Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    やさか

    @83ka83ka

    ついった:@83ka83ka
    フォロワー限定は、どんなものがきても大丈夫な方のみご覧ください。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 57

    やさか

    ☆quiet follow

    フェルジタの現パロオフィスラブ風味なオメガバースパロです。
    ・メリバな根暗エンドです
    ・現パロですが、いろいろファンタジー
    ・特に薬の性質については都合のいいファンタジーだと思ってください
    ・性的な行為や性的な暴力を仄めかす表現が出てきます(具体的な描写はありません)
    ・小説とは言いにくい稚拙な文章でネタ帳に近いです

    趣味満載のため何でもOKの方のみどうぞ。

    運命① この世には男・女と呼ばれる性別の他に、第二の性と呼ばれるもう一つの性がある。アルファ・ベータ・オメガと呼ばれる性だ。
     ジータはベータだ。優秀で眉目秀麗なアルファのように注目を浴びる存在ではなかったが、オメガのように性的に辛い生活を強いられることもない。だから人生は平穏そのものだ。
     しかし、ジータには夢、いや夢と言う程のことではないかもしれない、モットーがあった。それは、アルファ・オメガなど、第二の性で苦しんでいる人を助けたいということ。ある事件をきっかけに、ジータは強くそう思うようになった。
     そのことがあり、ちょうど半年ほど前の今年の春、抑制剤の分野では最大手の製薬会社である今の企業に新卒として就職した。ジータは文系であったため、開発や研究に携わる職種には適していなかった。そのため、サポートを行う職種に応募し、採用されたのだ。
     
     ジータは、会社のカフェテリアで夕食を取った後、本屋で購入した本を広げた。お昼のカフェテリアは大混雑しており座る場所を見つけるだけでも大変だが、夕方のカフェテリアは人もまばらだ。大企業のカフェテリアらしく、メニューも充実しているのに、かなりリーズナブルな価格で食事も飲み物も楽しめる。だからジータは毎週水曜日の定時後、カフェテリアで夕食を取りここでそのまま勉強をすることにしていた。街のカフェよりも静かだし、混むこともないから長居もできる。夜景が綺麗に見える窓に接したお気に入りの席も見つけ、今日もその席に座っていた。
    (えっと、抑制剤でよく用いられる成分の話からだっけ……)
     ジータが開いている本は「素人でもわかる抑制剤」というタイトルのものだ。タイトルの通り、抑制剤について分かりやすく解説した本である。抑制剤の用法や仕組みはもちろん、抑制剤大手企業の紹介など、そのようなことまで書いてある。大手企業には、当然ジータの勤める会社もある。
     基礎の基礎の部分は入社時の研修教育でも習ったし、ジータの業務は詳しく知らなくても問題の無い業務であった。しかし、会社の一員である以上、知っておいた方がいいと思ったし、実はこっそりと興味があった。理系科目は苦手だったため、難しい部分も多くペースはゆっくりだ。しかし、ジータには充実した時間だった。
     
     その日もいつもの水曜日のはずだった。今日は何となく麺類の気分だった。ミートソーススパゲッティが美味しそうに見えたため、ミートソーススパゲッティと食後のデザートであるプリンを手に取り、会計した。そして、いつもの席に向かったわけだが。
    (あ、今日は先客が……)
     ジータのいつもの席に座っている人がいた。後ろ姿しか見えないが男の人だ。銀色の、男の人にしては少しだけ長めの髪だ。身長は高めでがっしりとしている。姿勢がとてもいい。白衣を羽織っているため、きっと研究職の人だろう。ちらりとテーブルを見ると、カフェテリアで売られている珈琲の紙コップだけが見えた。食事ではない、きっと休憩か。
    (人もまばらなのに、あまり近くに座るのもおかしいよね)
     仕方がない、今日は夜景を諦めよう。いつもより少し離れた席に座った。
     
