もしもヒュンケルが地底魔城でバルトスと仲良く暮らしていたら ヒュンケルはジョウロに水を満たした。小さい頃から変わらず使っているジョウロは、今では片手で持てるほどになった。もう片方の手には植木鉢を持っている。普段は部屋に置いてあるのだが、天気の良い日は外へ運び出すことにしていた。
「トマトの橫には置くなよ」
植木鉢に植わっているキギロが言った。キギロは苗木のような小ささで、細い枝を伸ばしている。昨日は畑の横に置いたので虫が寄ってきたらしい。
「わかった」
ヒュンケルは言葉少なに答える。十をいくつか超えたほどの年齢になったヒュンケルは畑の管理を一任されていた。
通路を通り抜ければかつて闘技場だった場所に出る。そこは畑に姿を変えていた。何種類もの作物が植えられ、そのいくつかは収獲の頃を迎えていた。
ヒュンケルは日の当たるところへキギロの植木鉢を置いた。キギロは勇者との戦いで大きなダメージを負ったものの、挿し木をしてなんとか再生した。あれから十年ほどが経つが、まだ苗木程度の大きさにしか育っていない。
「ヒュンケル、ここだったか」
その声に見ればガンガディアが本を片手に来ていた。キギロはガンガディアを見ると小枝を振り回して叫んだ。
「ちょっと、ボクの生育にいい土地のこと探してくれてるんですか!」
「……過酷な環境の方が味が良くなると」
「ボクは大きくなりたいんであって、味なんてどうでもいいんですよ!」
「ああヒュンケル、バルトスが探していた」
ガンガディアはキギロの植木鉢を遠くへ押しやりつつ言う。
「わかった」
「水やりは私がしておこう」
ガンガディアはヒュンケルからジョウロを受け取るとキギロに水をやった。顔めがけて水をかけるものだからキギロが文句を言う。それも毎度のことだった。
ヒュンケルはバルトスの部屋に向かった。ノックをしてから部屋に入る。昔はこの部屋でヒュンケルも生活していたが、最近になって一人部屋を与えられた。ヒュンケルはそれを少し寂しく思っているが、それを上手く言えないでいた。
「ヒュンケルか。こっちへおいで」
バルトスは手招きして椅子をすすめた。それはバルトスが作ってくれたヒュンケル用の椅子で、今では少し小さい。しかしヒュンケルはそれを気に入っていた。
「実は話があるんだよ」
優しい声音でバルトスは言う。ヒュンケルは頷いてバルトスの言葉を待った。
「実はなヒュンケル……お前も大きくなってきただろう。立派に成長してくれて嬉しい。それでだ。やはりお前は人間の街で暮らすのがいいと思ってな。つまりこの城を出て……」
そこまで聞いてヒュンケルは立ち上がった。その表情が強張っていることに気付いてバルトスは慌てた。
「ヒュンケル」
「嫌だ」
「すぐに一人で暮らすわけではない。ガンガディアはモシャスが出来るから、慣れるまで一緒に街で暮らしてみて……」
「嫌だ!」
ヒュンケルは叫ぶと部屋を飛び出した。バルトスは追いかけようと立ち上がったが、思い直して腰を下ろした。六つの手で頭を覆う。バルトスだって我が子を手放したいわけではない。しかしヒュンケルは人間だ。いずれ人間と共に生きることになる。そのためにもバルトスはヒュンケルがこの地底魔城を出るほうが良いのではないかと考えていた。
***
ヒュンケルはがむしゃらに剣を振っていた。広い訓練場はよくヒュンケルが修行に使う場所だ。しかし今は修行ではなく、やりきれない気持ちをぶつけるために剣を振っていた。ヒュンケルはずっとバルトスのような剣士になりたいと思ってきた。そしてなんの疑問もなくこの生活が続くのだと思っていた。父とガンガディアと小さなキギロとの生活。それは穏やかな生活だった。
