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    maaaaaatsui

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    maaaaaatsui

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    花屋さん姜維とリーマン徐庶。
    友達未満。

    帰宅し部屋の電気をつけると、お世辞にもセンスが良いとは言えない散らかった部屋の真ん中、ダイニングテーブルの上に置かれた花が目に入る。
    小さな籠に、黄色やオレンジ色の花がぎっしりと詰め込まれている。徐庶はその花びらの一つをそっと触り、まだみずみずしいことを確認する。
    ──あれからもう二日か。
    そろそろ水をあげた方が良いかもしれない。
    いそいそと台所に入り、コップに水を汲む。花を傷つけないようゆっくりと花弁を避けて、茎の刺さったスポンジに少しずつ水を含ませていく。
    スポンジの周りに水が満たされたことを確認し、コップを傾ける手を戻す。それからようやくコートを脱ぎ、床に置いたままになっていた鞄を片付けた。



    徐庶がその店に行ったのは二日前だった。
    ずっとわだかまっていた面倒な案件が片付いて、晴れやかな気持ちだったのだ。仕事帰りに普段は見向きもしないような花屋の前で足を止めたのも、そんな開放感からだったのかもしれない。
    店頭には色とりどりの花が傘立てのような水槽に刺さって立っている。
    あれは、バラだな。へぇ、あんな色のバラもあるのか。この花は、よく見かけるけれど何という名前だろう…
    「何かお探しですか?」
    店頭に立ち止まって考え込んでいるところに、急に横から声がしたものだから徐庶はびくりと全身を震わせた。
    声のした方を見ると、店名入りのエプロンを付けた若い男が、営業スマイルをこちらに向けている。鳶色の髪の毛が頭頂で跳ねているのが印象的だった。
    「あの、ええと、この花の名前は…」
    「あぁ、これはガーベラです。カラフルで明るい雰囲気があるので、人気のお花ですよ。…誰かへの贈り物ですか?」
    「いえ、えぇと…家に、飾ってみようかな、と」
    花なんて、興味も無ければ買う気も無かったのに。自分の口から飛び出した言葉に驚いた。こんなむさくるしい男が家に花を飾るなんて言い出して、笑われないだろうかと不安になる。
    「それは良いですね!」
    男は、徐庶の言葉を聞くと嬉しそうにぱぁっと明るい表情になった。
    「部屋にお花を飾ると、一気に雰囲気が華やぎますからね。──普段はどんなお花を飾っておられるんですか?」
    「花の事はよく分からなくて…すみません。」
    徐庶は恥ずかしそうに頭を掻いた。なんとなく口に出したは良いが、元々花に興味が無かったのだから、何を選べばよいかも分からない。
    しかし店員の男はそんな徐庶を訝しむでもなく笑顔を向けた。
    「では、これなんていかがでしょう?当店オリジナルのフラワーアレンジメントです。花瓶も要りませんし、手入れも簡単ですよ。」
    傘立てのような水槽の隣の棚には、かわいらしい小さな籠にぎっしりと様々な花が詰め込まれたものがいくつか並んでいた。これなら自分で花を選ばなくても良いし、見栄えも良い。
    花は、同系色の物が纏められており、ピンク色を基調としたもの、白を基調としたものなどさまざまだ。
    そのうち、黄色を基調とした籠を手に取った。先ほど店員に教えてもらったガーベラや、薄い紙で作ったような花びらの花が植わっている。
    「じゃあ、これにします。」
    店員は徐庶から籠を受け取り、店の奥のレジに案内する。

    「フラワーアレンジメントの手入れの方法はご存じですか?──えぇ、きちんと手入れすれば一週間くらい持ちますよ。水は少な目に入れてあるので、家に帰ったらまずたっぷり水を与えてください。…はい、このお花を避けると、硬いスポンジがありますよね。ここにゆっくり水を吸わせるんです。今の時期は寒いので、水やりは2,3日に一度で大丈夫ですよ。枯れた花があれば、可哀想ですが抜いて捨ててください。腐って他の花が枯れる原因になりますので。」
    手早く籠を袋詰めし、会計しながら店員は手際よく徐庶に手入れの方法を教えていく。
    「店員さんは、花が好きなんですね。」
    店員から袋を受け取りながら、徐庶が感服してそう言うと。彼は少し照れくさそうに首を傾げた。
    「いえ、私も元々あまり花には興味無くて、何も知らなかったんです。──けど、アルバイトしているうちに面白くなってきて。」
    そう言って微笑んで。
    「お買い上げ、ありがとうございました。」
    レジの向こう側で、ぺこりと頭を下げた。



    残り物の野菜で作った野菜炒めをつまみながら、コンビニで買ったビールの缶の蓋を開ける。一口飲んで、目の前で凛と咲き誇る花を眺めた。
    明るい黄色の花が、あの時徐庶に話しかけてくれた店員の笑顔に似ている気がした。
    会話しながらこそりと見た名札に書かれた「姜維」の文字。
    また、彼に合えるだろうか。
    年甲斐も無く高揚している自分がいる。
    次はどんな花を買おうかと考えて、徐庶はふっと目を細めた。
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