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    k_kirou

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    カードコネクト十弾ネタゆるSF。間に合えば2月フィルソ

    宇宙六スマPM歴三九八八年九月二十八日
    戦艦<カルナバル>内 食堂

    「だぁかぁら、ちげぇって言ってんだろ」
     青髪の侍、六はさして怒ってもいない調子で真っ白なテーブルをコツコツと指で叩いた。
    「ハヤシライスと、ビーフシチューと、カレーライスと肉じゃがは全然ちげぇよ」
    「ソイソース?」
    「そうだ、醤油だ。あと味醂と砂糖な。具材には肉とジャガイモ。糸こんにゃくを入れてもいい」
    「糸こん……なんだって?」
     最新鋭艦として数年前に進水したこの船の食事の多様性は連合宇宙軍において羨望の的であるが、文化色の強い惑星出身の六にとってはまだまだ不満が多い。拡張現実ディスプレイを呼び出して未知の食材の検索を始めた厨房担当を横目に片肘を付いた。ここは食卓ではあるが今は食事の時間ではないため無作法にはならない判断だ。
     少し離れた席では先日保護した漂流者である民間人の少年二名――ラーズとスクーリオンが迫る試験日程に向けて猛烈に勉学に励んでいる。戦艦といえど戦闘さえなければ平和なものである。
     平和、について六はこのところよく考える。六は漂流者の少年達同様にこの船や連合宇宙軍の一員ではない「客」だが、武芸で生計を立てる者、彼の故郷の言葉で言えば流浪人である。したがって争い事が無ければ暮らしは立ち行かない。
     しかしながらこの宇宙はこの数世紀すこぶる平和であった。宇宙軍という組織もあるにはあるが、かつての地球人類同士の戦争、地球と宇宙との衝突、そして未知の宇宙生物との遭遇を経て、現在の主な業務は民間の悪事に対する取り締まりと隕石危機等の災害への対処である。
     それ自体は喜ばしい。仮に戦争ともなれば必ず民間人に影響が及ぶ。六とて争いを望んでいるわけではないのだ。だが、それでは天賦の才をどこで使えばいいのだろう。スポーツ競技では満たされなかった。心はどこまでも真剣を握り、生命を晒して魂をひり付かせる瞬間を求めていた。
    (結局、マトモな人間じゃねぇってことなんだが)
     ここへ来る前はとある民間軍事会社に所属していた。望み通りの危険性は兎も角、仁義よりも金で動く在り方はどうにも性質に合わなかった。そんな六を雇ったのがこの艦の責任者、アシュレイ=ボアである。
     今のところ与えられる仕事は簡単なものばかりで張り合いなく、こうして待機している時間も多いのであるが、決してつまらなくはない。おそらくは妙に賑やかしくも気の良い船員たちのおかげだろう。アシュレイも六が必要になる時が来ると語っていた。腹の底は見えないながら嘘の吐けない堅物だ。親しくはなれないが、嫌いではない。ならばしばらく付き合ってやろう。
     いつか来たる戦いの時に向けて、重要なのは食事だ。六の座る正面からは鏡文字に見えるいくつかのレシピを見比べて料理人が唸っている。調理法よりは貴重な調味料のやり繰りが課題か。それならば後は任せるのみ。
     席を立とうとした所で電子ドアが開いて入口を見る。物質感知式のはずが誰の姿も見当たらない。セラミックを模した床材を柔らかい素材で蹴り進む音だけがする。
    「六さん、六さんは居ますか」
    「セルゲイか」
    「はい、セルゲイです」
     彼は六の近くまで来ると小型犬相当の小さい体と低重力を利用して胸の高さまで跳び上がった。落下を始める前に腕へ抱えてやると座りの良い場所を探していくらか身動ぎをして六へ視線を向ける。これでもセルゲイは正式な宇宙軍の一員で、彼と会話する時は屈むか抱えるかのどちらかが定位置だった。
    「六さんに知らせたいことがあって」
     腕に収まったまま器用に宇宙服腕部のコンソールを叩き、拡張現実ディスプレイを呼び出す。
    「先日、ウォーカーさんが定期巡回中にこちらを発見したと」
     映し出された画像はどこを見ても変わり映えのない黒々とした宇宙空間だ。その中央の塵のようなものに焦点が絞られ、判別可能なサイズまで自動で拡大処理が始まる。
    「……惑星、じゃねぇなぁ」
     セルゲイは黙って頷いた。
