Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌠 🐣 🍩 💕
    POIPOI 188

    なりひさ

    ☆quiet follow

    マトとポプ。うちの弟子をいじめやがったのかとパ国にカチコミするモンペマト

    大魔道士は夜が待ち遠しい 真新しいパプニカ城を見ても、マトリフの頭に過ぎるのは昔の出来事だった。十数年という年月は記憶の輪郭をぼやけさせるには十分な時間だが、完全に消し去るには短すぎた。
     マトリフはトベルーラで城の上空にいたから、城のバルコニーに降り立つもこともできた。だがあえて城門の外に降り立った。門兵は空から降りてきたマトリフに驚きの声を上げる。
    「姫さんに会いたいんだが」
     門兵は槍を構えながらマトリフに名を名乗れと言った。マトリフがこの城にいたのは十数年前の短い期間だ。今となってはマトリフを知る者のほうが少ないだろう。
    「大魔道士マトリフ、と伝えてくれ」
    「大魔道士? ということはポップ様の……」
    「なんでぇ、もう大魔道士の名はあいつの代名詞になっちまったのか」
     マトリフは肩をすくめる。ポップがこのパプニカの宮廷魔道士になってから数か月しか経っていない。だがマトリフ占有であった大魔道士という呼称はすっかりポップのものとして定着しているらしかった。
    「しょ、少々お待ち願います!」
     慌てて上官を探しに行った門兵の後ろ姿を眺める。その門兵はポップと変わらないほどの年頃に見えた。パプニカはいち早い復興を遂げているが、人間は急かしても早くは成長しない。城の兵士も若い者が多いのだろう。
     その後は丁重に城の中へと案内されて、小綺麗な一室へと通された。応接室だろうと見渡していると、暫くして三賢者を伴ったレオナが現れた。
    「パプニカ国王、レオナです」
     レオナは恭しくマトリフにお辞儀した。それは普段の彼女を知るものなら、他人行儀に思えるほどの所作だった。部屋の扉は音もなく閉められる。
    「そう畏るな。古巣が懐かしくなって来ただけだ」
     部屋にいるのが顔見知りだけになったのでマトリフは姿勢を崩す。それは本来の目的がレオナに会うためではなかったからだ。レオナもマトリフの様子に国王としての顔をやめた。
    「魔法使いってみんな窓から入ってくるのかと思っていたわ」
     親しみを感じさせる語調でレオナは言った。ポップは普段からそうしているだろうし、マトリフも昔はそうしていた。だが今回は便利さよりも、来訪を城の者に知らしめる必要があった。そのためにわざわざ門兵に大魔道士と名乗った。レオナはその意図を汲んで国王として会いに来たのだろう。
    「わざわざ来てもらって悪いが、あんたと茶を飲みに来たわけじゃねえんだ」
    「おかげで城内が騒がしくなったんだから」
     レオナは後ろに立つ三賢者と顔を見合わせる。三賢者はまだ硬い表情だった。マトリフが過去にパプニカに宮仕えしていた時に起こした騒動は、その場にいた者なら忘れないだろう。
    「まだオレを知ってる奴がこの城に残ってるってことだな」
    「ええ、もちろん」
    「そいつらに、ポップが世話になったと聞いたんだがな」
     レオナは表情を変えなかった。それがかえって事実であるという証明になる。レオナならポーカーフェイスを突き通すだろうとわかっていたからだ。
     それは昨日のことだ。珍しく夜にポップがマトリフの洞窟へとやってきた。ポップはいつも通りに振る舞っていたが、何かあったのだとマトリフにはわかった。それとなく聞き出すと、パプニカの大臣の話が出てきた。ポップはいくら強くても、政治という場面ではまだ経験がない。古くからパプニカに居座る古狸に、ことあるごとに邪魔されるという。そのやり方にマトリフは覚えがあった。マトリフが相談役をしていたときも、同じ大臣がいたからだ。
    「古狸を置き続けてこの国は昔と同じ道を辿るつもりか?」
