠色の髪が舞い、近くの枝葉も同じようにしなった。
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