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    yu_kiao_i_lxh

    @yu_kiao_i_lxh

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    yu_kiao_i_lxh

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    冠萱マスターさまたちの呟きを日々拝見し、違和感なく潘靖・夏さんと暮らす小冠萱さん、3人の姿が見えました。小黒お誕生日祝いのむ様(む@nijikusa)の素晴らしいイラスト、そして呟かれたお言葉からの小話です。冠萱さんは一体何が見えていたのかしら、という妄想です。映画「エター○ルズ」を鑑賞して、一気に小話が整いました。呼称や能力については全くの捏造です。何でも許せる方向けです。

    湯気の向こうの思い出小黒の誕生日を祝う為に今宵は皆が集まっていた。それぞれの手には小黒へのプレゼントがある。小黒へひとことお祝いを伝えようと、自然と列ができた。
     桃色のリボンで飾られた大きなプレゼントボックスを持って、なんとはなしにその列で順番を待っていた冠萱の嗅覚が、美味しそうな匂いを捉えた。食欲をそそられる匂い。
    「あれ?」
     おかしい。会場にあるのは菓子やケーキなどの軽食の類と飲料のみで、食事類は用意していなかったはず。そう思ったところで、匂いの元――湯気上がる熱々のラーメンが視界の左端に入った。盆を持つ手は骨ばった指の長い、大人の男のもの。ぱっと顔を上げると、
    「無限大人」
     小黒の師父である無限がそこに立っていた。
     無限は任務の際に好んで着ているものとは違う、落ち着いた色合いの漢服を身につけている。近頃では人間社会で暮らす小黒と並んで洋装をしているのも見掛けるが、やはり一番馴染んだ服装なのだろう。一見すると地味にも見える格好だが、よく見れば布地には織が入っている手の込んだ上品なものだった。
    「やあ、冠萱。こんばんは。忙しいのに今夜はありがとう」
    「ああ、いえ。皆さんが集まれて本当に良かったですね」
    「小黒の誕生日を祝う為に、これだけのひとが集まってくれた。本当にありがたいことだと思うよ」
     穏やかな眼差しで無限が辺りを見渡した。
    「その手にあるのは小黒へのプレゼントだね。皆の心遣いに師父である私からも感謝を」
    「いいえ、とんでもない。気持ちですから」
     会話を続けながらも冠萱の視線はラーメンから離れない。その視線に気が付いたのか無限が、
    「ああ、これかい? あなたは長寿麺というのを聞いたことはないかな?」
    「……知っています」
     誕生日を祝う為に、一本の長い麺で作られた長寿麺を食べるのは、この大陸に住む人間たちの間ではメジャーな祝い方であることを冠萱も知っている。
    「でも、それをストレートに小黒へのプレゼントに選ぶとは」
     澄んだスープに、途切れることのない一本の長い麺。具は目玉焼きに青菜といった実にシンプルなものだ。
    「さすがですね、無限大人」
     驚き半分、残りの半分に感心と少しばかりの呆れを込めて冠萱が唸った。対した無限はどこ吹く風、すっと視線を前に戻すと、箱から出されたばかりの誕生日ケーキに身を乗り出している小黒を穏やかな表情で見つめていた。


     そのまま何となく無限と並んだまま、しばらくして冠萱の番が来た。
    「おめでとう、小黒」
    「ありがとう! 冠萱さん」
     この日のために選んだプレゼントを小黒にそっと手渡す。受け取った小黒の頬が喜びに上気する。そのまま直ぐにリボンを解こうとした小黒を冠萱が止めた。
    「それよりも、小黒」
     冠萱と小黒の様子を目を細めて眺めている無限を見る。
    「先に無限様のプレゼントを受け取って。伸びてしまうから」
    「えっ……うっ……」
     無限の手もとを見て、明らかに小黒がひるんだ。
    「そうだね。冷めると美味しくない」
     冠萱の気遣いに、無限の表情がぱあっと明るくなった。いそいそと卓にラーメンを置く無限の背後、冠萱が小黒の猫耳にそっと耳打ちする。
    (大丈夫。作ったのは食堂のコックで、無限様はネギを刻んだだけらしいから)
     冠萱の言葉に、小黒の耳がぴくぴくと動いた。ちらりを視線を向けて来るのに、「本当だよ」冠萱が頷いてみせる。
     ようやく小黒の顔から脅えが消えた。
    「さあ、熱いうちに食べてくれ」
    「ありがとう、師父。ありがとう、冠萱さん!」
     小黒に笑顔が戻った。