     その次の水曜日。
    (今日は空いてた)
     いつもの席が空いていた。いそいそとお気に入りの席に座る。
    (あの人ももしかしたら夜景を見ていたのかな……ここの席から見える夜景、綺麗なんだよね)
     ふと、先週座っていた男性のことを思い出す。食事をとっている風ではなかったように見えた。夜景を見て休憩をしていたのかもしれない。
     手を合わせた後、今日の夕飯であるオムライスを頬張る。バターライスにトマト味のソースがかかっており本格的な味だ。これが会社のカフェテリアで提供されているなんて信じられない、食後のデザートのいちご味のゼリーも美味しそうだ、そんなことを考えていたときだ
    (あ……)
     ジータと同じ並びに誰か座った。ちょうど、三席ほど空けたジータの右側。空いているカフェテリアでどうしてこんなに近くに座るのだろうと少し気になった。失礼にならないようにちらりとだけ目をやる。
    (……あ、あの人、この前ここの席に座ってた人……かな)
     先週は後ろ姿しか見えなかったが、特徴が一緒のような気がした。銀色の少し長めの髪に、身長も体格も同じくらいだ。しかし、ジータはあることに少しだけ驚かされた。
    (うわ、すごくかっこいい人だ……)
     その端正な顔立ちに驚かされた。モデルや俳優と言っても通じるくらいかっこいい……いや、かっこいいという言葉より、美しいという言葉が合っている気がした。顔付きよりも雰囲気がそうなのかもしれないが、何となく迫力のある、まるで美術品のような美貌だと思った。
     ジータは彼がまた珈琲を飲んでいることに気が付いた。珈琲を飲みながら、夜景を眺めている。きっと、ジータの推察通り残業の合間の休憩で珈琲を飲みながら夜景を眺めているのだろう。
    (って、あまり眺めたら失礼だよね。私もお勉強があるし、オムライスも温かいうちに食べちゃおう)
     そこからはジータの意識はオムライスに移った。オムライスを食べ終え、食器を下げようと立ち上がったときには、彼はもういなくなっていた。
     
     それから、ジータは水曜日の夜のカフェテリアで彼を見かけることが多くなった。彼はいつも、ジータのお気に入りの席から三席ほど空けた右側の席に座っていた。
    (あ、今日は先越された)
     ジータが先に席に座っていることが多いが、たまにジータの終業が遅くなったときは、彼が先にいた。
     初めて会ったときこそ、ジータのお気に入りの席に座っていた彼だが、それ以降はジータより先に来ていてもジータのお気に入りの席に座っていることはなかった。そして、ここはジータのなんとなくの推測だが、ジータがあの席にいつも座っていることを知っていて、敢えてずらして座ってくれるようになったのではないか……そんなことを思っている。
    (まぁ、あっちの席の方が景色がいい、って単純な理由かもしれないけれど)
     話をしたことはない。どこの誰かも知らない。でも、何故か同じ時間に会うというだけで、勝手に親近感がわいていた。なんとなく、会えなかった日は、何かあったのかと思ってしまう自分がいた。もしかしたら彼は、水曜日に限らず毎日来ているのかもしれないのに、少し奇妙な話だと自分でもおかしいと思った。
    (研究職っぽい感じだけれど、どういう人なんだろうな)
     彼はどんな人なのだろうか……ジータは彼を見る度にそんなことを考えてしまっていた。
     
