MHA×刀剣クロスオーバー①①青藍が転生して人間に生まれ変わり、個性として天狐の能力(白狐の姿への変身、術)を持つプロヒーロー。近所に元刀剣男士がそろい踏み(人間として転生、個性は付喪神、本体をどこからでも出せる+身体能力強化))でMHAキャラとの接点はインターンか、雄英教師。
エンデヴァーと同期で、轟家と交流あり。八百 万百の従兄弟
「あら、起こしちゃったかしら。ごめんね、青藍。母様うっかりしてて」
はて、と首を傾げた。そこで俺の体が縮んでいることにも気がついて、体をぺたぺた触っていると、どうしたの?なんて母を名乗る女がしゃがみこんで聞いてきた。俺の母上はあまり好んで人間の姿を取らない。俺と違って人間にさして興味が無いからだ。なのでわざわざ人の子の姿をとる必要も無いし、ぺたぺた触るうちにこの身体が幼いことに気づいた。少々混乱しつつ、いつもの男の姿に化けようとするも上手くいかない。ハッ、と気づき狐に戻ると幼い白狐に変化した。
「あら!もう個性を使いこなしているのねえ。さすが私たちの息子!ねぇ父様?」
「ハハハ、そうだな。さて、青藍よ。私が分かるか?」
そっと近づき狐の姿になった俺の前にしゃがみこんで、母らしき女に父と呼ばれた──この場合もちろん俺の父を指す──男が変化した姿視界に入れてひっくり返りそうになった。
「父上!?」
「やはり記憶持ちか。さて、何から説明したものか」
その巨大な白狐は俺のよく知る父、紫蘭だった。
曰く、俺たちは一度死んだらしい。そして数奇なことに死んで生まれ変わったら人間として生きることになった。記憶があるのは父と俺だけ。母や親類はもれなくあの一族の一員で構成されているが、前世での記憶は無い。
曰く、今世では個性、と呼ばれる能力があるらしい。異能力と言った方が正しいそれは人口の約8割が所有し、4歳頃から発現し始める。その性質は様々で、俺の一族は代々白狐、つまり前世での能力をそのまま引き継ぐ形となるらしい。俺であれば、普段は人間、化けると白狐の姿になり、どちらの姿であっても術の行使は可能。父やほかの一族の者は狐に化ける精度が低く、長く化けてはいられないらしいが俺はおそらく違うだろうと。まあ、確かに前世では審神者になったこともあり、人の姿でいることが多かったし可愛い刀たちに望まれた時くらいしか狐の姿には戻らなかったが、ボロが出て狐に戻ってしまうようなことは極わずかだった。
そして、最後に。
「お前が使役していた日本刀の付喪神たち、たしか刀剣男士といったか?あれらはこの敷地を取り囲むように、お前とほぼ同年代の子ども、つまり人間として生まれ変わっている。青江、宗近、国永、一期、長義、国広、南泉を名乗り、記憶が戻る前にここを訪れていた」
「は!?そんなことが起こり得るんですか!?」
「俺たちが人間に生まれ変わった時点で大抵の事は受け入れざるを得んだろう。お前に記憶が無いと知っても、主ならば必ず思い出してくれると口を揃えたものだから笑いが止まらんかったわ。お前は齢7つ、他より個性の発現がかなり遅かったから、無個性かと案じる一族の者もいたがこれで安泰だな」
「その口ぶり、無個性だとやはり無能だと言うことですか?」
「今世では個性を使った犯罪者をヴィランと呼び、それらを捕縛市警察に引渡す役割のものをヒーローと呼ぶ。わが狐崎家は代々ヒーローとなる。本来、個性とは1人ひとつ持つもの、天狐や空狐としての能力はそれぞれ別の性質を持つ複合個性として、ほかより強力ゆえにヒーロー向き、と言ったところか。人の子に興味がなくお前以外は不干渉を貫いてきた我が一族がまさか、人の子を救うための一族として生まれ直すとは、これほど面白いこともあるまい」
そう快活に笑って見せた父上は、前世ほど奥底に隠した恐ろしさはなく、単純にこの人生を楽しく歩んでいるようだった。母上の変化した姿を見たことがなかったゆえに知らぬ女と思ったが、確かに今世の母も、かつての母上らしい。
あれから十数年、無事青江たちにも再会し、共に雄英高校に入学。特になんの障壁もなくプロヒーローとして働くことになった。本丸のメンバー全員で構成されたヒーロー事務所を構え、日々ヴィランの捕縛、個性犯罪の阻止に動いている。
「主、根津殿から手紙だよ」
青江が1枚の白い封筒を差し出してきたので、受け取って開封する
「前に相澤殿と話してたあのことか」
「む、なんだ俺は聞いておらんぞ主」
「悪いな宗近、決定事項になってからの発表で頼むと念押しされたものだから。本来ならお前たちの意見も聞くべきなんだろうが」
「俺たちは主の命に従うだけさ。もちろん、ただ言いなりになるってわけじゃない。進むべき道を違えるような主じゃないとよく知っているからな、どちらにせよ反対はしないさ、なあ三日月?」
「それもそうだな」
「化け物斬りと国広は、もうこっちに向かってるって話にゃ……だ!」
「っふふ、了解。知らせてくれてありがとう、南泉」
「主、今笑ったろ?」
「悪い悪い、毎度ながら可愛らしいと思うとつい
。仮眠中だったろ、起こしてすまないな」
「ちょうど起きたとこだから、別に気にする必要は無いにゃ」
目を擦りながら、仮眠用の部屋から出てきた南泉を労ってそっとふわふわな猫っ毛を撫でてやる。すると、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
「今戻ったよ。任務は恙無く。ついでに担当地区の見回りもしてきたが、迷子がひとりいただけだ。すぐに親も見つかって送り届けてきたよ」
「ご苦労さま、ちょうどみんな揃ったから話をしようか」
「雄英高校に教師として出向かないかという、根津校長からの依頼だ」
雄英高校に教師として出向かないか。という誘いから遡ること10年。
俺は万年No.2と揶揄されることの多い、エンデヴァーと同期のヒーローとして活躍していた。俺個人の個性の汎用性の高さ、遠距離と近距離どちらでも戦えることから優秀だと学生の時からずっと言われてきており、エンデヴァーとはいつの間にか切磋琢磨し合う仲となっていた。1人だけ、オールマイトを超えるべく本気で道を作ろうとしていたこいつは、結婚した時から少しずつ道を踏みはずしていく。それを止められればよかったのだが、俺では力及ばず。その代わりにできるだけ力になろうと、轟家によく出入りするようになった。最高傑作と炎司が喜びも露わにしていた焦凍の誕生から少しずつ歯車が回り始めていた。
「ヒック、ヒック……もう嫌だよぅ」
「焦凍!!!立て!!!」
「炎司、その辺にしておきなさい。まだ焦凍は小さい。やりすぎては今後の成長にも支障をきたしかねん。それはお前とて本意じゃないだろうが」
「あ"?!邪魔する気か青藍!」
「いい加減にしろと言っている、聞こえなかったか」
ギロリと殺気を滲ませれば、さすがに怯んで焦凍に伸ばされていた手を引いた。こいつの個性婚による成功作とのたまう子供、それが焦凍だった。それまでに生まれた子供たちには見向きもせず、炎と氷の両方を持つこの子だけに執着し、過酷とも言える訓練を課していた。俺が居る時はこうして止められるが、轟家に来るのは毎日じゃない。日々、あの子のストレスが積み重なっていくのがわかる。同時に、あの子を育てている母君、冷殿も限界が近い。時折俺や俺の刀達がガス抜きをしてやってはいるが、それも常にストレスレスにはなり得ない。
「おいで、焦凍。手当をしよう。一期!」
「只今。さて、少し滲みますぞ、焦凍殿」
「うん」
「容赦なく叩き上げることは必ずしもいい事ではないと、私からもご忠告申し上げた方がよろしいですかな?炎司殿」
「……フン」
一期の言葉に少し苦い表情を浮かべ、ガタイのいい体を揺らしてどこぞへと去っていく炎司を尻目に、ほうと一つため息をついた。
見れば見るほど痛々しい。まだ個性が発現してそう日は経っていない。まだ小学校にも入っていないこの子には酷だと言うのに、あいつは何を考えているんだか。
「青藍にい、痛いよぅ」
「頑張ったご褒美に何でもしてあげよう。頑張り屋さんな焦凍を俺はずっと応援しているから。今は泣いていてもいい。沢山泣いて、たくさん笑って、たくさんのことを経験していこうな」
「……おれ、青藍にいみたいになりたい。父さんじゃなくて、青藍にいみたいに。母さんも、夏兄も姉さんもみんな守れるように」
小さいながらもしっかりとした考えを持つこの子は大人になろうとするのが早すぎる気がしなくもない。それでも、俺の前では、俺達の前だったり、母君の前ではちゃんと子供で居られているような気がする。しゃがみこんでサラサラの赤白の髪を撫でてやる。
「いくらでも力を貸そう。でも、お前もまだまだ守られるべき子供なのだから、沢山甘えていいんだ」
「……えっと、じゃあ、うん……青藍にいの狐さんの姿大好きだから、だからね」
「ゆっくりで大丈夫。言いたいことをしっかりまとめているのは偉いな」
「えへへ。えっとね、狐さんのもふもふしてみたいなって」
「一期」
「ハハハ、可愛らしいですな。主、早くお答えしないと焦凍殿が不安がられてしまいますよ」
くすくすと上品に笑う一期に笑ってみせた俺は姿を変えた。普段通りでは大きすぎるので焦凍を包めるくらいの大きさにとどめて。くるりと包んで尻尾でもちもちの頬を撫でてやれば嬉しそうな声を上げた。キャッキャッと笑う姿は年相応で、先程まで泣いていた少年とはまるで違う。末っ子だが、兄君や姉君たちとは隔絶されているからあまり末っ子感はないのだが、弟達よりも幼い分一期は、張り切ってこの子の世話を焼く。かく言う俺も可愛くて仕方ないのでめいっぱい甘やかしてやるのだ。愛らしい笑顔が父への憎しみで染まらぬように。
