甘やかせる権利 お洒落な箱の中に仲良く並ぶ様々な焼き菓子。毛並みのいいクマのぬいぐるみに、上質な作りの冬服の数々。双子の師匠と兄弟子が城を訪れる際は必ずアーサーに何かしらの贈り物を持ってきた。
今日も今日とて、アーサーの花が咲くような満面の笑みでお礼を言われた三人は、幼い銀色の頭をこれでもかと撫で回し小さな身体に抱き着いている。傍から見れば微笑ましい光景なのだろう、だがオズは笑むどころか眉間に皺を寄せていた。オズは子どもが好きそうな物など知らないし、アーサーが好みそうな物を考えて選び贈ったこともない。今までならアーサーがこの三人から何を貰おうが一々気にすることなどなかったというのに。
子育てなんてまるで経験のないオズに育児の手助けをしてくれているのは他でもない双子とフィガロだ。確かにそれに関しては非常に助かっている。最近やっとアーサーとの距離感や生活に慣れ始めたオズは一応育ての親という立ち位置にある。だがそんな自分よりも距離感が近く仲睦まじげに接する双子達。アーサーを孫のように可愛がり甘やかしている光景に、微かに胸のざわつきを感じていた。無愛想で対話も拙い所がある自分がわざわざ甘やかそうとせずとも、そちらの方は他に任せればいいと思っていた、以前の自分ならば。
オズはアーサーを見つめ内心呟く、その位ならば私にもしてやれる、と。あの子を甘やかせる権利は誰よりこの私にある、と。
気付けば呪文を唱えていた。一瞬、淡い光がアーサーを包み、パッと消える。双子達に挟まれ抱き着かれていた筈のアーサーは瞬く間にオズの腕の中に収まっていた。きょとんとした表情のアーサーに続いて、双子とフィガロも同じく目を丸くさせて呆気に取られていたが、瞬時にオズの内心を察した彼らは面白いものを見たとばかりに好奇の視線を送りながらにたにたと笑う。オズは鬱陶しいそれらから逃れるよう背を向け、腕の中のアーサーに問いかける。
「アーサー」
「はい!」
「……何か、欲しい物はあるか」
「?、えっと……あ、オズ様に読んでほしいご本があります! スノウ様とホワイト様にいただいた絵本なのですがとっても面白そうだったのでオズ様と一緒に読みたくて……あっ、でもこれは欲しい物じゃないですね……」
「………わかった。今夜眠る前に読もう」
「! やったぁ。えへへ、ありがとうございますオズ様!」
愛し子の微笑みを見てつられるように自身の口元も僅かに緩む。未だ背後から面白がる三人の視線を受けていたオズだが、そんな煩わしさも感じぬ程、今度アーサーに贈る物について思考を巡らせ始めたのだった。
──後日、学んだことを何でも書き残せるようにと白紙の本をアーサーに贈ったオズは、飛び跳ねる程喜んだ愛し子からとびきりの笑顔をおくられたのはまた別の話。