     最初に彼に会って、二か月くらい経った頃だろうか。
    (あ、今日も来た)
     いつも通り彼が来た。手にはカフェテリアで購入することができる珈琲を持っている。着席してその珈琲を飲み始めた。
    (珈琲って、あまり飲んだことないけれど、美味しいのかな……)
     そんなことを思いながら、目の前の本を開こうとしたときだ。隣から、かたっ、という音がした。何かが倒れたような音だ。思わず目をやる。
    「……」
     どうやら、彼が珈琲をこぼしてしまったらしい。テーブルに黒い水たまりができている。しかし、彼はティッシュを持ってきていなかったのか、拭くものを探しているように見えた。
    「大丈夫ですか?」
     困っているように見えたため、ジータは思わず声をかけてしまった。
    「ティッシュ、使ってください」
     そして、バッグから取り出したポケットティッシュを差し出す。
    「すまない」
     彼はティッシュを受け取ると、二、三枚取り出しテーブルを拭いた。
    「ありがとう」
    「いえ! ……あ、突然声をかけてしまってごめんなさい。びっくりしてしまいましたよね?」
     勝手に親近感を抱いていたこともあり、自然と声をかけてしまったが、よく考えたら初対面だった。謝罪をする。
    「困っていたところを助けてくれて、私こそすまない。……いや、驚いてはいないよ。水曜日に君をよく見かけていたから。そこの席が気に入っているのかな、って」
    「あ、はい」
     やはり、ジータの認識していたとおり、彼はこの席をジータが気に入っていることを察していたらしい。
    「このあたりの席は夜景が綺麗だと感じている。この夜景を見ながら珈琲を飲むのが楽しみなんだ」
    「わかります! 夜景、綺麗ですよね。私、水曜日はここで夕飯を食べて、勉強するのが日課なんです」
     同じ感性の人と出会えたことが嬉しくて、思わずジータもはしゃいだようにそう言ってしまう。
    「勉強? その本の?」
     彼はちらりと、ジータの座っていた席を見た。そこには、例の本が上がっている。
    「あ……初心者向けで恥ずかしいですが……」
     白衣を着ているところを見ると、彼は研究職の人なのだろう。その人の目から見たら、きっと幼稚な内容に感じただろう。恥ずかしくもあり、思わずそう言ってしまった。
    「いや、恥ずかしがることはないと思う。学ぼうという姿勢は尊い。……そうだ、私でよければ、お礼に何か教えるよ」
    「い、いいんですか? ……でも、お時間取らせてしまいますし……」
     わからないところがいくつかあり、読み飛ばしたところがあった。その専門の人に教えてもらえるのであればまたとないチャンスなのだが、初対面の人に教えてもらうのも悪い気がして遠慮の様子を見せてしまう。
    「君をじろじろ見るつもりはなかったのだが、たまに悩んで声を出していたから」
    「!?」
     まさか声を出していたとは、ぱっと顔が赤くなる。
    「大丈夫だよ、席の近かった私にしか聞こえていないよ。助けてくれたお礼に是非」
     そこまで言われると、断る方が悪い気がした。きっとジータにとっても彼にとってもそうした方がいい。
    「じゃ、じゃあ五分だけお時間ください! ……あ、自己紹介まだでしたね! 私、総務部のジータです」
     そういえば、そもそも名前すら名乗っていないことを思い出し、所属と名前を告げる。
    「新薬開発研究室のルシフェルという」
     新薬開発研究室、確か花形の研究部署だった気がした。期待されている人材なのだろうと薄っすらと思った。
     
