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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    okeano413

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    甲操 世界にたった一つの温もり
    遅刻した 甲の誕生日

    ##甲操

    2023.05.08

     真夜中の訪問者は足音も消さずに降り立った。頬ずりするような気配の主は、横たわる俺に構わずぎしりとスプリングをたわませる。
    「甲洋、起きて」
     一度目は聞こえなかったふりをする。他の誰かに同じことをすると困るから。
    「ねえ、起きてってば」
     二度目にやっと目を開ける。眼前に頬杖をつく少年の向こうで、時計は日付が変わる少し前を示している。
    「おはよう、甲洋。いい夢見られた?」
    「だとしても、今消えたよ」
     夢どころか、起こされて不機嫌ですって睨んでみても、ちっとも笑顔を崩さない。逆に毒気を抜かれて体の力を抜いた。撫でた髪は少し冷たい。こんな雨の夜に、どこを歩いてきたのだろう。
    「なんだよ、こんな時間に」
    「お散歩しよう。月がきれいなんだ」
     甘えるような声に起こされるのはこれで何度目だったか。両手を広げて足の指をつけてもおそらく足りない。結局連れ出されるのも同じだけ。
    「夜中に人を訪ねるなって約束しなかったっけ? 普通の人は眠ってる時間なんだけど」
    「甲洋にしかやらないから、いいでしょ。ね、早く。僕についてきて」
     少年、来主は、俺が起き上がるのも待たずに腕を引く。寝間着のままだけど、いいか。暗がりで気づくのに遅れたが、来主もパジャマ姿だった。無防備な格好をして、二人で窓際に立つ。ガラスから濡れた気配が伝わってくる。
    「どこまで行くの。外、ひどい雨だけど」
    「雲の上! ずっと高くまで飛べばお天気だから」
     ふわり浮かんだ少年につられて、足底を浮かべたところで、ふと力を込めた。手を振り払い、来主の元から一歩引く。浮かぶのをやめた来主はじっと俺を見ている。
    「俺たちは地に足をつけて生きてるんだ。浮くなんて、普通じゃない」
     月の高い時間だけれど、誰かが夜空を見上げているかもしれない。半端に飛べばカメラにだって引っかかる。空に浮かぶのは魅力的だけど。
    「そうしようと思えばどこでも歩けるよ。僕らは自由なんだもの」
    「……人らしく振る舞わないと」
    「でも、雲を越えればまんまるの月が見られるよ。ねっ? いけない?」
     断らなければ。この子が忌避される原因はひとつでも払わねば。その一方で導かれてみたいとも思う。人の常識を外れて気ままに振る舞う彼と、些細な喜びも分かち合いたい。
     今夜だけ。計器に引っかからないよう気配を限界まで消して、高く高くへ飛べば。月光に輝く少年はきっと美しい。抗いきれずにごくりと喉を鳴らす。見てみたい。俺だけが許された姿をそばで見たい。
    「……これきりって約束できる?」
    「どうかな。僕より甲洋が気に入るかもしれないから」
     視線を惑わせて、差し出されたままの手と繋いだ。細められた瞳が金色の光を帯びる。きっと建前でしかないのを見抜かれている。
    「連れて行くから、離さないでね」
     頷く間もなく雲を抜けた。全身を叩いていた雨音が消えて、清冽な空気が肺を満たす。この一瞬なら、オペレーターを起こす心配もないだろう。辿り着いたのは雲の海を踏むほど、いつもより月が大きく見える空高く。フィルターなしの月はずいぶん眩しい。じっと見ていられなくて、すぐに来主を見下ろす。彼の目は遠く高くを向いている。
    「ほら、ね、きれいでしょ」
    「うん……」
     もう月なんか見ていない。月光と、それを反射する白雲の光を浴びる来主ばかり眺めている。細い髪が金糸のように輝いて、青白い肌に映えるのは想像していたよりずっときれいだった。
