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    chimocat

    @chimocat

    ちも猫隊の保管庫です。

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    chimocat

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    善誕にもアップしたけど削除してたものが残ってたので自分用に残しておく

    無題 吉原遊郭、男の機微に聡い遊女がおりました。遊女は三味線や琴の腕前もそれは見事なものでしたが特に傲ることもなく客の評判も大変良いものでした。
    そんな遊女へ特に入れ込む男がおりました。それほど裕福ではない男でしたが花を贈り、溢れる愛を惜しみなく与える男でしたので、二人が深く情を交わすようになるまでそう日はかかりませんでした。必然と言うべきか遊女は子を宿します。男が通う回数はそれほど多くはありませんでしたが遊女は確信をもって男を子の父と断言しました。男もその言葉を疑うことはありませんでした。
    遊女は子を産み育てることを強く望みますがそんなことが到底許されるはずもなく、男にも身請けするほどの蓄えはありません。子を流すよう言いつけられた遊女は男の手を取り足抜けを試みました。
    当然そんなことは容易には叶いません、すぐに取り押さえられ男は殺され遊女も見目が変わるほどに打ち据えられました。古より子を宿した女は強い。腹の子を守り必死に逃げて行き着いたのはとある河岸の切見世。事情を聞いた切見世の遊女たちは哀れに思い遊女を匿う。
    腹がまだそれほど目立たぬうちは暗闇に紛れ客を取りひっそりと食い繋ぎ、忘れ形見ともなった腹の子の誕生を指折り数えて過ごす。だが産み月も迫れば客を取ることもままならず、遊女仲間の僅かな施しを頼りに日を暮らす。治療など受けられないまま折檻の傷は完全に癒えることも無く、腹の中で育つ子とは裏腹に日に日に母体は憔悴していった。
    そして迎えた産み月のある朝、切見世の片隅で男子が産声をあげる。
    子を取り上げた年嵩の遊女は乳を含ませるべく母となった遊女の着物の合わせを開き、その胸に子を添わせたが乳を与える力もなく遊女はそのまま事切れた。
    切見世の遊女たちに他人の子を養う余裕などあるはずもない。母を失った子はそのまま母と共に冥界へと旅立つのが常。産まれた男子も母に抱かれたままその時を迎えると思われた。
    だが男子はしぶとかった。
    次第に温もりも失せ柔らかさも消えるその体に乗ったまま男子は泣き続けた。
    庇護を失った身でありながら死にたくないと訴えるかのように力強く肺を動かすその乳飲み子を年嵩の遊女はそのまま見捨てることはできなかった。
    荼毘に付された母の着物はおくるみに交換され乳飲み子を守り包む。名を与える暇もなく息絶えた母の代わりに名を記すことも考えたが、やはりおくるみには何も記されることはなかった。
    抱えた乳飲み子は腹を空かせているだろうに包まれた心地に安堵したのか今は眠っている。
    我が身の命を与えてもこの世に産まれることを望まれた子よ、愛を知り強くなれ、生き抜いてその手に幸せを掴めと込められた祈りを餞別に乳飲み子は寺の前へ静かに置き去られたのでした。
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