     彼の教え方はとても丁寧で分かりやすかった。
    「なるほど……それが、ここにつながるんですね」
    「あぁ。少しこの本は説明を端折りすぎだな」
    「すごく勉強になりました、ありがとうございます!」
     五分と言ったものの、まだ時間があると彼が言ってくれたこともあり、三〇分近く教えてもらってしまった。
    「熱心に聞いてもらえて、私も嬉しかったよ、ありがとう。しかし、研究の部署でなくとも、このような専門的な勉強が必要なのだな」
     どうやらルシフェルには必須の勉強だと思われたらいし。
    「いえ、違います! 自主的に勉強しているだけです。その……勉強してこなかった分野なんですが、こっそり興味があって。私、理系科目はさっぱりなので、市販のわかりやすく解説してくれている本を買ってゆっくり勉強しているんです」
    「そうなのか。それならば、よければまた今度教えるよ。そうだ、初歩的な分かりやすい本があるんだ、今度持ってこよう」
    「いえ、そんな、悪いですよ!」
     また教えてもらえることも、彼の目から見て分かりやすいという本も魅力的に思えたが、さすがに今日初めて話した人にそこまでしてもらうのは悪いだろう。素直にジータは遠慮することにしたのだが。
    「気にしないで欲しい。……実は、君と話をしてみたかったんだ」
    「え?」
    「その……いつも席が近いから気になっていたんだ。君も夜景を眺めながら、食事を取ったり本を読んだりしていることに気が付いていて、勝手に親近感を抱いていた」
     いつも同じ時間に、近い席で夜景を眺めていることに親近感を抱いていたのはジータだけではなかったようだ。彼もジータと同じらしい。
    「じ、実は私もちょっと気になっていました。……もしかして、休憩か何かで?」
    「あぁ、残業の合間にここにきて、ゆっくり夜景を見ながら珈琲を飲むことが最近は習慣になっている」
    「わかります、夜景綺麗ですよね! 私、向こうの遠くに見える観覧車の光が好きで、勉強に詰まったらぼーっと眺めてしまうんですよ」
    「わかるよ。街の灯かり一つ一つが綺麗だと私も思って見ている」
    「ですよね!? 私、ここが穴場だと思っていて、誰にも教えてないんです」
     偶然とはいえ、同じ感性の人に出会えたことが嬉しくて、ジータは熱く語ってしまう。そして、彼もにこやかに答えてくれて、数分話し込んでしまった。
    「……話が盛り上がっているところすまない、もう時間だ」
     彼が腕時計をちらりと見た。どうやら残業に戻る時間が来たらしい。
    「あ、ごめんなさい、ついお喋りしてしまって!」
    「気にしないで欲しい。私も楽しかった。来週の水曜日ここに本を持ってくるから」
    「あ、はい……」
     突然言われたこともあり、相手の都合も考えず思わずはいと返してしまった。
    「また来週」
     そして、彼は軽く手を上げ、にこりと微笑んで去っていった。
    (なんだか、周りにはいなかったタイプの人だったなぁ……)
     残されたジータは、いつもと違う状況にリズムが崩れてしまい勉強に戻ることができなかった。ぼーっと夜景を眺めながらそんなことを思った。
     歳はきっと、見た目ではジータより少し上くらいか。ただ、その割には落ち着いているように見えたので、もしかしたらもう少し上かもしれない。
    (ルシフェルさんって頭もいいんだろうなぁ……)
     教えてもらった本の内容は、大学生が小学生に足し算引き算を教えるレベルの簡単な内容だったのかもしれないが、彼は特に悩むことなく教えてくれた。また、彼は花形の部署に配属されていた。あの若さでの配属だきっと優秀なのだろう。
    (ナイーブな内容だから聞けないけれど、なんとなくアルファっぽいよね)
     見た目も良い、頭もいい、なんとなくアルファかな……という感想をぼんやり抱いた。
     
     次の水曜日。
    「良さそうな本を見繕ってきたから、この中から選んでくれ」
     カフェテリアに彼は五,六冊ほどの本を持ってきてくれた。
    「たくさんありますね」
    「君がより知りたいと思う方向によって、読む本が変わると思って。……この本は全体を広く浅く取り扱っているが、その分深いことは扱っていない。こっちの本は、少し読みにくいが、抑制剤に配合される成分について……」
     ルシフェルは、丁寧に本を手に取り、パラパラとめくりながら説明してくれた。
    「なるほど。興味がある本はいくつかあるんですけれど、なかなか決められないですね。……この本、一番興味があるんですけれど、なかなか難しそうで」
     一冊気になっている本があり手に取った。しかし、他の本に比べると若干難しそうという印象があり、これと決められずにいた。
    「実は私も、個人的にはこの本が一番おススメなんだ。行間を読み解くのが少々大変かと思うが、結構面白いと思う。それに、分からないところは聞いてくれればいつでも答えるよ」
    「いえ! お時間を奪ってしまうことになると思うので、そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ」
     本を貸してもらうだけでも申し訳ないと思っているのに、その内容まで教えてもらうのは、さすがにジータも気が引け断ろうとした。
    「私の休憩時間であれば、時間を奪うことにはならないよ」
    「でも……、休憩は休憩した方がいいと思いますけれど」
    「それなら、勉強が終わったら、少しだけ私の雑談に付き合ってほしい」
    「雑談?」
    「あぁ。研究のことばかりで頭がいっぱいなんだ。だから、研究外のことを、できれば研究に携わらない人と話したいと思っていたんだ。本当は、君に教えると言ったのも、気分転換として自分のためになるのではないかと思ったんだ。もちろん、勉強熱心な君の力になりたい、という気持ちも嘘ではないが」
     なるほど、親切心以外にそのような目論見もあったのか。それならば、お互いの為になりそうだし、お願いしてもよさそうな気がしてきた。
    「そ、そうですか? それだったらお願いしてもいいですか? その代わり、忙しくなったり、嫌になったりしたら、絶対に無理はしないでくださいね。たぶん、ルシフェルさんから見たら眠くなるような内容だと思うので」
    「フフ、ならないよ。よろしく頼む」
     
