リパ納(納虐)前提の占納「すみません、ボクもう付き合ってる人いるんで。」
ここはエウリュディケ荘園の納棺師、イソップ・カールの部屋。
今、僕イライ・クラークはこの部屋の主のイソップに告白してフラれた。
「…あぁ、そうなのか…」
やっぱり僕も人間だ。こういう時に彼をしっかり応援しようという気持ちもあるが
「やはり少し辛いな…」
僕は消えそうな声でそう呟いて
「? 今なにかおっしゃいましたか?」
「ううん。なんでもないよ!変な空気にさせちゃってごめんね!」
必死に場を和ませようとにっこりと笑い、話を変えてみた。
「てか、イソップくんって恋人いたんだね!どんな人なんだい?もしきして荘園に来たのもその恋人さんが関係あるのかいあ、それとも荘園の中の人かい」
自分はフラれた。彼は僕に気がない、そうわかっていても彼がどのような人に恋焦がれるのか、少し興味があった。
僕が食いつき気味に話すと彼は少し顔を赤くして「あ…えっと…」言いながら照れているのか頬を照らしている。
あぁ、この顔が僕を思って向けられたらどれだけ嬉しかったか…
でも僕はやはり、彼がもう想っている人と一緒になれているなら諦められる。覚悟はしていたことだから。
「えっと…ですね、ぼ、ボクがお付き合いしている方は…」
そして彼はもじもじしながら自分の大切なものを人に自慢する子供のような笑顔で
「…リッパーさんです。」
「…え」
あの殺人鬼の名を口にした。
あまりに驚いてしまい僕は情けない声を出してしまったが彼はそれを気にすることなく話し始めた。
「リッパーさんとは僕が苦手なはずの人との会話を楽しみながらできるんです。それに、すごく紳士で僕がどんなミスしてもカバーしてくれて、僕のことをとても想ってくれていて、僕がこの前うっかりケガしちゃったら優しく治療してくれて」
そこまで言うと彼は僕に優しく微笑んで
「ずっと、いっしょにいたいなぁって思っちゃうんです。」
僕は言葉が出なかった。
違う、男だろイライ・クラーク。彼を止めろよ。
そんなんダメだって、ハンターと、しかも前世が殺人鬼のやつと一緒だなんてダメだって。
言えよ。ほら、彼のために…
「…そっ…か…わかった。ごめんね急に告白なんてしちゃって、これからもずっと同じサバイバーとして友達でいようね。」
違う!ホントに言いたいことはそんな事じゃないだろ!
「…理解していただきありがとうございます。イライさんのお気持ちに添えずすみません。」
「気にしないでよ!末永くお幸せに!また明日のゲームで会おうね!」
僕は笑顔で微笑み、彼の部屋から出て自室に向かった。
…馬鹿
『なんで止めてあげなかったの?』
声が聞こえた。もうこの世にはいない、僕にとって大切だった人の声が
「…止めたかったさ。だけど、無理だよ。」
『どうして?』
彼女は僕に聞き返す。
「…僕には、彼の思いを止める勇気も…彼に嫌われても行ける覚悟なんてなかった…!」
自分でもわかる。意気地無しだって、そんなの彼のためになんかならないって。
『イライは、本当にあの人が好きなんだねぇ』
彼女が少し悲しそうで、ほんのり嬉しそうな笑顔で囁いた。
「あぁ、もしかしたら僕がこの人生で1番愛した人かもしれないな。」
『あはは、それ私の前で言う?ひどぉい。』
「ちがっそういう意味じゃ…!」
僕が慌てて説明しようとすると彼女は『ふふ、分かってるよ。』と楽しげに笑っている。
「君を救えなかったこと、今でも後悔してるんだ。」
僕がそう今まで、いや今でもずっと思っていることを口にすると、彼女は微笑みを絶やさずに言った。
『大丈夫だよ。だって、イライはもう不知の病って言われて私を、諦めずにずっと看病してくれた。』
そして彼女は僕の目の前に立ち止まり