ヒュンケルは大きく振り上げて剣を振り下ろした。バルトス、そしてアバンの指導を受けたヒュンケルの剣は立派な戦士のものだった。そのことをバルトスも喜んでくれていた。それなのに出て行けと言う。ヒュンケルは込み上げてくる感情を殺すために唇を噛んだ。それでも気持ちは収まらず、剣を振り回す。感情に任せた剣は虛しく空を切った。
「……はぁ……」
ヒュンケルは頭を振って剣を置いた。こんな無様な剣の扱いをしたら父の剣が泣く。ヒュンケルは頭を冷やそうと訓練場を出た。見れば夕陽が沈む時刻だった。
ヒュンケルは闘技場に足を向ける。キギロを部屋に連れ帰ろうと思ったからだ。
夕暮れの闘技場は真っ赤に染まっていた。その中でガンガディアの姿が見える。そしてその横に小さな人間がいた。それが大魔道士と名乗る勇者一行の一人だとヒュンケルはすぐに気付いた。彼が時々こうしてガンガディアに会いにくることを何度か見ている。大魔道士は何やらガンガディアと話し込んでいたが、やがてルーラで飛び去っていった。
「ガンガディア」
ヒュンケルは闘技場を見渡しながらガンガディアに近づく。キギロの姿がどこにも見えなかった。まだ苗木のキギロは自分で歩くことはできないはずだ。
「キギロは?」
「キギロなら私の部屋に連れて行ったよ」
「そうか」
ヒュンケルは少し迷ってからガンガディアを見上げた。
「ガンガディアは、人間が嫌いではないのか?」
あの大魔道士は人間だ。しかもガンガディアが魔王軍として戦っていた相手だ。それなのに今も時折会っている。ヒュンケルにはそれが不思議だった。
「……ああ、大魔道士と会っているのを見たのかね。少し相談事があって来てもらっていたのだよ。人間を嫌いかどうかか。さて、これは難しい質問だ」
ガンガディアは少し考えるようにしてから、ヒュンケルの横に座った。それでようやく同じ視線の高さになる。
「私は人間が好きではない。同じようにトロル族のことも、まだ好きにはなれない」
ガンガディアは眼鏡を押し上げる。ひとつ息をついてから言葉を続けた。
「だが私は人間の大魔道士に憧れている。それに人間の君を大切に思っている。トロルである自分を、最近ようやく誇りに思うことができた」
ヒュンケルはガンガディアの言いたいことがわからずに眉根を寄せた。ガラスの奥の瞳が優しさを持ってヒュンケルを見ていた。
「人間や魔族といった枠組みは本質を見えなくする。好ましい人間もいれば、くだらない魔族もいる。種族ではなく、その人をよく見てみるといい。ヒュンケルは私が魔物だから仲良くしてくれるのかね?」
ヒュンケルは迷わずに首を振った。ガンガディアはヒュンケルに多くのことを教えてくれた。沢山の本を読んでくれた。文字を教えてくれた。こうして悩みを聞いてくれる。ヒュンケルはガンガディアのそういったところに信頼を寄せていた。
「バルトスから話があったのだろう。だが最終的に決めるのは君だ。よく考えて答えを出すといい。君がここで暮らしたいならそうすればいい。だがバルトスが君のことを思って言った事だとはわかってやってくれ。バルトスは君を何より大切に思っている」
「……それは、わかっている」
ヒュンケルは俯いてつぶやいた。だからバルトスにはっきり言おうと思った。ここで生きていきたいのだと。もしかしたら人間と一緒に生きたいと思う日がくるのかもしれない。だが今はここでみんなと生きていきたかった。
「……そうだ、今夜はお別れ会を開くことにしたのでね。後で私の部屋に来るといい」
「お別れ会?」
「キギロのだ。キギロはデルムリン島へ行くことになった」
***
「ちょっと! もっとゆっくり飛んでくださいよ!」
ヒュンケルに抱えられたキギロが叫び声を上げる。キギロは風にあおられて激しく揺れていた。