     それから、水曜日のルーティンが変わった。
    (あ、来てる!)
     カフェテリアに来て夕食を購入し、ジータのお気に入りの席に向かうと、その横の席にルシフェルが既に腰かけていた。
    「お疲れ様です!」
    「お疲れ様」
    「だんだん寒くなってきましたね……」
     そんな世間話をしながら、席に着く。ルシフェルのテーブルにも食事がある。そう、ルシフェルもジータに合わせて食事をとるようになったのだ。
    「ルシフェルさんのごはんは、日替わりBプレートですね」
    「あぁ、本当はAプレートにしようと思ったのだが、売り切れだったらしい」
    「あー、残念ですね。私はお昼を食べ過ぎたので、小盛のおそばにしました」
     食事をとりながら、そんな他愛のない話をする。最初は、精巧に作られた美術品のような彼の容姿と花形の部署に配属されている優秀さゆえ、若干雑談や世間話も振りにくかった。こんな話題を振っていいのかと謎の遠慮をしていた。しかし、思い切って話してみると、彼はにこやかに聞いてくれたし答えてもくれた。思った以上に話しやすい人だった。
    「あー、わかります、私も好きです」
    「君もそうなのか」
     そして、彼とは思った以上に気がよく合った。まぁ、お互い夜景を眺めることが好きで、近い席によく座ることで知り合ったのだ。そもそも気が合うからこそ、知り合ったのかもしれないが。とにかく、よく気があった。
     食事が終わり食器を下げ終わるとジータは本を開く。先日、本を借りたが、先にジータの元々持っていた読みかけの本を読み切ることにした。
    「今日はここからですね。ルシフェルさんのお陰で、この本もあっという間に終わりそうです」
     ルシフェルは、ジータの元々持っていた本も一緒に読んでくれて、解説してくれた。だから、もう本を最後まで読み終えるところだ。今までのスピードが嘘のようだ。
    「私も改めて認識するところがあり、勉強になるよ」
     もしかすると、その発言はジータが気にしないようにするための、彼なりの親切なのかもしれない。しかしジータはその言葉通りに受け取るようにした。彼は優しくて誠実だ。その彼の優しさを無下にしないためにも、そのまま受け取るのがよいと思った。
    「そう言って頂けると気持ちが楽になります。あ、もし私に何かしてほしいことがあったら言って下さいね? お世話になっているので、力になります」
    「頼もしいな、ありがとう」
     
