※そんな能力ありません「お前たち超探偵に探偵特殊能力があるように、俺ら犯罪者にも能力を持つ者がいる」
「なんで!?」
ボクが思わずツッコミを入れれば「はったりだろう」と凄く呆れたようにハララさんがため息をついた。
「はったりかどうか、今見せてやる!
この、変態特殊性癖の力を!」
「へんた……っ、元々変態は特殊性癖じゃないか!」
黙れ!大声で喚き犯人がボク達に手をかざす。
何が来るかわからないが、ボクがハララさんを守らなければと前に出た時だった。
「庇おうが関係ない!
俺の性癖を味わえ!!」
「ユーマ、帰ろう。
くだらない遊びに付き合っている暇は無い」
そう思いたいが、何故か嫌な予感がする。
「ハララさん!」
庇うようにハララさんを背後に隠そうとしても、ボクの方が身長が低い。
喰らえ!そう犯人が叫んだ瞬間、辺り一面光に包まれた。
「…………っ」
早く目を鳴らさなければと目を瞑って首を振る。
身体が浮いているように感じるのは気のせいだろうか。
ようやく薄目が開けれるようになり、ゆっくりと瞼を開ければコンクリートの地面が見え、「え?」とハララさんがボクの横で驚いたような声を出す。
しかしそれは犯人も同じなようで、ポカンと口を開けてボクを見つめていた。
「え、ボクどうなって」
そこで自分の胴体が挟まれていることに気づき、「なんだよこれ!」と暴れる。
しかしこれが能力なのかボクがどれだけもがこうともビクともしない、所謂壁に腰部分を挟まれた状態になってしまった。
「……大丈夫、か?」
珍しく動揺するようなハララさんの声に「今のところは」と声を絞り出しながら足をばたつかせる。
腰部分が拘束されているだけで手足の自由は利くし、なにより何もされていない。
腰だけで支えられてはいるが辛さを感じなかった。
「嘘だ」
ポソッと聞こえてきた声に顔を向ければ、犯人は信じられないといった表情でボクたちを見つめてくる。
「俺の変態特殊性癖が」
ハララさんがボクを引っ張ろうとするも抜けない。
太っているわけじゃないのに腰の部分がミシミシいっている。
「攻めを壁尻にする力が…………」
「かべじ……?」
ハララさんが首を捻る、どうかそのままでいてほしい。
「何故だ、お前達が付き合っていることは最早わかっている。
どう見たって攻めは」
ちらりとハララさんを見る、頼むから変な目で見ないでほしい。
「せめ……?」
ハララさんが純粋でよかったと思いながら身体をよじるも一向に拘束は解けない。
「無駄だ、その壁尻の拘束は俺がいいと言うまでか気絶しない限り絶対解けない」
「……ハララさんが攻めじゃなくて動揺したくせに」
思わずそう言えば「僕がせめ……?」ときょとんとボクを見た。
どういう意味かわかっておらず、そこがまた可愛く感じるもボクが「後で教えますから」と言えば「今」と返されてしまった。
「……今、ですか?」
「よくわからないままあいつを倒して弊害があっても困る」
それはそうだけど、しかし。
「それとも、前衛後衛的なものだろうか?」
ならば馬鹿だ、ハララさんが犯人を睨みつけた。
「ユーマの方が僕よりも強いと思ったのか?
だとしたら、君はどこを見て判断したんだ」
ボクは口を開けたままハララさんを見上げる、犯人もハララさんを見つめたまま大きく目を見開いた。
「ユーマ、もう少し待ってくれ。
犯人を倒せば解けるのなら、気絶させた方が早い」
「…………っ」
微笑みながらそう言うハララさんを見上げながら、ボクは泣きそうになった。
こんなに純粋で綺麗な人を、ボクは。
一昨日の夜に、あんな事を。
あんな、コトを。
その時に付けた耳の下の鬱血痕がボクの罪を咎めるように見つめている気がした。
「っ、……ハララさん。怒らないで聞いてくれますか?」
思わず声を震わせながらそう言えば「何故僕が君を怒るんだ?」ときょとんとしながらボクを見つめた。
この後「なるほどインテリ受けとの無知ックス……よし」という犯人が呟くのと「夜の営みで……」とボクが話したのが重なり、ハララさんの素早い足技が犯人の顔面に決まった。
ボクは直ぐに拘束を解かれたが暫くハララさんは此方を見てはくれなかった。
謝っても無言、フォローを入れようにもいい言葉が浮かばない。
『きゃっきゃっきゃ!
ご主人様も大変だね!』
嬉しそうに誰かが笑う声がするが、ボクは此方を見ずに「むち……?」と呟くハララさんをどうするべきかと頭を抱えた。
(了)