     補正処理が及ばずピクセルの網目が顕わになっていく。旧時代の電子ゲームを思わせる粗い描画に至ってようやくディスプレイ全面にそれが表示された。そこで拡大は止まり、物体が僅かに動いている様子から動画であったことが理解できる。辛うじて読み取れるその形は――。
    「アメーバ?」
    「はい。スライムとも……」
     半透明にも思える青や赤に黄色の不定形物質に白い靄のようなものが複雑に入り組み、生き物のように蠢いている。六の知識では恒星や銀河の類とはとても思えなかった。星系博学者であるウォーカーからの報告であることを加味すれば六の感想通りの未確認物体であるのだろう。
    「大きさがよく分からねぇな」
    「測定の結果、ひとつひとつは僕よりも小さい物質の集合体でした。ただし、それが月ほどの大きさに集まっています」
    「月? 月って地球の月か?」
    「はい。しかも増加……増殖を続けているようで、いずれ重力異常の原因になるかもしれません」
    「そいつは厄介な」
     改めてディスプレイを見る。再生されている動画では変化の様子を見て取ることは出来ない。
    「だが話が見えねぇ。デブリや隕石の掃除ならまだしも、こういうのはお前らの管轄だろ?」
     何事にも適不適がある。災害要因の除去は本来宇宙軍の仕事なのだ。六は雇われの身として戦艦の砲撃では不都合のある質量物質の処理を請け負ったりもしているが、この小型物質の集合体は素人目に見てもミサイルか何かを撃ち込んでまとめて片付ける代物だ。六がひとつひとつ斬っていたのでは一生かかっても片付かない。
    「それが……どうもこれ、人為的なものらしく」
    「お前ぇさんはどうにも回りくでぇ。ようやく話が見えて来たぜ。下手人を探し出して――ぶった斬れってことだろ?」
    「いや、そこまでは。でも、はい」
     宇宙で発生した問題がどこかしらの星の住人の仕業である場合、現地惑星との捜査調整は煩雑を極める。煮え切らない結果になることはしばしばで、「偵察を依頼した民間業者が偶然被疑者を発見し、現行犯逮捕した」ことにするのが最もスムーズだ。効率を是とするアシュレイは特にこの方法を好んだ。
    「それじゃあブリッジに行って話つけて来らぁ」
     あくまで指揮権の無いセルゲイからの情報を得て、六が独断で捜査へ向かった。建前としては上等だ。
     セルゲイを腕から解放し、傍らに立てかけていた刀を手に床を蹴る。宇宙に上がった時は踏ん張りが利かず苦労した低重力も慣れてしまえば面白いものである。脚力のバネで速度を付け、体勢で慣性をコントロールすれば歩くよりずっと速く移動出来る。標準重力圏内では出来ない動きもここでは可能だ。その気になれば一瞬で遠く離れた相手の懐へ入ることさえも。親切な船員が道を開けてくれるままに六は速度を殺さず進んだ。すぐにブリッジの扉が見える。
     開放的なこの艦では作戦行動時以外、その扉は開け放たれている。流石に部外者が無断で入るわけにはいかないので、扉の脇を叩いて来訪を知らせる。
    「よぉ、大将。セルゲイから話は聞いたぜ。その件で、ちょっと暇を貰えるかい?」
    「大将ではなく艦長だ。俺の階級も大将ではない。気を付けてくれ」
    「へいへい。あだ名くれぇ大目に見てくれや、軍人さん」
    「……。入れ。丁度こちらも話がある」
     モニタと機材類のみを光源とする艦橋は平時の煌々とした通路から足を踏み入れると目が慣れるまで時間がかかる。常に多数の薄青いウィンドウが空中に表示されている空間は決して暗くはないが、立ち位置によっては人の顔立ちを窺うのにやや苦労する。アシュレイの周囲には常駐オペレーターの他に二人の人影があった。
    「ハロー、六! あたしの名前、そろそろ覚えてくれた?」
    「あ? 彗星のハニーだったか?」
    「流星ハニーよ!」
     コズミックローラーの名手である彼女は艦載機のエースパイロットとして遊撃手を務めている。誰にでも分け隔てなく快活に接するため、六は早くに意気投合した。名前を間違えるのはお決まりの冗談だ。もう一方の少女は天使の翼を持つシルエットから顔を見なくとも分かる。
    「ご機嫌よう、六」
    「おう、ポエットの嬢ちゃん」
     彼女は軍人ではないが『政治的事情』により、この艦の乗員として登録されていた。
    「しかしこれまた珍しい面子だな。一体何の相談だ?」
