アバマト 沈んだ夜風が肺を満たした。湧き上がる怒りをなんとか抑える。
眼下のハドラーは驚いているようだが、オレが誰だかはわからない様子だった。
そのほうが都合がいい。ルーラでポップの横に降り立つ。ポップに小言を言いながらもハドラーから目を離さなかった。
どうしてもこいつだけは許せないからだ。
「クールでなけりゃならねえんだ」
それは殆ど己に言い聞かせていた。今にも怒りのままに呪文を撃ってしまいたくなる。
アバンが死んだ。ハドラーから弟子たちを守ったからだ。
それを聞いたとき、あいつならやりかねないと思った。それが実感を持って胸に沁みていき、アバンが死んだのだという事実が棘になって胸に刺さった。それは痛みを伴ってまだ胸にある。
そのハドラーが目の前にいる。この野郎をどうしても許すことができない。
そして何より許せないのはオレ自身だった。
魔王の復活には気付いていた。だがオレは魔物が暴れ回っていることに見て見ぬふりをした。アバンならそれを放っておかないとわかっていたのに。
オレはもう人間のためには何もしたくなかったんだ。そんな価値はないと思ってしまったから。
だからアバンは一人で魔王に立ち向かった。そして死んだ。
「いいヤツはみんな死んで、オレやおめえみてえな悪党だけが生き残っちまった」
オレは許せなかった。オレはハドラーを地獄に送ってから死んでやる。そしてアバンに謝るんだ。
一人にさせてすまなかった。オレはお前の魔法使いなのにな。
胸の怒りを両手の魔法力へと変えていく。獄炎の魔王を燃やすなら生半可な炎では駄目だろう。オレが灰になるまで燃やし尽くしてやる。それをアバンへの手土産にするんだ。
「極大閃熱呪文ッ!」