    「ポップくんがやりたい事と、この国が目指す事が違うからよ」
     ポップの目的はダイを探すことだ。むしろそのためにパプニカに属したのだ。パプニカが後ろ盾になれば導入できる金銭も人員も桁違いになる。
     だが、パプニカ国の目的は国の発展だ。たとえ国王であるレオナでも、それは覆せない。いなくなった勇者をいつまでも探すために、多額の出資は出来なかった。
     レオナは国王として国を優先する決断をするが、ポップはダイを優先する。そしてそんなポップが大臣と衝突するのは目に見えていた。
     もちろんポップもレオナも、そうなる事は予見できたはずだ。それを受け入れる覚悟もあっただろう。だからポップはマトリフに相談ではなく愚痴を言ったのだ。解決は無理だとわかっているのだろう。
     だが、マトリフは可愛い弟子が虐げられて黙っていなかった。
    「お茶はいらないと仰ったけど、もう準備はできているんです。大魔道士様との会談にお茶の一つもないと形にならないでしょう」
     レオナの隙のない笑顔に、マトリフは頷いた。この聡明な指導者はマトリフの意図を正確に理解しているらしい。大魔道士として城を訪れたマトリフが国王と会談をすれば、古狸は黙っていないからだ。
     すぐに良い香りの茶が運ばれてくる。その茶器は真新しいが、パプニカの紋章があしらわれた昔からのデザインだった。それを懐かしく思う。前王ともこうして茶を飲みながら話すことが多かった。茶を運んだ給仕と共に三賢者も退室し、部屋にはマトリフとレオナだけが残った。
     レオナは完璧な仕草でカップを手に取ると、香りを楽しむように湯気を見つめていた。
    「あなた方からすれば、賢者の血族に固執することは滑稽に見えるでしょうね」
     レオナのその言葉を、全く同じように前王も言っていた。自嘲と諦観、少しの嫉妬が混ざったように言葉が響く。
     魔法の才能は血に依るというのが定説だった。それ故に魔法使いも賢者も血筋が何より大切にされている。実際に強力な力を持つ魔法使いの子が、同じような才能を持って生まれることは多い。だが、中にはポップのように、全く魔法とは縁のない両親から生まれる魔法使いもいた。それは魔法使いの才能は遺伝によってのみ決まるわけではないという事を意味するが、それでは不都合な者がいる。高名な魔法使いや賢者の末裔として権力を持った者たちだ。そのような連中はポップやマトリフにような、血筋のない者を邪道と呼んで蔑む。それがこのパプニカの王室にいる古狸の連中だった。その連中は自分たちの血族を守ることだけに執心している。
    「だが、その連中がいないと国は動かない」
     マトリフはレオナの代わりに言葉を付け足した。それも前王に言われた言葉だった。パプニカ国の豪族の殆どが賢者の血族だ。彼らが国の政治や産業の中心にいる。その連中を無視して政治は行えないのだ。
     もし、ポップがそういった血族の者なら、あるいは師であるマトリフがそうなら、城での扱いも多少は変わっただろう。ダイを捜索することすら、もっとスムーズに運ぶのかもしれない。全ては血族であるかどうかにかかっているのだ。
     レオナはマトリフに眼差しを向ける。
    「ご理解頂けているのでしょう」
    「ご理解したくねえからオレはこの国を捨てたんだよ」
     マトリフが相談役としてパプニカにいたのはごく短い期間だ。マトリフは血筋に固執する連中とは相容れなかった。マトリフは出自がはっきりとしない。いくら魔王討伐の勇者一行にいたからといって、賢者の血族でないマトリフは異端だった。
    「ポップくんは理解しているわ」
    「オレはあいつに頼まれて来たんじゃねえ。オレはオレのしたいようにする」
    「行動によっては、あなたに刃を向けることになるとわかっていますよね」
    「ああ。実際に向けられた経験があるからな」
     マトリフはようやくカップに手を伸ばす。漂う香りは昔と変わらない。前王の微笑みが目の前のレオナと重なる。

