尋問 瘴奸が地頭になってから、征蟻党の慣習や道徳が厳しく指導されるようになった。
人殺し、略奪、人妻との密通。これら全て禁止。
御成敗式目に定められていることは最低限守るようにと瘴奸からお達しが出され、これまで賊として生きてきた征蟻党の面々は盛大に文句を口にした。
けれども地頭がそれらの罪を取り締まる立場なのだから、その地頭の郎党が悪事を働いたとあっては周りに示しがつかない。瘴奸は郎党たちが少しでも怪しい動きを見せたら、即刻忠告をしていた。
そんな中で事件は起こった。
とある夫婦の家に賊が押し入ったのだ。賊は妻を襲おうとしたが、間一髪で夫が賊を追い出したという。未遂ではあったが、不届き者を捕まえて欲しいと、地頭である瘴奸に訴えがあった。
瘴奸は夫婦に必ず賊を捕まえると答えて帰すと、真っ先に郎党たちを集めた。犯行は暗闇の中行われたため、人相着衣などは全て不明である。そのため、犯人に白状させるしかなかった。
瘴奸は今にも斬りかかりそうな殺気を滲ませながら郎党を見渡す。郎党たちは縮み上がった。
「この中で身に覚えがあるやつがいたら出てこい。今なら首を刎ねるだけにしておいてやる」
郎党たちは顔を青くしてお互いの顔を見合っていた。誰しもが「うちの誰かがやったに違いない」という悪い信頼をしていたからである。
「庇い立てした奴も首を刎ねる」
瘴奸が太刀を抜いた。郎党は巻き込まれては御免だと、視線を地面に落とす。誰でもいいから早く名乗り出ろと無言の圧力をかけ合った。
嫌な沈黙が続いた。瘴奸は全員をゆっくりと見渡してから、近くにいた腐乱に太刀を向けた。
「お前か?」
他の郎党であればそれだけで震え上がったが、幹部は伊達ではない。腐乱は肩をすくめると「俺じゃない」と言った。
「俺がヤるなら、二、三人は相手が欲しいもん」
平然と言ってのける腐乱に、周りの郎党から称賛の声が上がる。それもそうかと納得した瘴奸は、太刀を次の者に向けた。
「ではお前か?白骨」
矛先を向けられた白骨も、やはり慌てなかった。
「俺じゃねえよお頭。俺はヤるより、ヤられるほうが好きだし」
そうだ!白骨の兄貴はヤられるほうが好きだ!とどこからか声が上がる。狭い仲間内でお互いの性事情が隠せるわけもなく、筒抜け状態であった。
確かに白骨の好みとは違うようだと納得した瘴奸は、ゆっくりと歩いて次の者の前に立った。死蝋である。
死蝋は少し驚いたように周りを見た。自分に嫌疑がかけられるとは思わなかったのか、半笑いである。
「お前がやったのか?」
瘴奸は太刀を死蝋の首筋に当てた。死蝋はそれがくすぐったかったのか、指先で首を掻いた。
「俺じゃねえよ、頭」
死蝋はニヤリと笑うと顔を瘴奸に寄せた。
「もし俺が押し倒すなら、狙うのは女じゃなくて旦那のほうさ」
たっぷりと沈黙が流れてから、どっと笑いが起こった。腐乱は腹を抱えて笑いながら「違いねえ!!」と叫ぶ。死蝋が瘴奸に懸想していて、たまに同衾していることは征蟻党の中では周知の事実であった。
結局、征蟻党は全員白で、賊は後日捕縛して処された。
そして死蝋も、瘴奸から暫くお預けをくらうこととなった。