     つたない箸使いながらも、小黒が上手に麺を啜って食べている。
    「おいしい! これ、おいしいね」
     それもそのはず。食通で知られる卡里館長がイチオシするコックが作ったラーメンだ。味は確かだろう。小黒の瞳がきらきらと星になって輝いている。冠萱は无限と並んでその様子を見守っていた。
     見ているうちに、温かな記憶が心の奥底から蘇って来た。大切な思い出を冠萱はそっと噛みしめる。


    ***

    「急に静かになったと思えば……」
     潘靖は目の前の光景に、眉間に皺を寄せて呟いた。
     先日保護され、いまは故あって潘靖が後見役となっている幼い妖精が、複数のおとなの妖精たちの喧嘩に巻き込まれていると一報が入ったのは、つい先ほどの事。
     館の長い廊下を足早に、潘靖は彼らがいるという一室を目指す。怒声が飛び交い、険呑な気配が潘靖のところまで届いてくる。
    「聡いあの子のことだ。おおごとにはならないと思うが」
     しかし、例え養い子がそうであっても、相手が血気盛んな妖精であればそうもいかない。嫌な予感に胸を騒がせながら潘靖は先を急いだ。
     もう少しで部屋のなかの様子が見える。そこまで辿り着いたとき、一瞬で、室内が静まり返った。その直前、潘靖のうなじにちりちりと走ったのは、幼い養い子の能力が発動した気配だ。駆け込んだ潘靖の目に飛び込んできたのは、力無くだらりと手を下げ茫然と宙を見つめて立つ妖精たちの姿と、その間に立つ、昏い目をした養い子の小さな姿。
    「冠萱、萱萱」
     驚かせないように、潘靖はそっと養い子の名前を呼んだ。
    「怪我はありませんか」
    「潘靖大人」
     不安そうに小さく呟いて、冠萱が潘靖の顔を見上げた。こくりと頷くのに潘靖は体の緊張を解いた。
    「喧嘩に巻き込まれたと聞きました」
     潘靖は詳しい事情を聞きたと思ったが、冠萱は唇をぎゅっと結んで答えない。この子が生来持つ頑なさは、時として、潘靖のパートナーである夏も手を焼くほどのものだった。冠萱の心のなかには、他者を受け入れない大きな壁がある。それも彼が持つ能力を思えば仕方のないことかもしれない。潘靖は大きくため息を付いた。
    「彼らの有様。君の力でしょう、萱萱。彼らを『洗脳』したんですか?」
     冠萱が持つ能力、『洗脳』。
     これが心霊系の能力を持つ潘靖が彼の後見役になった大きな理由のひとつだった。
     叱られると思ったのか、冠萱が俯いた。その肩はか細く潘靖の手のひらですっぽり覆ってしまえるほどで、背は自分の腰のあたりまでしかない。
     叱られて泣くならばいい、癇癪を起しても。冠萱はまだ幼い。感情を持てあましてしまうのは当然のことだ。