「すまない」
ガンガディアはトベルーラの速度を少し緩めた。ガンガディアはヒュンケルを抱え、ヒュンケルは植木鉢のキギロを抱えていた。
三人はトベルーラでデルムリン島へ向かっている。昨日は遅くまでお別れ会と称して思い出話に耽っていた。ガンガディアとバルトスはワインを飲み、キギロは苗木だからと水しか貰えず文句を言っていた。そして今朝になってバルトスに見送られて三人はデルムリン島へと向かって飛び立った。ヒュンケルも同行したのは、外の世界を少し見てみたくなったからだ。
「地底魔城は広いと思っていたが、外はもっと広いのだな」
ヒュンケルは眼下に広がると大地を見ながら言った。今はパプニカ王国の上を飛んでいるらしい。人々の暮らしが小さく見える。そこに自分がいることを想像できないが、思ったほど嫌な思いにもならなかった。
「デルムリン島で悪さをするなよキギロ」
ガンガディアが釘を刺すように言う。どうやらその事について大魔道士と相談していたらしい。デルムリン島でキギロがよく育つことはわかっていたが、成長して動けるようになったキギロが人間を襲わないかが問題だった。しかしデルムリン島にはブラスがいる。今は人間の子供を育てているブラスだが、キギロの面倒も見てくれると請け負ってくれた。
「わかってますよぉ、こんなリングまでつけられて悪さなんてできませんから」
キギロの腕には腕輪のようなものがある。それはデルムリン島へ入ったら出られない仕掛けになっていた。しかも呪いがかかっており、ブラスかマトリフでないと外すことはできないという。それもガンガディアの相談によりマトリフが調達したものだった。
「ボクはあの大魔道士だいっきらい!」
キギロが憎々しげに言う。どうやら以前戦った時に酷い目にあったらしい。
「何故かね。彼は素晴らしい魔法使いではないか」
「そうやって語られるから余計に嫌なんだよ!」
ヒュンケルは煩い言い合いに挟まれながら海を見下ろす。すると少し先に島が見えてきた。デルムリン島。あそこにも魔物に囲まれて生活する人間がいるという。ヒュンケルは少しの不安と期待を胸にその島へ降りていった。
***
かつては地底魔城と呼ばれた場所は、今では改修を重ねて居心地の良い城となっていた。
ヒュンケルは暗雲の空を見上げる。今ではヒュンケルも立派な青年に成長していた。
空は灰色の雲で覆われている。その不吉な様子に覚えがあった。それは幼い記憶に刻み込まれている。
「この気配は……ハドラー様」
バルトスもヒュンケルに並んで空を見上げた。バルトスのほうがその気配をはっきりと覚えている。ヒュンケルは心配そうにバルトスを見た。ハドラーがかつてバルトスの命を奪おうとした事を忘れたわけではない。ヒュンケルは決意を固めて拳をきつく握った。
するとそこへもう一人やってきた。彼もこの元地底魔城に住んでいる一人だ。
「ハドラー様が復活されたらしい」
重苦しく告げたガンガディアはバルトスとヒュンケルを見る。
「我々は許されないだろうな」
「致し方あるまい」
ガンガディアとバルトスは沈痛な面持ちだった。バルトスもガンガディアもいつかこの日が来るとわかっていた。
彼らがこの地底魔城に暮らしているのは、ハドラーが倒れた後に勇者に降伏したからだった。
「父さんはオレが守る」
ヒュンケルは憎しみのこもった目で曇天を見上げていた。ヒュンケルはハドラーがバルトスを殴るのをこの目で見ていた。ヒュンケルはハドラーが姿を消してから慌ててバルトスに駆け寄ったが、バルトスは今にも崩れそうだった。だがそこへガンガディアがやってきた。ガンガディアは大魔道士と戦っていたが、バルトスを見て戦うのをやめた。ガンガディアは傷ついたバルトスと、そのバルトスに縋り付いて泣くヒュンケルを庇うように立った。その姿にマトリフは攻撃の手を止めた。