    「先程本部から指令があってな」
     六を呼び出す手間が省けたと言いながら、アシュレイは一同の見やすい位置にディスプレイを表示し、現在の巡回航行ルートと重ねて別の目的地への進路を引いた。
    「本艦はこれより大規模な戦闘を伴う作戦行動に入る。諸君らの乗船意思確認をしたい。下船を希望する場合は道中の近隣惑星へ送り届ける」
    「それ、あたしは関係なくない?」
    「お前は送迎係だ」
    「あ、そういうことね」
    「…………ふむ」
     六は腕組みして思案した。あのスライム状物質の対処よりも優先事項があるということだ。示されている航路は観測されたポイントからまるで異なる方向へ伸びている。最終目的地は秘匿されているが、全くの別件であろう。
     六の沈黙を読んでアシュレイが口を開いた。
    「あちらには猶予がある」
     彼にもしっかりと観測の結果は報告され、おそらくは六以上の詳しい情報を知っている。六も情報の順序以外で特に優劣をつける理由を持たない。だからこれは考えるまでもない選択なのだ。何故迷ったのか自分でも分からない。
    「俺は別にどこへ行ったって構わねぇさ。あんたには自由に動く剣が必要なんだろ?」
     六は不躾に鯉口を切ってみせた。ここまでの旅でそれだけの信頼関係は築かれている。普通なら銃を向けられてもおかしくない行為を咎める者は誰も居ない。日々積み重なる一宿一飯の恩義に報いる男だと皆が知っている。
    「よろしく頼む」
     用は済んだとばかりにアシュレイは背を向けた。良くも悪くも冷淡なのが彼の特徴で悪気はない。
    「っと、嬢ちゃんはいいのか?」
     乗船の意思確認と言うならここへ呼ばれている彼女も同様のはずだ。正規の乗員であっても軍関係者ではない――扱いは民間人だ。六の来る前に話を進めていたにしてはポエットの表情は暗い。
    「私は、大丈夫」
    「……そうか」
     彼女の『事情』を六は知らないし、踏み込むべきではないと思っている。あれでなかなか情に厚いはずのアシュレイが何も言わないのであればそれはもう込み入った理由があるのだろう。
    「ま、安心しな。この艦はすげぇし、俺だって居るからよ」
     たとえ戦闘に参加しようが墜ちることはない。絶対など有り得ない戦の摂理においても信念は重要だ。
    「ありがとう、六。平気よ」
     踵を上げて背伸びしたポエットの望むように耳を寄せる。
    「でも、戦うことが悲しいの」
    「そりゃあ、そうだな」
     六は光輪の下へ手を差し入れて軽く頭を撫でてやった。六とて争いの世界の住人で、慰みにもならない戯れだ。それでも彼女は微笑んで「ありがとう」と礼を言った。
    (守る戦いなんてのは俺には向いてねぇ)
     血の滾る瞬間をどうしようもなく求めてしまう悪鬼に過ぎない。だが人の心も、当たり前の情もある。天使というのはそんな所へ優しく触れるのだから困ったものだ。
     ブリッジを出てポエットと別れた後、六は修練場へと向かった。ハニーにも勤務が終わったら来るように言ってある。久しぶりの戦場だ。逸る気はこうして削ぐ他に無い。



    同日
    辺境惑星 <ラボラトリー>エリア

     男は白い手袋で身に着けたヘッドホンを撫で下ろした。音の絶えた後を静かに追いかけ、耳鳴りの中に不鮮明な声をリフレインさせる。
    「ヒッヒッヒッ……やっと見つけた」
     それがもう確実に記憶の内からしか聞こえないことを確認して、手袋越しにも感じるチタニウムの冷たさに微笑した。有線ケーブルを必要とするクラシカルな骨董品だ。頭から外したそれをコンソールデスクの定位置に置いて椅子に深く体を預ける。壁面全てを使って表示させているこの宇宙の情報は昨日までと変わりなく薄青い光で観測者の青い肌を照らしている。それが今日は安堵の色をしていた。
     ふいにその一角がアザレアピンクを基調としたマーブル模様に切り替わり、少女の姿が浮かび上がった。
    「スマイル」
     それがこの研究所の主である男の名前だった。
    「やぁ、リアリィ」
    「今の通信は届くはずがない距離なの。どうして?」
    「君も聞いていたのか」
     リアリィと呼ばれた彼女は電子空間の住人で、スマイルが構築した基底環境を元に日々プログラム更新を重ねるシステム管理者だ。ソフトウェア方面の専門家ではないスマイルの重要な相棒と言える。故に、あらゆるデータを知る権限を持っていた。
    「これは通信じゃないよ」
    「…………?」
     壁面ディスプレイのいくつかのウィンドウが彼女の色に変化した。三次元描画の宙図と共に受信ログの分析結果が示される。発信地点は電波限界点の先にあり、中継衛星を介したとしても複数の偏向磁場により不明瞭かつディレイによる変質を受けることを表していた。しかし先程ヘッドホンを通して聞いた音声は惑星基地内で通信する程度のラグしか報告されていない。電脳で全てを認識する彼女にとっては不可解極まりない事象だ。
    「これはねぇ、奇跡って言うんだ」
     指揮者のように差し出されたスマイルの手に促されてリアリィは画面内を移動する。彼女がデータ以外の形でそのハードウェアを認識するためには目視できる位置へ来てもらう必要があった。距離にして壁面の半分ほど、スマイルが包帯で覆った死角側にそれはあった。
    「ふしぎ」
    「うん、ちょっとふしぎ」
     ヘッドホンケーブルの繋がる木製の台座に据えられた真空管。中には<天使の羽>が収められている。
    「これが通信機。ようやく音を取り出すことに成功したんだ」
     科学を超越した媒介の可能性に気付いたのは偶然だった。共栄銀河宙域のエーテル圏の外に位置するこの惑星では接続が不安定であることが分かり、本業の合間に機材をあれこれと変えて試して通信が届く瞬間を祈るように待ち続けた。結局原理は解明できなかったが、大きな一歩だ。
    「うれしそうにみえる」
     リアリィの目にはスマイルの頬が僅かに色付いて見えた。それは決して彼女の色に染まったモニタ光の反射によるものではない。色彩分析の結果がそう告げている。
    「そりゃあね。やっと僕の六に会える。……いや、まだもう少し先か」
     スマイルはうっとりと真空管を撫でた。全てのデータにアクセス出来る彼女の前で笑顔の理由をはぐらかすことは無意味だ。むしろ機転の利く彼女だからこそ知っておいてもらう方がいい。そのうち宇宙軍の行先も教えてくれることだろう。
     <天使の羽>は宇宙の彼方に居る彼の声を届けてくれた。通信は彼の近くに羽の持ち主であるポエットが居る時に限られる上、彼以外の人間が何を話していたか知ることは出来ないが、相変わらず優しい男らしい。
    「ヒッヒッヒッ……」
     楽しみだ。楽しみで仕方がない。
     録音データを再生することはせず、あえて頭の中で何度も思い出すと声と同じく実体の無い思いが込み上げてくる。自分の感情はこんなにも豊かだっただろうか。
    妖しい笑みを止める者はこの部屋には居ない。リアリィもスマイルに呼応するようにディスプレイの中を漂いながら踊っている。
    「スマイルの部屋に転送しておくの」
    「ありがとう、助かるよ」
     こんなところを仕事仲間に見られるのは少し困る。後は部屋でゆっくり反芻するとしよう。
     通路音声を取り込むスピーカーから軋んだ車椅子の音が聞こえ、訪問を示すブザーが鳴らされた。
    「スマイル、例の件の準備が整ったのじゃ。我の研究室に来ていただいても?」
    「Dr.フラスコ、わざわざご足労どうも。すぐ行くよ」
    「ふぉふぉ、何のこれしき」
     リアリィに別れを告げ、全てのディスプレイを落としてロックをかける。
    「こんな時、生体認証出来ないのは不便だなぁ」
     起動ボタンに触れられないように物理的なカバーを付け、錠前を付ける。当然、物理的な破壊に対して無力であるがそこは特殊合金の強度と認証パスの砦を信じるしかない。
     最後に<天使の羽>に布を被せ、暗い室内を見落としが無いか一通り眺める。彼を探す趣味はしばらく休憩、本業の仕事だ。
     辺境惑星<ラボラトリー>エリア。荒廃した土地の山影にしがみつくように築かれた小規模コロニーはそこにあることを知っていなければ観測の目から零れてしまう。それは何かを計画・実験するのにちょうどよかった。とはいえ交通の便は最悪だ。したがって集まったのは気の良い変わり者ばかり。スマイルはここに拠点を構える秘密組織の一員であり、実質的なリーダーであった。
    「それじゃあ始めようか。僕たちの飽くなき挑戦! 宇宙をカレーにするために!」
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