     それなのに人の心を操る能力がある冠萱はそうはならない。真綿で包んだ当たり障りのない言葉より、心の奥底、本心を見抜くその聡い目を見開いて、黙り込んでしまう。今だってそうだ。
    (なぜ、こんなことを?)
     口に出さずに、潘靖はその疑問を心のなかで問い続けた。
    「……やめないから」
    「何ですか?」
    「全然、喧嘩をやめないから」
    「喧嘩の仲裁しようと思った訳ですか」
     事情が分かって潘靖は納得のため息を付いた。眼鏡をはずし、ガラスを拭いながら考えをまとめる。冠萱がぽつりと呟いた。
    「『洗脳』しちゃ駄目だなんて」
    「……なるほど。私はいま、そんなことを考えていましたか」
     まとまった考えを言葉に出す前に、感情を読み取られてしまったか。冠萱に隠し事はできない。ならば彼が理解できるまで何度も言葉を交わし、感情の交流を行うしかない。
    「喧嘩で殴るのは許されるのに、どうして『洗脳』はだめなんだろう。どちらも同じ『力』なのに」
    「……さて、これは困りましたね」
     心底分からないといった表情で冠萱が疑問を口にする。冠萱の疑問は最もだ。幼い彼にとって、腕力よりも確かなものーー『洗脳』して事態をおさめるというのは理にかなっている。 しかし、暴力と洗脳では、相手を従わせるという点でよく似ているが、根本的に違う部分がある。
     それをどう伝えたら良いのか、潘靖が顎を摩って再び黙り込んだ冠萱を眺めていると、廊下を走る軽快な音が近づいて来た。あ、と潘靖と冠萱が顔を上げたところに、
    「萱萱! 萱萱は無事なの?」
    夏が飛び込んできた。その声に驚いたのか、洗脳を掛けられていた妖精の目に自我が戻る。飛び込んだ勢いのまま、夏の手のひらが冠萱の両肩を掴んだ。顔を覗きこむ。
    「怪我は? していない?」
    「は、はい」
    「良かった!」
     夏の白い腕がぎゅっと冠萱の小さな身体を抱きしめた。勢いよく抱きしめられて、目を白黒させた冠萱が背伸びする形になる。毒気を抜かれた様子で、洗脳されていた妖精たちがその光景を眺めている。きっ、と夏が彼らを睨みつけた。
    「あなたたち! こんな小さい子ども相手に、一体なにをしたの!」
    「いや、俺たちは別に何も……」
    「言い訳無用!」
     綺麗に整えられた長い爪がぎらり、と光って、振り上げた夏の手がおとなたちの頬に炸裂する。
    「痛てっ」
    「ぎゃっ」
     容赦ない力で叩かれて、悲鳴が上がった。
    「ああ、夏さん。落ち着いて。暴力はいけない」
    「あら、潘靖。だってこのひとたちが」
     夏の憤りを潘靖がなだめている間に、その妖精たちは脱兎のごとく逃げて行った。
    「この化け物め」
     捨て台詞を投げかけられた冠萱の幼い顔が、痛みを堪えるようにして歪んだ。

