「しっかし、いくら作戦でもあんな量の札束。
よく持ってきたよな」
「そうですね。
ハララさん、本当にありがとうございました」
フブキの礼に「問題はない」と首を振った。
最初は事務所に一人帰るつもりだったが、二人が後ろから着いてきているのでいつの間にか僕の歩みもゆったりとしたものに代わっていた。
「だって、あのハララがまさか他人の為に自分の金を持ってくるなんてありえねー話だろうが」
その言葉に歩みを止めるも、デスヒコは気づかず歩いていく。
「しかもアタッシュケースいっぱいに。
明日はカナイ区に雨じゃなくて槍でも降るんじゃねーのか」
「……これが僕のお金だと、いつ言った?」
あ?とデスヒコが振り返る。
フブキは僕の後ろで余所見をしていたようで「きゃっ」と僕にぶつかった。
「おめーの金だろ?」
この金は、アタッシュケースを見る。
「今から向かうところに、返さなければならない」
「あっ、ハララ!!!
金は、金は無事なんだろうな!?」
河川敷の事務所前で居てもたってもいられなくなった所長がウロウロとしていたが、僕の姿を見つけた途端駆け寄ってアタッシュケースを奪った。
「安心しろ、1枚足りとも抜けてはない」
それは良かったよ!所長は若干怒りながらもアタッシュケースを持って事務所に帰っていった。
「あとで所長に礼を言うんだな、フブキ。
君の為だと言ったら泣きながら貸してくれたんだから」
「ヤコウ所長が、わたくしの為に?」
フブキはきょとんと目を丸くさせたが、やがて嬉しそうに目を細め「はい!」と所長を追いかけるように事務所へと入っていった。
「デスヒコも入りなよ。
僕はマルノモン地区に用がある」
地下道の方に足を向ける、デスヒコが「何しに行くんだよ」と僕を止めた。
「まさか、事務所内全ての金であのアタッシュケースが埋まると思っていたのか?」
僕の言葉にデスヒコが考える素振りを見せるので、再び歩き始める。
事務所のお金をかき集めたがこれだけしか無かった、と苦笑した所長の顔を思い出しながら僕は階段を昇った。
(了)