「俺が諦め悪いの、よお知ってるでしょ」
なにを今更、と片目を細めて笑う目の前の男──宮侑に、北は一瞬、息ができなかった。ぐうと喉を堰き止める動揺を、なんとか飲み込んで声を出す。
「っでも、今までそんな素振り……」
「人のもんとる趣味ないから黙っとっただけや」
ほんまはずっと、いつかこの気持ちに殺されるんちゃうかって、吐きそうなりながらアンタと喋っとった。
ぐ、と眉間に皺を寄せた侑は、自嘲するように笑う。
「誰のもんでもないなら、俺のもんになってや、北さん」
◇
「えっ北、離婚したん?」
テーブルの端から飛び込んできた声に、侑の心臓がどっと跳ねる。周囲から一瞬音が消えて、手に持つグラスの結露が小指を伝って滴り落ちるのが、妙に鮮明に感じられた。ちら、と視界の端でその声の出どころを窺うと、当の本人はなんでもない風に焼き鳥の串を口に運んでいる。
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