     ***

     ポップは眠り過ぎたことに気付いて飛び起きた。窓から見える太陽が随分と高い。昨夜は遅くまでマトリフの洞窟にいて、部屋に帰ってきたのは深夜だった。そのせいで寝過ごしたらしい。
     それにしても誰か起こしに来てくれてもいいだろうと、跳ねた髪を押さえながらポップは思う。法衣の長い裾を蹴飛ばすように廊下を走った。朝から話し合いがあるから遅れないように、と嫌みたらしく言われたばかりだ。だがどう考えても遅刻は確定で、言い訳のしようもなかった。
     ポップは全速力で会議堂の前に通りかかったが、その扉は開いており、中はもぬけの殻だった。いつもなら昼過ぎまで続くのだが、まさか寝坊した日に限って早く終わったのだろうか。
    「あ、ポップ様」
     呼び止められて振り向けば、顔見知りの兵士だった。年嵩の兵士隊長で、何度か話をしたことがある。
    「あのさ、みんなどこに行ったか知ってる?」
     空の会議堂を指差しながら訊ねる。寝坊しちゃったんだよね、と情けなく呟けば、兵士隊長はあたりを伺うようにしてから身を屈めてきた。まるで内緒話のように声をひそめる。
    「実は大魔道士様がいらしていて」
     大魔道士っておれだろ、と浮かんだ疑問は一瞬で弾けた。大魔道士とはつまり、マトリフのことだ。
    「え、師匠がここに来てんの!?」
     つい大きな声が出てしまう。マトリフがパプニカ王家にあまりいい思いがないことはポップも知っている。そのマトリフがわざわざ城に来るなんて、よほどのことがあったに違いない。
    「どこにいるの!?」
    「応接室ですが、いま大臣たちが向かったところで」
    「え!?」
     聞けばマトリフは突然に城へ来たらしい。大魔道士マトリフの来訪に、城の老兵たちは慌てふためいた。すぐに話はレオナまで届き、レオナは三賢者を引き連れて応対したという。
    「でもなんで師匠が。おれに用事じゃねえの?」
     それなら城門から入らずに部屋のバルコニーに来るはずだ。マトリフは過去にそうやってポップを訪ねてきたこともあった。
     大魔道士マトリフの来訪と、それにレオナ国王が対応したことは会議中の大臣の耳に遅れて入ったらしい。大臣たちは即座に会議を中止してマトリフとレオナの元へ向かったという。
    「やべえ」
     ポップは思わず口元を押さえて声を上げた。マトリフとある大臣は昔からの確執がある。顔を合わせればどうなるかわからなかった。
     ポップは廊下を全力で飛んだ。応接室は城の一番遠い場所にある。ポップがようやく応接室まで辿り着いたとき、既に騒ぎが起きていた。
    「ちょっと、通してくれ」
     人集りを飛び越えると、大臣とマトリフが対峙しているのが見えた。マトリフはこちらに背を向けている。大臣がポップに気付いて目を細めた。
    「やはり大賢者バルゴートの継承者は息女のみ。大魔道士などと下賤な二つ名を名乗る者は揃って邪道よ」
     大臣はマトリフとポップを順番に見ながら言った。しかしマトリフは言い返しもしない。大臣は蔑む視線をマトリフに向けていた。ポップは頭に血が上る。
    「てめえいい加減にしろよ!!」
     ポップはマトリフを追い越して大臣の前に立った。
    「おれのことを悪く言うのは構わねえよ。だけど師匠のことを悪く言うのは許さねえ!」
    「すぐに怒鳴るのは知性が足りない証拠だな」
     大臣はポップをけしかけた。ここで手を出せばポップに非が生まれる。ポップは唇を噛んでどうにか怒りを抑えた。するとマトリフがポップに手を伸ばす。
    「オレは自分が王道だなんて言ってねえ。こいつもな」
     マトリフはポップの首根っこを後ろから引っ張る。ポップは呻きながら後退った。マトリフは大臣を睨め付ける。
    「オレやこいつみたいな邪道が魔王に挑んでたときに、お前ら王道は何やってたんだよ」
    「無謀な行いだけが正義ではない」
    「勇者を探すのは正義だろうよ」
     マトリフの言葉にポップは体を強張らせた。しかし大臣は動じない。
    「平和な世界に勇者は必要ない。国民の豊かな暮らしを守ることが大切だ」
    「昔と同じこと言いやがって」
    「もういいよ、師匠」
     ポップはマトリフの袖を引いた。何を言っても大臣の考えが変わらないことはわかっている。
    「おれはダイを探し続けるけど、それを全員に理解して欲しいわけじゃない」
     マトリフは少し考えるようにしてから身を引いた。そのままゆっくりと手を上げると、大臣を指差す。
    「うちの弟子を虐めたらこの国を滅ぼすからな」
     大臣の顔が歪む。だがそれは一瞬で、大臣はすぐに冷徹な表情で言い返した。
    「その言葉だけで十分にお前を捕らえられる」
    「やってみろ。先にてめえを燃やしてやる」
    「もう師匠!」
     物騒なことを言い出すマトリフの腕を掴んでポップは近くの窓を開けた。これ以上マトリフが何か言い出す前にルーラを唱える。ポップとマトリフは空に向かって飛び出していった。