『それだけで、いいんだよ。』
そう言いニッと歯を見せて笑ってくれた。
「…ありがとう」
『けど!そう言って私の事気にするくらいなら、まずはイライが今1番愛してる彼のことを止めてみなさいっ!』
彼女はピッと僕を指さして笑いながらそう言った。
「ははっ、分かってるよ。努力する。」
彼女らしいな。と僕が笑うと、彼女は最後にまた微笑み
『頑張って。イライ』
そう言い残して消えてしまった。
僕はその場にほんのり残った甘いようなやわらかい匂いを感じで呟いた。
「…ありがとう、ゲキウ。」
荘園の朝。この荘園は朝に食堂に来ると一般人に丁度いい量の食事を貰える。
まぁウィリアムくんやウィラさんみたいな人は職業柄とか体重減量とかで軽く調整してるみたいだけどね。
「…イライさん、おはようございます。」
「あ、おはよう!イソップくん!」
僕は昨日彼に振られた。
だけど僕はもう決めたんだ。本当に彼を愛しているのなら自分のことより彼の想う人の事を優先したい。たとえ、それが前世が殺人鬼のハンターだとしても…
「ははっ」
「? 急に笑って、どうしたんですか?」
僕が漏らした微笑みに彼が不審がっている。
「いや、ただね、あんなに人との関わりを嫌っている君が昨日フった、本来ならかなり気まずいはずの私にただの挨拶だとしても話しかけてくれるのが嬉しくてね。」
僕が今思った嘘偽りない本心を言うと、彼は僅かに微笑み
「…そうですか。」
そういい僕の席から1つ離れたところに座った。
それから暫くカチャカチャと音を鳴らしながら黙々各自の朝ごはんを食べている時、僕はふとあることに気づいて彼に声をかけた。
「なぁイソップくん?その…首の下の赤いとこ、どうしたんだい?」
一瞬アイツのキスマークかと思ったがキスマークにしてはサイズが大きすぎる。流石のあの化け物でもこんなには大きくないだろう。
「…これですか?これは…」
彼は一瞬言葉を詰まらせ、暫く思案したように間を開けてから「少しぶつけただけなので、特に痛くもないので大丈夫ですよ。」
そう言って僅かに微笑んだ。
『大丈夫だよ。すぐ治ると思うから気にしないで。』
「っ…!」
僕の脳に一瞬、彼女の声が聞こえた。
けど昨日とは違う。彼女の魂が語りかけてくるのではなく、これは彼女が生きている時、彼女から言われた言葉だ。
確か、ゲキウはこの言葉を言った次の日に随分前から難病だったことが分かって…
「…」
僕は暫く頭を抑えて、発する言葉を探して…
いや、探す必要なんてないだろう。
「イソップくん」
僕は意を決して口を開き
「無理、しないでね。」
彼に詳しい何があるかなんて分からない。恐らく深入りするのも不敬だし、ならば余程悪化するまで彼には無理しない範囲で好きなことをして欲しい。
僕の言葉を聞いたイソップくんは、暫く真顔で僕のことを見つめ
「…天眼は…使わないんですね。」
そう安心したような口調言い
「わかりました。ご忠告ありがとうございます。」
そう言い足早に食器を片付け自室へと帰ってしまった。
ひとまずあの呟きの意味は分からないが、これで彼が自信を傷つけることはまずしないだろう。
あのアザのようなものが、彼自身が自傷した物だった場合のみなら───ね。
「はぁ…なぜ私は初手であなたを追ってしまったのでしょうか…もうこんなん4逃げ確定じゃないですか。」
「ハッ、選択を間違えたみたいだね。リッパー」
ステージは赤の教会。メンバーはトレイシー、アンドリューくん、マイクくん、そして占い師の僕の4人。
現在、暗号機は既に上がっていて今3人は恐らくゲートを開けているだろう。
「いくら赤の教会がサバイバー有利だからってあなた強すぎません?お陰であの少女、臆病なくせにほぼほぼ安静に解読してましたよ?」
