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    chimocat

    @chimocat

    ちも猫隊の保管庫です。

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    chimocat

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    2023は中秋の名月と満月が重なったんだよね…確かその時に書いたやつ

    #ぜんねず
    Zennezu

    月の色 少し冷えるかもしれないから、と言われたのでボトムはジーパンにした。だったらトップスは甘めのコーデ! と妹に言われるまま勧められた格好でそっと家を抜け出す。頼もしすぎる妹の後押しのおかげて家を出るのは簡単だった。玄関から少し離れて通りの方へ目をやると街灯に照らされてキラキラと輝く金色が見える。とたんに心臓が煩く騒ぎ出す。
    『悪いこと、しない?』
     部活動で遅くなった学校の帰り道、手を繋いで歩く道の先、東の空に現れた雲を纏った大きな月。まだ上り始めたばかりの満月はまるで線香花火の火玉のような朱を帯びてどこか妖しい雰囲気すら漂う。そう言いながら悪戯っぽくこちらを覗き込んでくる瞳は怪しさ匂う月そのもので思わず足が止まった。
     夜に家を抜け出して二人でお月見をする。夜のデートなんてお付き合いを始めてから初めてのことで……言われたセリフと相まって、年相応には蓄えた知識が否応無しに期待を膨らませる。
     自宅付近の住宅街を抜け少し広い道へ出る。渡されたヘルメットを見様見真似で被ると善逸さんの長い指がバックルをしっかりと止めてくれた。
    「禰󠄀豆子ちゃんはヘルメット姿まで可愛いねぇ」
     その特徴のある眉を思いっきり下げて笑う。夕方は色気すら纏う朱を帯びた瞳だったのに、今は幾分か高くなった月の光、甘い蜂蜜のような色味に似ていると思った。
    「このヘルメットは善逸さんのだよね?私が使っちゃったら善逸さんはどうするの?」
    「心配ご無用です!」
     リュックから出てきた、バイト先のものだと言う『安全第一』と書かれたヘルメット。目深に被り、ニカッと笑う姿の方がよっぽど可愛いと思う。
    「しっかり掴まっててね」
     走り出したスクーターが起こすビィィーという少し高めのエンジン音を置き去りにして前へ前へとバイクは進む。普段よりも圧倒的に近いお互いの距離に恥ずかしくなって少しだけ腕の力を緩めてちょっとだけ体を離してしまったけれど、グンと体を後ろに引きずり落とすような感覚に驚いて思わずぎゅうっと強く抱きついてしまった。想像以上に体をしっかりと密着させて、善逸さんのお腹に腕を巻き付けていないと体が振り落とされそうだった。
     シンプルな薄手のトレーナー越しに感じる逞しい背中も、高めの体温も、カチカチの腹筋も自分とはまったく違う感触。学校の裏山を登る道が勾配をを強めていくと風は秋の夜の冷たさを増し頬を撫でていく。くっついた所から伝わる熱が心地よくて、そうっと冷えた頬もその背中に押付けた。
     
    「……綺麗……」
     裏山の頂上、少し開けた場所でスクーターを降りる。見上げると一部視界が開けていて、ちょうどその位置に輝きを増した月が静かに佇んでいた。
    「ここ、前にバイトで偶然知ってさ。どうしても今日 満月の 中秋の名月を禰󠄀豆子ちゃんと一緒に見たかったんだ。でも歩いてくるには少し時間がかかりすぎるじゃない? だから……ごめんね、悪いことに付き合わせちゃって」
    「ううん、こんなに綺麗な月を善逸さんと一緒に見れてすごく嬉しい。素敵なお月見だね! 連れてきてくれてありがとう」
     夕方、約束した後に大急ぎで用意したというお月見会場。少し厚手のピクニックシートに二人並んで座る。二人乗りのおかげで密着することの気恥ずかしさが少し薄れたのか、並んで座る距離も今までよりもぐんと近い。時おり流れる薄雲も晴れて月は益々輝きを強め、まるで白く発光しているかのよう。隣で善逸さんがスマホのカメラで月の撮影に挑む。
    「あれ? 何だこれ全然ダメだわ。カメラの設定変えれば写るとか聞いたんだけどな」
     ブツブツ言いながら首を傾げる動きに合わせてその金色の髪が月光を浴びてキラキラと輝く。光に透けた髪は月の光と同じような色に見えた。

     ……悪いことって……二人乗りのこと、よね。

     夕方に見た、火玉の朱を帯びたようなあの瞳を思い出す。いつもの賑やかな善逸さんとは違う、少し怖いような……でも体の深いところから何かが湧きあがるような不思議な感覚。あの時に私はもっとこの瞳に囚われたいと思ったのだ。『悪いこと』という言葉がひときわ甘く体の奥に響いたのだ。気がつけば月ではなく善逸さんを見つめていた。
    「うっわ、なんかイクラみたいな写真が撮れたwほら見て禰󠄀豆子ちゃん」
     善逸さんが体ごとこちらを向けばお互いの顔が驚くほど近くなり心臓がまた激しく騒ぎ出す。
     一瞬驚きの表情を見せた善逸さんがフッと笑みを零し、また少し二人の距離を詰める。
    「月の光ってどこか人を惑わす力もあるよね」
     あ、あの色だ……。
     甘い蜂蜜色だった瞳が日没の月の朱色を帯びて妖しく光る。
     そうかこの色は月を映した色じゃなかったんだ、この色はきっと……

    「もっと悪いこと、してみる……?」 
     
     朱色の交じる蜂蜜色がゆっくりと近づく。
     お互いの唇を繋ぐ銀糸は月光を跳ね返してプツリと切れた。
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