     ***

    「やめてくれよな師匠。突然に過保護かよ」
     こどものように怒るポップに、マトリフは指で耳をほじくった。
    「うるせえな。オレは好きなときに喧嘩を売りてえんだよ」
    「百歳超えたんだからちったあ大人しくしてくれよ」
    「へへっ、やだね」
     マトリフが椅子に座ってふんぞり反れば、ポップは呆れたように溜息をついた。マトリフはもちろん本気の喧嘩を売ったわけではなく、あくまでも牽制しただけだ。まだ若いポップがあんな魔窟に入るには、呪符の一つも必要だろう。ポップの後ろにはマトリフがいると知らしめれば、下手に手を出す者はいなくなる。
    「おれは師匠とは違うんだって」
    「年寄りはいらねえ世話を焼くのが趣味なんだよ」
    「都合のいいときだけ年寄りぶるなよな」
     ポップは言いながらマトリフの座る椅子にもたれた。年季の入った椅子は小さく軋む。
    「……でもあんがと。おれのこと心配してくれて」
     わずかに触れる腕から温もりが伝わってくる。それを感じてから、マトリフはポップの尻を蹴った。
    「……いってぇ」
    「さっさと戻れよ大魔道士様」
    「へいへーい」
     あー面倒くさ、と呟きながらポップが洞窟から出ていく。その後ろ姿はかつての頼りなさとはかけ離れていた。本当に余計な世話を焼いたのかもしれないとマトリフは思う。ポップがマトリフよりも柔軟に世を渡れることを、マトリフもわかっていた。
    「師匠さぁ」
     出入り口あたりで立ち止まったポップが大きな声を上げる。声が反響して聞こえた。
    「あん?」
    「今夜も愚痴を言いにくるから!」
     少しの甘えを含んだその声に、マトリフはつい笑みが浮かぶ。巣立ったはずの雛鳥は、まだ帰る巣が必要らしい。
    「おう」
     それを聞いて今度こそポップは洞窟を出てルーラで飛び去っていった。
    マトリフは背もたれに体をあずける。夜が待ち遠しく思えた。

     

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏😭👏☺☺🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏☺☺☺👏👏👏🙏🙏🙏🙏😭👏👏👏👏👏😭👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator