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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    本誌に瘴奸が出ているいつもの幻覚

    209話にも瘴奸がいて良かった〜「あまり無理をなされるな」
     瘴奸の言葉に、常興はつんと顔を背けた。玄蕃が率いる狐達によって、小笠原は散々な目にあってしまった。
     常興は濡れ縁に座り、桶に浸した手巾で体を拭っている。常興も新三郎と共に戦ったが、まんまと罠に嵌り、落とし穴に落ちてしまった。そのせいであちこち打ち身ができている。それ自体は大した怪我ではないものの、一度座ってしまうと立ち上がれないほどの疲れを感じていた。
     瘴奸は常興と同じように濡れ縁に座り、のんびりと月でも眺めているようだった。
     常興は深いため息を吐く。まだ後処理は終わっていない。鎮火は済んだが、残った兵糧を調べることは新三郎に任せていた。少しだけ休むつもりでここへ来たが、いい加減に戻らねばならなかった。
    「常興殿、髪に白いものが増えましたな」
     しみじみと言う瘴奸に、常興の額に青筋が浮かぶ。瘴奸は澄ました顔でこちらを見ていた。同じ言葉だとしても、なぜか瘴奸に言われると無性に腹が立つ。
     だが、最近では体の衰えを感じずにはいられなかった。あの頃とは違う、と思い返すのは、貞宗と一緒に戦場を駆けていた頃だ。
     しかし、そんなことは言っていられない。若い政長を支えるために、立ち止まることなどできなかった。
    「お前は良いな、髪が白くならなくて」
     嫌味っぽく言っても、瘴奸は気にした風もなく口元に笑みを浮かべていた。恐ろしくはないが、どこか嘘っぽい。やはりいけ好かない男だと思う。
    「髪が白くなるほど、生きたという証ではありませぬか。大殿のお髪も、私は美しいと思いましたよ」
     真っ直ぐにこちらを見つめる瘴奸の眼差しに、賊だった頃の不気味な色はない。すっかり変わったという意味では、瘴奸も同じだろう。
     常興は桶に手巾を浸した。ひんやりとした水が指先を冷やす。立ち上がらねばと思うが、体は動かなかった。
    「それに、常興殿が老いたということは、若者達は育ったということです」
     瘴奸はいつの間にか常興の前に立っていた。常興は瘴奸を見上げる形になる。
    「私はもう不要か?」
    「子守りは必要ありますまい。自分の足で進みはじめる頃合いです」
    「子を育てたこともないくせに、説教をするつもりか?」
    「こう見えても坊主ですので」
     頭を撫でてみせる瘴奸に、愛想笑いもせずに常興は立ち上がった。まず政長の様子を見に行って、その後で新三郎に任せた兵糧を確認しに行かねばならない。
    「……無理をなされるな。大事なことなので二度言っておきますが」
    「余計なお世話だ」
     常興は少し進んでから立ち止まった。そして瘴奸を振り返る。その姿は、やはり最後に見た時と寸分の変わりもなかった。
    「お前ではなく、貞宗様に会いたいものだ」
     瘴奸はやはり嘘っぽい笑みを浮かべていた。その体は風に吹かれた煙のように揺れる。それを見ると、この世のものではないと感じた。
    「暫くは無理でしょうな。まだ市河殿と仲直りの最中です」
    「また市河か……結局あのお方は市河ばかり」
    「それは同意いたします」
     あの世へ行ってもあの二人が仲睦まじいとは妬けて仕方がない。常興はあの世に乗り込みたい気持ちをぐっと堪えた。
    「それで、あの世とやらはどうなんだ」
    「意外と楽しいところです。モグラ叩きという未来の遊戯がありまして。それがモグラではなく大殿と長寿丸殿が出てくるのです」
     訳のわからない事を言いはじめた瘴奸に、常興は今度こそ背を向けた。以前も「未来の田楽は気分が上げ上げになるのです」などと言っては常興を混乱させたのだ。
     常興は軋む体で息を吐きながら歩いた。まだ、やることがあるのだと己に言い聞かせる。
     すると瘴奸が常興の背に向かって声をかけた。
    「常興殿はまだあの世には来ないでください」
    「行ってる暇などない!」
     つい怒りのまま振り返ったが、そこに瘴奸の姿はなかった。本当に煙のように消えてしまっている。あまりに呆気なく、常興はつい目を瞬いた。
    「……次に化けて出るときは貞宗様をお連れしろ。政長様のご活躍ぶりをお伝えしたい」
    「御意」
     声だけが聞こえた気がして、常興は夜空を見上げた。しかしそれは一瞬のことで、常興はすぐに歩みはじめた。
     






    〜30分前〜







     常春の空に桜が映える。現世のしがらみから抜け出た先にあるのが、これほど長閑な世であるなら、心も穏やかになるというものだと瘴奸は思う。
     しかし、この長閑な風景の一角で、異様に盛り上がっている二人がいた。貞宗と市河である。二人は顔を突き合わせて、あるものに見入っていた。
    「あのクソ狐め!」
    「ゆけ!常興!新三郎!」
     二人が熱心に見ているのは、転霊美と呼ばれるものだった。薄い板なのだがまるで水面のようにものを写す。それはこちらへ来た者の娯楽となっていた。瘴奸も歴史番組というものを見ては、未来について勉強していた。
     ところが今放送されているのは、本誌生中継というものだった。現世で起こっているものを、少しだけ垣間見れる番組で、現在は小笠原の兵糧基地が映されている。小笠原が映るとあって、貞宗と市河は熱心に見入っていた。
     ところが小笠原兵糧基地は風間玄蕃に奇襲をかけられていた。ちょうど新三郎が落とし穴に落ちている。貞宗の息子である政長は落とし穴から這い出ると、懸命に玄蕃へと向かっていった。
    「あれほど連射はするなと言ったのに!」
     貞宗は映される内容に一喜一憂し、熱心に息子の様子を見ていた。政長もいい歳だが、いつまで経っても親は子が心配らしい。
     瘴奸は市河を押しのけると貞宗の隣に腰を下ろした。貞宗と市河はこちらに来てようやく仲直りしたらしく、以前のようにベタベタとしているので瘴奸は気に入らない。
    「ほお、これが以前おっしゃってた萌え所ですか」
     転霊美には玄蕃の変装した貞宗が画面いっぱいに映っている。以前も玄蕃は貞宗に化けたらしいが、瘴奸は話に聞くだけで実物を見るのは初めてであった。
    「立たぬか政長!はよう射れ!」
     結局政長は玄蕃を射れぬまま、取り逃してしまった。貞宗は興奮して拳を床に叩きつけている。
    「なぜみんなアレに騙されるのだ!政長ならば偽物であると見抜けるであろう!」
    「そもそも死んでますからね」
     死人に化けるなど、自ら変装であると明かしているようなものだ。しかしそれでも玄蕃は、貞宗に化ければ政長が怯むと予想したのだろう。実際に政長は射れなかった。
     すると、市河が宥めるように貞宗の肩をさすった。
    「政長殿は偽物と見抜いてなお、射れなかったのですよ」
    「む……そうか」
     市河の言葉に貞宗の激昂は収まったようだ。すると、転霊美がプツンと小さな音を立てた。放送が終了したようだ。この本誌生中継とやらは気まぐれで、少ししか写してくれないし放送は不定期で、数年単位で放送がない時もあった。
    「待て、まだ終わるな!」
     貞宗は転霊美に飛びついて叩いている。すると諏訪頼重がやってきて「壊れるからやめてくだされ」と貞宗を羽交締めにした。すると市河が頼重に飛び蹴りをするので、瘴奸は貞宗から頼重を引き剥がした。
    「大殿、何をそれほど心配なさっているのです」
     政長は兵糧こそ失ったが、大怪我をしたわけでもなかった。すると貞宗はもう何も映っていない転霊美を指差した。
    「常興が落とし穴から出てきておらぬぞ!」
     新三郎が落とし穴に落ちているのは見たが、どうやら常興も落ちていたらしい。貞宗は政長ばかり見ているかと思ったが、郎党たちを隅々まで見ていたのだろう。
    「あれもいい歳だ、もしや骨でも折っているのではあるまいな」
     貞宗は落ち着かない様子で転霊美を覗き込んでいる。しかしどうにも映らないとわかると、瘴奸を見上げた。
    「瘴奸、現世に行って常興の様子を見てきてくれぬか?」
     本誌生中継がなければ、あとは現世に降りなければ様子はわからない。瘴奸はこれまでも何度か、貞宗に頼まれて現世に行ったことがあった。
    「私が行ったら常興殿は嫌がりますよ」
    「そこを頼む。儂が行ったらこちらへ来たいと言うかもしれぬ」
    「俺が行ったら斬られましたしね」
     アハハと笑う市河に、常興の気持ちがわかると瘴奸は思った。あの世の者が現世に降りても肉体はなく、煙のように斬れはしないのだが、それでも常興は太刀を振り回して市河を追い返したらしい。
    「では、様子を見てきます」
     よっこらしょと立ち上がった瘴奸の手を貞宗が掴んだ。
    「無理をするなと、常興に伝えてくれんか」
     縋るように言う貞宗に、瘴奸は少々胸が苦くなった。これほど貞宗に思われる常興を羨ましく思う。瘴奸の知るずっと以前から小笠原に仕える常興を、貞宗はよほど大切に思っているらしい。
     瘴奸はにこりと笑うと貞宗の手をぎゅっと握った。
    「御意」
     



     
     

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    なりひさ

    DONEガンマト「時の砂」その後の蛇足。弟子に会いたくて未来へ来ちゃったバルゴート
    なにこれ修羅場じゃん ポップは焼きたてのパイを持ってルーラで降り立った。アバンの料理教室で作った自信作である。折角なのでマトリフと一緒に食べようと温かいうちに持ってきた。
    「師匠ぉ〜ガンガディアのおっさん〜お邪魔するぜ」
     呼びかけながら入り口をくぐる。しかしいつもなら返ってくる返事がなかった。人の気配はするのに返事が無いとは、来るタイミングが悪かったのだろうか。ポップはそろりと奥を覗く。
    「えっと、これどういう状況?」
     ポップは目の前の光景に頭にハテナをいくつも浮かべながら訊ねた。
     まずガンガディアがマトリフの肩を抱いている。優しく、というより、まるで取られまいとするようにきつく掴んでいた。ガンガディアは額に血管を浮かべてガチギレ五秒前といった雰囲気だ。そのガンガディアに肩を抱かれたマトリフは諦念の表情で遠くを見ている。そしてその二人と向かい合うように老人が座っていた。ポップが驚いたのはその姿だ。その老人はマトリフと同じ法衣を着ている。かなりやんちゃな髭を生やしており、片目は布で覆われていた。その老人がポップへと視線をやると立ち上がった。
    2209