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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    ミオリネとエアリアル ムスカリのつぼみ

    2023.05.09

     退屈だ。愛想のない倉庫には慣れたものだけど、僕一人でいるのはつまらない。みんなの笑い声はよく聞こえるけど、言葉を交わすならスレッタがいい。
     空も見上げられないこんな暗がりじゃ、星を数えて過ごすこともできない。目をつむれないのは厄介だな。
     ここに押し込められてから、もう六日は過ぎている。スレッタたちの停学はもう少しかかるみたい。あと少しの辛抱だ。僕たちは悪くないってわかってもらえたら、また、たくさんお話しようね。
     いくつも壁を越えた向こうのスレッタになにを言おうか考えていると、扉の開く音がした。それから小さな足音が一人分。僕を閉じ込める鉄柵を登ってくる気配がある。
     こんなところに来たのは誰だろう。僕の取り調べは終わってるはずだし、お母さんと会ったのだってガラス越しだ。光を灯せばスレッタに余計な疑いがかかる。黙っていると、氷みたいな声がした。
    「あんた、ほんとは起きてるんじゃないの」
     ミオリネだ。スレッタが大好きな、一生懸命言うことを聞こうとしてるミオリネ・レンブラン。僕の中に忘れ物でもあったかな。
    「聞こえてるんでしょ、エアリアル」
     聞いてるとも。僕に話しかけているなら、ランプを光らせてもいいものかな。迷っていると、氷の声は続きを言った。
    「いいわ。そのままで聞きなさい」
     うん。僕に用事があるのなら、聞くよ。
    「スレッタが危ないの。あの女……プロスペラになにをさせられるかわからない。だから、あんたとスレッタを引き離す」
     ええっ。ミオリネってば、突然なにを言い出すんだ。
     小さな手が震えながら僕に伸びて、触れる前に下ろされる。
    「正しいかなんて私にはわからない。でも、このままスレッタをプロスペラの思い通りにさせちゃ、あの子が壊れちゃう。だから……だから、手っ取り早く、あんたからスレッタを降ろしたいの。どう?」
     どう、と言われても。スレッタが安全なところに行けるなら、僕も嬉しいけど。お母さんが許すかな。
    「おかしなことだけど、プロスペラも了承済みよ。最後に一度決闘させたら、あとは私の望み通りでいいって」
     ミオリネ、なんだか僕の返事が聞こえてるみたい。
     また手が伸びてくる。今度は指先がかすめた。目の前で人を潰したのに、僕が怖くないのかな。頭のいい子らしいから、助ける為にしたって理解してくれてるのかも。なら、スレッタと仲直りできたかな。
     ランプを灯せずにいると、爪先が僕の表面をけずるみたいに撫でる。僕にとっては少しも痛くない。キイキイ、音が鳴って、手のひらがぺたりと張り付く。イヤな音で不快になるのはミオリネなのに。うまく言葉にできないでいるのがもどかしいのかも。暗がりのまま続きを待つ。
    「……あんた、スレッタの家族なのよね。スレッタを、守りたいと思う?」
     もちろん。あの子の幸せはとっても大事なことだよ。
    「プロスペラの復讐に、スレッタが巻き込まれて、いいと思う?」
     まさか。復讐を手伝うのは僕だけでいい……って、あれ?
     どうして知ってるんだろう。最初から知っていたなら、まさか花婿なんて認めなかったはず。もしかして、知ってしまったから、お母さんとスレッタを切り離そうとしてる?
     ぐぐぐ、と小さな体が丸まった。スレッタがここにいたら抱き締めたかな。ううう、とうめき声まで。
    「プロスペラは、スレッタも、あんたも! 復讐に巻き込んでる! そんなの、認められないの!」
     外に聞こえちゃわないかってぐらい大きな声。ミオリネの慟哭に計器が乱れそうになる。僕の後ろで静かに聞いていたみんなが、怯えて消えてしまうくらい、強い気持ちが伝わってくる。
     ミオリネはお母さんの復讐を知っている。じゃあ、自分が、復讐相手の娘だということも? わかってて、自分から突き放そうとしてるの?