そこへアバンが来た。ガンガディアは降伏する代わりにバルトスを回復してくれと言った。そして二度と人間を襲わないと約束した。そこでマトリフはバルトスに回復呪文をかけた。
それから三人はひっそりと地底魔城で暮らしてきた。だがバルトスが死ななかったということは、ハドラーは死ななかったということだ。いずれハドラーは帰ってくる。バルトスとガンガディアはその日が来ることを覚悟していた。
だがそれはヒュンケルも同じだった。ヒュンケルはずっとハドラーを倒すことを目標に修行してきた。ハドラーが復活したと聞いて、やっと恨みを晴らすときがきたと思ったのだ。しかしバルトスは首を横に振った。
「ヒュンケル。憎しみで剣を濁らせてはいけない」
「しかし」
「ヒュンケル、君は確かに強いが、ハドラー様はおそらく以前より強くなって帰ってきたのだろう。一人で勝てる相手ではない」
バルトスとガンガディアに嗜められてヒュンケルは唇を噛む。するとそこへルーラの着地音が響いた。
「まさかハドラー様か」
「いや、この着地音は」
三人は音のした方へ向かう。元地底魔城へ降り立ったのは、かつての勇者一行だった。
***
アバンはヒュンケルを見ると和かな笑みを浮かべた。対してヒュンケルは腕を組んで視線をそらせる。その様子は数年前にアバンがヒュンケルに剣を教えていた時と同じだった。
「久しぶりですねヒュンケル。すっかり大きくなって」
「ああ」
アバンの言葉にヒュンケルは言葉少なに頷くだけだ。それはヒュンケルにとってアバンがあくまでも「勇者」だからだ。ヒュンケルは地底魔城で育った。そこへ勇者であるアバンが攻めてきた。そのときの恐怖を忘れたわけではない。ヒュンケルにとってハドラーが憎い相手であるのは間違いないが、だからといってアバンを好きになれるわけではなかった。
「ハドラーのことはお気づきですか」
アバンがバルトスとガンガディアに言う。二人は頷いた。
「君たちも気づいていたようだね」
「オレは会ったんだよ」
アバンの後ろにいたマトリフが言う。面倒臭そうに耳に小指を突っ込んでいる。マトリフは少し考えるようにしてから低い声で言った。
「ありゃ昔より強くなってるぜ」
「やはりそうだったか。感じるエネルギーが以前より大きいと思っていた」
ガンガディアは眼鏡を指で押し上げる。ハドラーのエネルギーは今も感じていた。ガンガディアは魔王の邪悪な意志に抗うほどの力は身につけているが、胸の内が支配されるような騒めきを感じていた。
「そんで、お前らはどうすんだよ」
マトリフはガンガディアたちを見渡す。
「どうするとは?」
「昔みたいにハドラーにつくのか?」
「もう人間は襲わないと約束をしたはずだが」
「そんな約束を律儀に守るのかよ。ま、オレらには好都合だがな」
軽い声で笑うマトリフをロカが肘で突いた。
「敵を増やすようなこと言うなよ」
「こいつらは敵でも味方でもねえ。背後から襲われなきゃそんでいい」
「それは私も同意見だ。馴れ合いはしない」
ガンガディアが高い位置からマトリフとロカを見下ろす。それは敵対していた時と同じほどの威圧感だった。
「ヒュンケル」
バルトスはヒュンケルの背にそっと手を添える。ヒュンケルがハドラーを憎んでいることも、アバンを素直に慕えないこともバルトスはわかっていた。
「お前はどうしたい?」
「考えるまでもない。オレはハドラーを倒す」
「では、私と一緒に来てくれませんか」
アバンの言葉にヒュンケルは一瞬目を見開いたが、口を歪めて笑った。
「オレは一人でハドラーを倒す。貴様らには加勢しない」
「ヒュンケル」