「はは、トレイシーの負担が減ったなら何よりだよ。」
「…」
リッパーは何か言いたげにこちらを見ている。
「ねぇ占い師…クラーク、とでも言いましたっけ?」
「イライでいいよ、どうしたんだい?殺人鬼様。」
【殺人鬼様】という言葉が謎にツボにハマったのか彼はクスクス笑ってから僕に聞く。
「アイツら、なぜ早く脱出しないんですか?」
「やっぱりキミは勘がいいね。」
そう、もうこのゲームは通電してからおよそ1分たっている。
「曲芸師や機械技師がゲートを開けているならまだわかるが、最後に全員で同じ台を回していたのにわざわざ墓守と別れて別のゲートに行くか?そう考えると」
リッパーはこちらを向き目隠しが敗れてしまった方の僕の目を見つめ
「【あなたを飛ばないよう時間を稼いでいる】…ということでしょうか?」
「正解。理由はわかるか?」
「いいえ?検討もつきませんね…」
リッパーのあのわざとらしい態度。恐らく僕が彼らに出ないように頼んだことはもう分かってるのだろう。
「彼…納棺師、イソップ・カールの事だ。」
僕がイソップくんの名を出すと、リッパーは一瞬ピクッとこちらに視線を集中させ、「へぇ…」とどこかニヤついているような声を漏らす。
「彼から聞いたんですか?ま、付き合ってること自体は口止めしてませんでしたしね…」
「この荘園の中で付き合うって主にどんなことをするんだい?ここだとほぼやる事は限られてしまうだろう?」
この荘園には【死】というものが存在しない。
何度ゲーム内で死んだって気がつけば、ゲーム内でついた傷は跡形もなく消えて荘園の目の前で立ち尽くしている。
それはつまり、この荘園の中になにか世界の常識を覆す様な世間にはしられてないなにかがあるということ。
その判明を世間に隠すためなのか、ゲームの参加者は重要ななにかがある時以外、ここからの外出を禁止されている。
それに、ハンターともなればもう死者だ。なにか強い力に結び付けられているのか、この荘園の中から出ることすら叶わない。
そういう訳だから付き合うと言ってもほぼほぼする事が荘園の中で限られてしまうのだ。
デートをするといっても外に出られないハンターとならウッズさんが管理しているそこそこな広さの庭園しかない。
という訳でこの殺人鬼は彼と一体何をしているの気になった。
だがこの殺人鬼は僕の質問を聞くと直ぐにクスクスと笑い答えた。
「おやおや、聞きたいんですかぁ?まぁ私も皆は言いたくないので濁しますが…私の部屋で♡たぁーっぷり楽しんでますよ♡」
「っ…」
なんとなく察してはいた。けどその可能性は考えない、いや、考えたくない自分がいた。
「…へぇ、殺人鬼の君にもそんなことがしたいっていう欲があったんだね。」
僕は沈黙は困ると声を振り絞ってそう言った。
「別にぃ、人殺しをすることだけが欲求じゃないですしねぇ」
そう言ってコイツは鉤爪をカシャカシャと鳴らしなている。
「…それとも、【マジメなヒト】の貴方は彼とそういうことがしたいと言う欲求はないのですか?」
「ッ…」
余りに突然の言葉に僕は思わず目を見開いてしまった。
ただ僕が驚いたのは僕がそういうことをしたいと思っていることではない。コイツが、僕が彼に対する感情をなぜ知っているのかということだ。
「…なぜ、僕がイソップくんとしたいと思ったのかい…?」
まさか僕の態度が分かりやすかったのか?いや、あの人の変化に敏感なヘレナさんやウィラさんでさえ気づかなかったんだ。まさかコイツが…
「おや、あぁ一応言っときますが彼から聞いたわけではありませんからね?」
「そんなのわかっている。彼は人を信用しないが他人の秘密を漏らすようなことは絶対しない。」
それは僕が1番。...いや、こいつが1番わかっている。