イサホン未満 他の囚人を自室に入れることを好む囚人はあまりいない。おそらくホンルもその一人であり、彼の部屋を見た事のある囚人はいなかった。と言うより、興味を持つ者がいないと言うべきか。
ホンルという男は人好きのする笑みを常に浮かべ、道端の石ころにさえ親しみを持つような態度を貫きながら、その実誰かに興味があるわけでも無く、誰の目にも留まらないように距離を取っている。〝いる〟ということも〝いない〟ということも、彼は彼の意思で消すことができるし、また気づかせることも、できるのだろう。
そんな彼の部屋に入ったのは些細な話題がきっかけだ。
「良いお茶がありますよ」
そう言われて誘われて入った彼の部屋は、豪華絢爛とは言い難く想像より質素に感じたものの、しかしやはり整然と並んだ調度品は木目が美しく漆を塗ったように艶やかで、往年の小さな傷さえ化粧のひとつであるかのよう。
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