    「月は見ないの」
    「もう充分。それに、今の来主もここでしか見られないから」
    「しょうがないなあ。夢中すぎて落っこちちゃわないでよね」
    「落ちたら、助けに来てよ。底で待ってるから」
     俺たちを乗せても平気そうなほど分厚い雲をつま先にかすめながら、何歩か歩くふりをする。もう少し進んだところにサークル状のくぼみがあった。そこを目指しているらしい。
    「ねっ、もう明日になったかな?」
    「たぶん。今日になってると思うよ」
     日付が変わるまで十分もなかった。会話のテンポを計算すれば、もう七日になっているはず。目当ての場所に立ち止まる来主につられて、ふりだけ動かしていた足と体を止める。
    「じゃあ、僕が一番最初だよね」
     なにが、と訊ねる前に来主が背伸びした。浮かんでるのに背伸び? とか、部屋でだって一番だろとか言う前に、唇が重ねられる。くっつくのは一瞬だった。
    「お誕生日おめでとう、甲洋。僕といてくれてありがとう」
     そのまま、手を繋いだまま、ふわりと浮かぶ。さみしいもう片方を差し出すと、にんまり笑いながらそちらも繋いでくれる。
    「あは、かわいい顔」
    「お祝いで連れてきてくれたの?」
    「うん。この景色と僕がきみへのプレゼント」
     してやったり顔を崩してやりたい。ついでに一度くらい呼べとねだられていたのに応えよう。どこかへ飛んでいってしまいそうな軽い体を抱き寄せて、腕の中に繋ぎ留める。
     捕まえられてくれた子の手が背中に回る。境界をなくすほどぎゅうっと抱き締めて、耳に囁き入れる。
    「ありがとう、操」
     俺たちと出会った個体の名前。今はこの子だけの名前。いつもは苗字にあたるほうを呼ぶのがしっくりくる。だけど、一日くらいは特別にしたっていいだろう。
    「えっ! ねえ、今、僕の名前、呼んだ!?」
    「呼んだよ、操」
     すりついてもう一度。歩くふりをすっかりやめたかたまりのまま、幸福の熱を帯びる俺の心みたいに、ふわふわ浮かぶ。
    「わ! えへへ。ずっと呼んでくれる?」
    「今だけ。明日になったらやめるから」
     飛ぶな、なんて言ったのに、今じゃ抱き締めやすくて助かるなんて思ってる。操と呼ぶのも名残惜しくなったらどうしようか。構わない。あとになってねだっても、しょうがないなと笑ってくれるだろう。
    「じゃ、一生ぶん呼んで。ベッドでも、お店でも、おつかいの時も」
    「みんなの前で?」
    「いいでしょう? だって今日はきみの誕生日だよ」
     そうなると、どちらへの贈り物になるのだか。くつくつ笑いながら、地上へと足を向ける。帰るのだと判断した操がまた俺ごと転移して、抱き締めあったまま俺の部屋へと戻りつく。
     重力の戻った体を下ろし、もう一度、ぎゅうっと抱き締めてから手放しても、操は帰ろうとしなかった。靴下を脱ぎ落として、俺より先に俺のベッドへ上がり、枕の半分まで陣取る。
    「一緒に寝るの?」
    「うん。おかあさんとクーにはお手紙置いてきたから」
    「そっか。朝食も作ってくれる?」
    「甲洋のごはんがいいな。今日いちにち、僕の料理はおあずけ」
     なんだそれ。けど、ちょうど操用のパンもジャムも買い足したばかりだ。誕生日だから誘われてくれないかな、と備えていてよかった。冷蔵庫の中身でメニューを考えながら、同じ布団に潜り込む。空に上がって冷えたのか、温もりが恋しかった。
    「今日はいつまでいてくれる?」
    「明日までお泊りするよ。僕といるの、好きでしょ?」
     おっしゃるとおり。いつも通りで最上のプレゼント。指を絡めて目をつむる。こうしていれば同じ夢に行けるから。
     あちらこちらと寝返りを打って、まるまりながらくっついてくる操の体温にほうっと長く息を吐く。
    「おやすみ甲洋。また明日ね」
    「おやすみ、操。呼ばせてくれてありがとう」
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