それでも、俺は止められなかった。
冷殿がついに溜め込んでいたものを爆発させてしまった。どんどん夫に似ていく息子、憎みたくないのにどうしても面影が、その左側が憎いと心の奥底の叫びがついに表立ってしまったのだ。熱湯を焦凍に浴びせてしまい、焦凍は顔の左側の広範囲のやけどを負うことになった。跡は残ると処置した医者に宣告された。
たまたま轟家に来ていた日だったため、冷殿の断末魔じみた悲鳴と、やかんの落ちる激しい金属音。慌てて駆けつけたら、熱いと泣き叫ぶ焦凍に、茫然自失と言った様子で立ちすくむ冷殿。脳が思考を停止しようとしていたのを必死に動かして、一期を焦凍の手当に向かわせた。
「冷殿、冷殿!」
「せい、らんさん……わたし、わたし……なんてこと、でも。もうむりなの、ごめんね、ごめんねしょうと、おかあさんもう、もうげんかいで、ごめん、ごめん……」
「今までよく頑張った。ゆっくり休もう。貴女が落ち着けたらもう1回、ゆっくり焦凍とお話しよう。あの子は優しいから、きっと母であるあなたの事を恨みやしない。もっと早くに引き離してあげられればよかったな。こんなに近くで見ていたのに」
「青藍さんは、悪くないです。わたしが、私がもう、がまんできなくて、つらくて、もう、だんだんあの人に似ていくあの子が怖くて」
「昔からずっと、貴女たちのことを見守ってしかいなかった俺を、やろうと思えば引き剥がせたのに、こんなにもあなたが辛い目に遭うまで放置していた俺を赦してくれるな」
「そ、んな、そんなこと、」
「向き合わねばならぬことから目を逸らしていたのは俺も同罪。ゆっくり、ゆっくり向き合っていこう。その前にあなたは心身ともに休めないと。
一期が救急車を呼んでくれている。到着したら俺からあなたのことも説明するから。腕のいい精神科医を俺が手配する」
……炎司が結婚した当初からずっと嫌な予感は付きまとっていた。でもあいつも頑固だ。意地を張りすぎている。長い付き合いの俺でも止められなかったから、今の彼らがあるわけで。それでも崩壊していく様子を見ているしかできなかったのは、とても辛くて、そしてとてつもない罪悪感に見舞われて、俺は彼らの前から姿を消した。自分勝手となじられてもいい、それでもそばにいてはならないとそんな資格など持ち合わせていないのだと本気で思った。
冷殿が入った病院には直接会わないように気を配りつつ、見舞いの品を置いていくことと、冷殿や冬美で回していた家事を今後は冬美1人で回していかねばならないから、と信用のおける家政婦を俺名義で雇い、轟家に派遣。陰ながらのサポートに徹して、徹底的に対面を避けた。
あれから何年経ったんだか。
「さて、副担任を紹介するぞ。忙しくて紹介が遅くなったが、多岐に渡る活動をするヒーローだ」
「おっ誰々?」
「ワクワクすんなぁ!」
入ってこい、と言うイレイザーの言葉で教室に入る。パッと見回せばやはりいた。赤と白の髪、左右で色の違う瞳は見開かれていて、こちらを凝視していた。
「せい、らん兄?」
あまりに小さな声。それでも聴覚の鋭い俺にはちゃんと届いた。あの子と向き合うと腹を括ったんだから後できちんと話をしなければならないな。
「ヒーロー名、ヴァイスフォックス。本名は狐崎青藍。副担任としてイレイザーの補佐をする。これからよろしく頼むぞ」
「青藍兄様!?副担任だなんて聞いておりませんわ!」
「百。久しいな、随分と大きくなった。そりゃあ秘匿義務があったから家族にも言わないさ」
「そ、そうですわよね。失礼致しました」
「私的な会話は後にしろ。こいつは小さなヒーロー事務所を構えてて、そこに所属するやつもヒーロー科の授業に手伝いに来る。そいつらとはおいおい顔合わせな」
「すまん、イレイザー。そういう事だ、今日は任務で出払っているから今後の授業で紹介する」
「今日のところはこれで解散」
帰りのホームルームでの紹介だったため、生徒が周りにワラワラと集まってきた。
「ヤオモモのお兄さんなんやね、先生!」
「麗日、だったか?いや、正確には従兄弟だ。親子ほど歳が離れてるが、兄と呼んで聞かなくてな」
「オヤコ!?えっ、待って狐崎先生いくつよ」
「エンデヴァーと同期だ」
「えっじゃあ、轟とも知り合いとかそんな感じ!?」
「訳あって長く会っていなかったが。……可愛い弟みたいなものさ。さぁ、皆帰りなさい。焦凍、少し話をしようか」
最後に見た時よりも精悍な顔つきになった可愛い弟分が着いてきているのを確認して、足を進めた。