兵不二薫の結婚式。
招待され、今日ばかりは休戦ということにした兵部と不二子。
薫と皆本からそれぞれ二人で来てと言われ、不審に思いながら待ち合わせて来たら親戚…にあたる席次に二人の席が用意されていた。新郎新婦、いずれかの友人でも職場関係者でもなく。
結婚式の後。
兵部を抱きしめる不二子。
「弟を大事に思わない姉なんていないわ」
ずっとこうしたかった。今日は休戦なので。
兵部の犯した罪は許せない。それはバベルの蕾見不二子として。
けれど姉として、この子が誰も頼らずにどんなに頑張ってきたか知っている。間違ったことをしたとしても、それは、褒めてあげたい。
いつかと同じような状況で抱きしめられ、はっとする兵部。
まったく、こんなのはいつぶりだか。
あの時と違って不二子に離れるように促す。
大人しく腕を解いて寂しげな不二子。
サイコキノで肩を押す。
一瞬虚をついて不二子に隙が出来た瞬間に兵部が不二子を抱く。
「きょ、京介……!? ちょっと、苦しい……!」
女性を抱くには些か不躾な、だけども家族じゃないか。
「…………、」
兵部が何も言わないので不二子も兵部の背に手を回す。
「馬鹿ね、口紅ついちゃうでしょ」
寂しがりで、ひとと触れ合うのが好きな姉だった。
男所帯で物怖じせずに仲間として暮らした。
けれどもやっぱり男と女の壁はあって、京介だけは少し近くにいた。姉弟だから。
年頃になって二人の体格に差が出てもそれは変わらなかった。
多分、彼女は寂しかったのだ。
本当は抱きしめるよりも抱きしめられたいと求めるひとで、その相手はいなくなったから抱きしめるしか彼女は出来ない。
あの日、特異点の奇跡の中で志賀と不二子を見て思った。
だが自分にはその資格はない。彼女が自分を許さないので。
止まったままの時間。更新されたあの日。白紙の先へ進んだ未来。
「ねぇ京介、あたくし……」
許してしまいそうになる不二子。
彼女の頭を胸に押し付けて言葉を塞ぐ。その先は聞けない。
不二子も察する。
何も言わずに身を離して、明日からいつも通り。