     ミオリネはスレッタが大事。僕もお母さんとスレッタが大切。お母さんの言うことを聞かなくちゃ。でも、そのお母さんがスレッタを降ろしていいって。もう復讐に巻き込まないでいいなら、僕だってそうしたい。
     どうすればいいかわからない。ミオリネはどうやるつもりなんだろう。迷って、迷って、一瞬だけメインカメラのランプを灯す。縮こまったミオリネには見えなかったはずだけど、ミオリネはまた続きを吐き始めた。
    「私、あの子に幸せでいてほしい。私を嫌っていいから、誰にも操られないで、自由に生きてほしい。その為にエアリアル、あんたの協力が必要なのよ」
     僕になにができるんだろう。話を聞いてあげることしかできない僕に。
     ミオリネは僕になにを望んでるんだろう。
    「……ああ、ごめん。方法を言ってなかったわね……」
     そうだよ。お手伝いしようにも、仕事をふってもらわなきゃ。丸まるのをやめたミオリネは端末を操作して、ふたつのキーホルダーが描かれたアイコンを見せてくれた。
     スレッタが、ミオリネさんとおそろいにしたって見せてくれたやつ。独特のデザインがかわいいって、すっごく気に入ってた二匹。僕はあんまりかわいいとは思わないけど、ミオリネがわざわざ使ってるってことは、彼女のセンスにも合うのかな。
    「グエルとの決闘中、これで合図したら、機能停止してちょうだい。それで、スレッタを負けさせて」
     え?
     それって、でも。いいのかい、ミオリネ?
    「アプリを、作ってもらったの。あんたに合図するための……お守りって渡すつもりだから、スレッタはきっとあんたにも見せるはず」
     うん、きっとそうだね。でも、ミオリネ、スレッタが負けるってことは。
    「スレッタは私のお願いを断らないわ。それで負けたらきっと泣くでしょう。でも、そうしたら、あの子を解放できるのよ。巻き込まれただけの、こんなクソみたいな輪から……」
     ……本当にいいの? ミオリネ、一人になっちゃうよ。
    「……こんな時に、クソ親父の気持ちが理解できるなんてね」
     ミオリネが吐き捨てる。僕に言っていない独り言。ミオリネはこんな守り方しか知らない。僕も。僕も、あの子を守るゆりかごでいることしかできない。この作戦に乗ったら、僕の中で泣くだろうあの子を、慰めてあげられない……。
    「それで、引き受けてくれる?」
     うつむいていたミオリネは、またまっすぐに僕を見上げる。すごく強い意思。怖さの中にスレッタを想う優しさを隠した人。
     ……ミオリネも、スレッタの笑顔を望むなら。僕たちで、あの子を守れるなら。
     メインカメラを二度瞬かせる。今度はミオリネもはっきり見ている。
    「ありがとう、エアリアル。信じてる」
     それだけ言って、ミオリネは足早に倉庫から出ていく。
     僕に意思があるのを不気味に思わなかった。独り言にしかならなかったかもしれない提案を物怖じせずに言う。これからもスレッタに必要な人だ。そんな人が、スレッタを助けたくって、自らを犠牲にしようとしている。
     僕だって。僕もスレッタの為にできることがしたかった。
     ごめんね、スレッタ。ずっと君を守ってあげたいけれど。ずっと一緒にいたかったけど。
     僕を降りても、どうか自分の足で立って。自分の願いを見つけて。大丈夫、スレッタはすごく強い子なんだもの。お母さんや僕が一緒にいられなくなっても、きっと。きっと生きていける。
     シンプルで、残酷な作戦をスレッタにバラしてしまわないよう、慎重に奥へ奥へ封じ込める。もう引き返せない。
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