バルトスはヒュンケルの腕を掴むと向き合った。
「お前は強い。だが一人で勝てる相手ではないのだよ。アバン殿と力を合わせれば、勝てるかもしれん」
「それでは意味がない。奴はオレの手で葬る」
「んー、その考えはバッドですよ」
アバンは立てた人差し指を左右に振る。その能天気とも取れる言動がヒュンケルを苛立たせた。
「ヒュンケルは仲間の大切さを知っているでしょう。ここでの生活でそれを学んだはずです」
ヒュンケルはバルトスとガンガディアを見る。生活をする上で助け合いは必要だ。それが仲間を大切にするということに繋がるとヒュンケルにもわかる。
「ならオレは父さんやガンガディアと戦う。貴様らの仲間にはならん」
ヒュンケルの頑なさに、アバンは表情を緩めて頷いた。
「そうですか。強力な戦士の助けを借りたかったのに残念です。きっと今のあなたの力は私を驚かせてくれると思ったのですが」
その言葉にヒュンケルはアバンを見た。ヒュンケルはアバンの指事を受けた後も鍛錬を怠らなかった。今ではアバンをも凌ぐという自信さえある。そしてそれをいつしか見せつけたいと密かに思っていた。
するとガンガディアがヒュンケルの肩に手を置いた。
「ヒュンケル。私はハドラー様と一緒に人間を滅ぼすつもりはないが、ハドラー様と戦うつもりもない」
ガンガディアの言葉にバルトスも頷いた。
「ここへハドラー様が攻めてきた時だけ、ヒュンケルを守るためだけに戦おうと決めていた」
バルトスの言葉にヒュンケルは驚く。ハドラーが死んでいないと気付いていたバルトスとガンガディアはそのように取り決めていたらしい。
「彼らと一緒に行ってはどうだ。修行の成果を試してくるといい」
「だが無理はするな。いつでもここへ戻って……」
バルトスの心配をガンガディアが止めた。バルトスはヒュンケルに伸ばしかけていた手を戻す。
ヒュンケルは眉根を寄せて手を握りしめたが、意を決したように顔を上げた。
「わかった。ハドラーを倒すためだ」
「じゃあ決まりですね。しばらくはギュータで修行しようと思うのですが、構いませんね?」
「ふん。好きにしろ」
「ああ、そうそう。キギロは元気そうでしたよ。ここへ来る前にデルムリン島へ寄ってマホカトールをしてきたので、島の皆さんは無事ですから」
アバンがピースサインを作ってみせる。しかしガンガディアが首を傾げた。
「それはキギロが無事ではないのでは?」
「いえいえ、彼はデルムリン島ですくすくと育ってベリーベリー良い子に育ちましたからね。詳しくはデルムリン島育ちのダイ君に聞くといいですよ」
「ダイ?」
ヒュンケルはハッとしてアバンを見る。ダイ。一度だけデルムリン島に行ったときに会った人間。ダイはまだ幼かったが、少しだけ一緒に遊んだ。ヒュンケルと同じく魔物に囲まれて育つダイに共感を覚えたのだ。
「ダイ君も来てますよ。彼は勇者です。それに魔法使いのポップ。今まさに武闘家の修行中のマァム。そしてあなた。新しい世代が育っていることが嬉しいです」
「ふん……馴れ合うつもりは……」
ヒュンケルは気を許しそうになったことに居心地が悪くなった。つい助けを求めるようにガンガディアを見る。するとガンガディアはマトリフと何やら親しそうに喋っていた。先ほど馴れ合うつもりはないと言った威圧感はどこへいったのか。ガンガディアがマトリフに憧れていることを思い出し、ヒュンケルは遠い目になった。
「さて、そろそろ戻るぞ」
集合しろ、とマトリフが呼びかける。バルトスは畑で取れた野菜をアバンにお裾分けしていた。そしてヒュンケルを抱き締めると、無事に帰っておいでと言った。
「行ってくる」
ヒュンケルを連れたルーラの軌道をバルトスとガンガディアは見送った。