     
     静かになった一室で、潘靖、夏、冠萱が黙って向かい合う。
    「……さて、何か食べますか」
    「えっ? ちょっと小潘?」
    「萱萱も行きますよ」
     状況が呑み込めてない二人を促して、潘靖の足が館の食堂へと向かう。食堂に着くなり、
    「長寿麺を三つくれ」
    二人の意見も聞かずに注文する。
    「ねえ、ちょっと。どういうことなの? 少しは説明してくれないかしら」
    「そうですね。要約すると、今回のことは萱萱が義侠心を出して、おとなたちの愚かな諍いを止めようとしたことから発しています。そうですね? 萱萱」
     所在なさげに二人の前に座っている冠萱が、困った様に眉尻を下げて頷いた。
    「争いが目の前で起こった。それを止めたい。だから『洗脳』という自らの能力を使って、彼らの心を操作して争いを鎮めた。そういう事なんだと思います」
    「萱萱……」
     夏がほう、と吐息と共に唇に手を当てた。
    「ねえ、萱萱。いえ、冠萱。あなたの争いをどうにかしたいという気持ちは、とても尊いものだと私は思います。どんな理由があったのか分かりませんが、おとなたちが始めた諍い、巻き込まれたあなたはどれほど怖かったでしょう。そこから逃げずに、なんとかしようと思った。館を預かるものとして礼を言います」
     ありがとう、潘靖が目礼すると、冠萱の頬がぽっと赤く上気した。
    「それでもね、冠萱。あの場であなたが『洗脳』の力を使ったことを、私は褒めることができないでいます」
    「……何故ですか?」
     膝の上に手を載せて、冠萱が小さく質問した。
    「思い付く理由は沢山あります。『洗脳』で心を静めても、争いの根本的解決にはならない。原因が解決していないのですから」
     そこに注文していた長寿麺が届けられた。会話を妨げぬよう、そっと三人の前に配膳される。
    「争いは静まります。ならば再び争いが起こらぬよう、ずっと『洗脳』し続ければいい? それは現実的ではありませんね。それにその方法は、その心の持ち主を尊重しているとは、私には到底思えない」
    「でも争いは静まります」
     冠萱の静かな強いひとこと。
    「僕の力で」
     問うように、冠萱の視線が潘靖に投げかけられる。 暫くの間、潘靖は黙って冠萱の顔を見つめ返した。
    「萱萱は争いは嫌いですか?」
     潘靖の問い掛けに、冠萱が大きく頷いた。
    「私も、嫌いです。暴力は特に。できるだけ避けられる争いは、避けたいと思っています。でもその方法として君の能力を使うのは、間違っていると私は思います。まずは力ではなく、話し合いで。平和的手法、会話することを私は選びたい」
    「そんなの、無理だわ。きれいごと」
     横から夏が口を挿んだ。
    「私は萱萱が『洗脳』を使うこと自体には賛成よ。だってそれはあなたの力だもの。あなたを体現する、あなたが生まれ持った能力。それを駆使することに、誰かの許可なんていらないわ」
    「夏さん」
     けしかけるような夏の言葉を潘靖が窘める。
    「でもね、萱萱。私も潘靖が言いたいこともよく分かるの。『洗脳』は解決にならないわ。それに『洗脳』でものを考えられない従順な人ばかりに囲まれて居ても、そんなの面白くないもの。色々な考えのひとがいるから楽しいのよ」
     頬づえして夏が微笑んだ。
    「潘靖の考え方は素敵。そういうところが私は好きなの」
     夏が軽く投げキッスをすると、潘靖が照れたようにごほんと咳をした。
    「さあ、麺が伸びないうちに食べましょう」
     箸を取って、ふたりを促す。
    「私が争いごとの解決に萱萱の『洗脳』を使って欲しくない理由はいくつかある。何より、萱萱には自らの選択にあんな昏い目をしないで欲しい。でも、その望みが正解なのか私にも分からない」
     潘靖が麺を啜った。
    「これは『長寿麺』といって、人間たちが長寿を願って食べる寿麺です」
    「麺が全部繋がって一本なのね。食べにくいけれど、面白いわ」
    「長いものが一本に繋がっている。これがこの食べ物の肝ですね」
     ずるずる、と夏も麺を啜る。
    「あ、あの……」
     困惑の瞬きを繰り返して、冠萱が二人に声を掛けた。
    「ねえ、萱萱。長生きをしましょう。そして、沢山の経験を積みましょう」
     いまはまだ、冠萱に伝える『正解』を潘靖は持たないので。
    「何が正しいことなのかを一緒に探していきましょう」
     だからその願いを込めて長寿麺を一緒に食べる。
     じっと潘靖の顔を見ていた冠萱がこくり、と頷いて、ようやく長寿麺に口を付けた。
    「そういえばこの麺って、人間たちが誕生日に食べたりするんでしょう?」
    「よく知ってましたね」
    「それはそうよ。人間のお友だちの祝いで一緒に食べたこと、あるもの」
     夏が切れ長の目を細めて、箸を一生懸命扱う冠萱を見つめた。
    「私たち妖精は基本長生きだし、誕生日も知らないけど。いっそのこと、今日を私たちの誕生日にしちゃおうかしら?」
    「私たちの、ですか? 夏さんひとりだけではなく?」
     首を傾げた潘靖が、冠萱と顔を見合わせる。
    「そう。三人一緒の誕生日。お揃いよ」
     これから毎年、この記念の日に縁を結んだ三人が集まって、互いの長寿を祝えるように。
    「そういうのも、悪くないでしょう?」
     夏があでやかに微笑んだ。