     翌日。ジータはいつも通り出勤し、自席で業務をしていた。
    「ちょっと!! ジータ!!」
     先輩の女性社員がジータの席までやってきた。配属されたときから面倒を見てくれている仲のよい先輩で、プライベートでも遊ぶことがあるような先輩だ。先輩ではあるが、歳が近いこともあり友達に近い。
    「ジータ、副研究室長と知り合いなの?」
    「え?」
     急にそんなことを言われた。
    「副研究室長? 誰ですか?」
     そんな偉そうな肩書の人は思い当たる節が無かった。思わず聞き返してしまう。
    「昨日、カフェテリアで楽しそうに話してたの、副研究室長でしょ?」
    「昨日? カフェテリア? ……あれは、ルシフェルさんですけど」
    「その人が、副研究室長だ、って言ってるの」
    「……」
     ルシフェルはそんなこと一言も言っていなかった。一瞬思考が止まる。
    「組織図見てみなよ」
     先輩社員にそう言われ、社内閲覧用の組織図を見る。そこには「新薬開発研究室 副研究室長 ルシフェル」と書かれていた。書かれていた文字は理解したが、実際の彼とは結びつかず理解が追い付かない。
    「え、でも、ルシフェルさん、若い人ですよ? 私より少し上くらいの……」
    「あ、今年入ったばかりだから知らないのか。新薬開発研究室は研究室付きの総務があるから、うちと関わりもないしね」
     ジータは特に部署に縛られない総務の仕事をしているが、予算の多い花形の部署はその部署専門の総務がある場合があった。ルシフェルの研究室はそのパターンなのだろう。
    「あの研究室、研究室長と副研究室長が双子なんだけれど、この双子がどっちも天才で、何かすごい研究をしているらしいんだよね。研究室自体もそのために作られたらしいよ」
    「そ、そうなんですか……」
    「元々大学で研究していたらしいんだけれど、うちの会社が引っ張ったみたい。まぁ、機密扱いだから、私たち下々は具体的にどんなことを研究しているかは知らないけれど、画期的な研究みたいだよ」
     頭が良い人だとは思っていたが、まさかそれほどまでの天才だったとは知らなかった。ジータは呆気に取られてしまう。
    「それにしても、どうやって出会ったの? 接点ないでしょ?」
    「……偶然、本当に偶然仲良くなって、話も合って、なんとなく一緒にいるようになった感じなんですよね。私、水曜日はカフェテリアで夕食取るんですけれど、席がいつも近くて」
    「へぇ、そんなこともあるんだね」
     さすがに、そんな人間に勉強を教えてもらっているとは言えず、ジータは苦笑いでそう返した。
    (全然知らなかった……)
     
     だから翌週、ルシフェルと会ったジータは少し不満気に頬を膨らませていた。
    「言ってくれればよかったのに」
     副研究室長なのかと聞いたら、何事もないように「あぁ」と返され、ジータはへそを曲げている。
    「では、ジータの中で、私の見る目は変わるのか? 一般の研究員と副研究室長、肩書が違うだけで変わるか?」
    「……」
     そう言われると確かにそうだ。目の前にいるのは、夜景を眺めるのが好きなルシフェルだ。自分に優しく勉強を教えてくれるルシフェルだ。一緒にご飯を食べて他愛のない話をするルシフェルだ。そうだ、何も変わることはない。
    「確かに、どっちもルシフェルさんですね。ごめんなさい、びっくりしすぎて、動揺していたみたいです」
     ジータは少し落ち込み気味に、素直にそう謝罪する。
    「とは言うが、実は君には肩書で見て欲しくなくて、意図して隠していたのも事実だよ」
     今度はルシフェルが済まなそうな顔で、苦笑いを浮かべた。そういえば最初の頃に、気分転換のために研究から離れたいと言っていたことを思い出す。
    「ルシフェルさんはルシフェルさんですから、もう気にしていないです。よく考えると、部署が遠すぎるせいか、お仕事のことが全然イメージできなくてあまり気にならない気がしてきました。だから、私にはあまり気にせずに接してくださいね」
    「ありがとう。私は君のそういうところが一緒に居て楽しいのだろうな。これからもよろしく頼む」
    「こちらこそ」
     ジータはにっこりと笑って返事をした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯❤💖☕🌠💖👏❤💖💞👏🙏💴💖👍❤❤💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works