    ***
     潘靖が誕生会にと場所を提供してくれた卡里館長に礼を述べていると、隣に寄り添っていた夏が肩に触れて注意を促してきた。
    「どうしました? 夏さん」
     夏の視線の先には本日の祝いの主役、小黒と冠萱、無限の姿がある。
    「小黒が何か食べていますね。あれは……長寿麺? 無限様の選んだプレゼントのようですね。なるほど、なるほど、無限様が長寿麺を小黒に」
     数あるプレゼントのなかから長寿麺を選択した無限の心の内を思いやって、潘靖の頬が自然と緩む。
    「ねえ、見て。あの子たちったら」
     夏が潘靖にそっと囁いた。
    「おんなじ顔をして笑っているわ」
     小黒を見守る冠萱と無限。
     二人の微笑みは、限りない慈愛に満ちていた。

                              (了)
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    DONE冠萱マスターさまたちの呟きを日々拝見し、違和感なく潘靖・夏さんと暮らす小冠萱さん、3人の姿が見えました。小黒お誕生日祝いのむ様(む@nijikusa)の素晴らしいイラスト、そして呟かれたお言葉からの小話です。冠萱さんは一体何が見えていたのかしら、という妄想です。映画「エター○ルズ」を鑑賞して、一気に小話が整いました。呼称や能力については全くの捏造です。何でも許せる方向けです。
    湯気の向こうの思い出小黒の誕生日を祝う為に今宵は皆が集まっていた。それぞれの手には小黒へのプレゼントがある。小黒へひとことお祝いを伝えようと、自然と列ができた。
     桃色のリボンで飾られた大きなプレゼントボックスを持って、なんとはなしにその列で順番を待っていた冠萱の嗅覚が、美味しそうな匂いを捉えた。食欲をそそられる匂い。
    「あれ?」
     おかしい。会場にあるのは菓子やケーキなどの軽食の類と飲料のみで、食事類は用意していなかったはず。そう思ったところで、匂いの元――湯気上がる熱々のラーメンが視界の左端に入った。盆を持つ手は骨ばった指の長い、大人の男のもの。ぱっと顔を上げると、
    「無限大人」
     小黒の師父である無限がそこに立っていた。
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    yu_kiao_i_lxh

    MOURNING藍渓鎮を初めて読んだとき、ふと思った妄想話です。清凝と老君、無限と北河、あと龍游の執行人が出てきます。無限の己界に実は傷ついた清凝が保護されていて、という妄想だったのですが、己界に生き物入らないと聞いて、あらら、と。
    次回の藍渓鎮で癒し系の設定が確定しそうだったので、この妄想はもう形にならないだろうなあ、と思ったのですが、ちょっと出来心で一発書きです。書いていたら、ちょっと楽しかったです。
    ある妖精を捕まえるという、かつて最強の執行人として名を馳せていた無限にとって、けして珍しくない任務のはずだった。
    「無限様のご容体は?」
    「かろうじて意識を保っていらっしゃいますが…」
    「危ない、ということか…」
    常に冷静さを保つ潘靖の顔が苦し気に歪むのを見て、冠萱が強張った表情のまま 頷いた。
    捕り物の最中、無限が受けた傷はそれほど大きくはなかった。彼の体術は並みの妖精を凌駕したし、操る金属は妖精の投げた物理的な攻撃を防いだ。しかし、ほとんど妖精に近い無限の身体に僅かに残る人間の部分が、彼を窮地に陥れた。人間では避けきれない呪いを受けてしまったのだ。
    妖精が仕掛けた呪い。
    それは人間の皮膚を内側から破き、止まらぬ血でいずれは当人を失血死に至らしめるものだった。妖精ならば逸風の手により、失血よりも早く身を癒すことができたが、無限の身体は癒えるより早く、新たな傷口を生み出した。
    術を掛けた妖精本人が自爆するかのように身体を四散させたため、無限が呪いの詳細が分からなかった。妖精館本部も総当たりで解く方法を調べてみたが、随分と年嵩の妖精が独自に編み出した呪いを解く方法が分からなかった。手あた 6249