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    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。期間限定ワンドロワンライ4「独占欲」

    ##ブラアキ

    グリード・モノポライズ 見慣れた髪色が、暇なのか耳の裏を掻いている。丁度トレーニングを終えたばかりなのか、汗をタオルで拭いながら、ぼんやりとしていた。これからの予定でも考えているのだろう。
     レンはそれを確認して背後に近付くと、無遠慮に声をかけた。
    「おい」
    「んぁ?」
     振り返ったアキラが、珍しいものを見たとばかりに目を丸くさせる。当然だ。レンは、タワー内で自分から彼に話しかけることが滅多にない。何故なら、話す必要も交流の願望もないからだ。
     しかし、今は違う。緑の目が瞬き、固まる様子に小さな苛立ちを覚えながら、レンは口を小さく開いた。
     トレーニングルームは現在二人しか利用していない。誰かが来る前に、手早く話を終わらせた方がいいだろう。特に、アキラの生意気なメンティーに見つかれば、嫌味を言われかねない。レンが担当しているノースセクターに並々ならぬライバル心を持っている彼は、先輩であるレンに対しても当たりがきつい。
    「あの話、本当か?」
    「あの話?」
     片眉を吊り上げたアキラが訝しげな視線を向ける。鈍い男に思わず舌打ちが漏れた。
     アキラとレンの関係は、入所当時より幾分か改善はされている。それでも過去のいがみ合いは二人に気まずさを残し、幼少期のように無邪気に笑い合うことはない。
     とはいえ、ウィルの手助けもあって、三人で食事をしたり、アキラと家に帰る機会は増えた。
     そうなれば、必然的にアキラと話す時間も、蟠りのあった時期よりは多くなり、レンの中で幼い頃から持っていた彼に対する兄弟に近い情が呼び起こされる。実の姉であるシオンと歳が離れていたこともあり、互いの親から常にワンセットで扱われていたせいもあるだろう。レンにとって、アキラは従兄弟だが、今では唯一残された、たった一人の兄弟でもあるのだ。
     鬱陶しくて、馬鹿で、どうしようもない兄。先日、その兄弟が自分の知らない秘密を抱えていたと知って、黙っていられるわけがない。
    「ウィルから聞いた。あの男と交際しているという話は、本当かと聞いたんだ」
    「あの男?」
     思わず眉根が寄る。
     不快だ、と言わんばかりの表情に、アキラは分からないのか首を傾げた。手に持つスポーツドリンクを口に含み、離す。宙を見ながら何か考えているようだったが、ようやく思い至ったのか、吐き出すように頷いて言った。
    「あぁ。……レン、お前な。メンター同士とはいえ、一応同じチームの先輩なんだから名前で言えよ」
    「うるさい。今はそんなこと、どうだっていい」
     説教ぶった口振りもあいつに似たのか。言いそうになった声は、必死で飲み込んだ。
     アキラは面倒だと言わんばかりにため息をつくと、後ろ首を掻きながら口の端を歪める。
    「はー。……んだよ、お前には関係ないだろ」
    「ある」
    「?」
     自分でも思った以上に素早い声だった。まるで脳を通さず出た反射運動のようで、レンはみっともなさに歯を食いしばる。駄目だ。冷静になれ。思っても、やはり姉の時と同じ感情が渦巻いて、手足が冷える。
     レンは何度か深く深呼吸すると、重々しく口を開いた。
    「もし、仮に、万が一……ないとは思うが、生涯を共にすると誓った場合、あの男は俺の従兄になる。だから聞いた」
     声が震えていた。舌打ちが漏れる。
     けれど、アキラはその差異に気付かなかったようで――彼のことだから、無意識に気付かぬフリをしているのかもしれないが――どこか気まずそうに視線を逸らしたあと、小さく呟いた。
    「あー……そうだな、確かに関係あるわ」
     腹の奥が気持ち悪い。アキラはゆっくりとレンに視線を戻すと、翡翠の目を真っ直ぐに向けてきた。
    「そうだよ。今はブラッドと付き合ってる。でも、だからってお前に迷惑かけることしてないし、今後もするつもりないぜ」
     知っていた。アキラとの関係は、あの男から直接聞かされていた。ノースセクターの研修チーム。同じメンター、同室で、気付かぬ訳がない。
     けれど本人に面と向かって断言されるのは、やはり堪える。聞かなければ良かった。後悔を抱えながら、レンは舌打ちする。
    「迷惑以前に、快、不快の問題だ」
    「……嫌か?」
    「嫌だ」
     ルーキーの頃よりは自分に素直になれていると自負している。特に、レンにとって残された血の繋がりでもあるアキラに対しては、尚更だ。
     それを甘えている、と言うのだが、本人はまだ気付いていない。
     数ヶ月とは言え、アキラの方が早く生まれているせいか、幼い頃から兄ぶった言動が多かったこともあるが、レンにとっては染み付いた弟としての性質なのかもしれない。
     アキラはレンに弱い。
     断言され、困り果てたのか、タオルで残った汗を拭いながら、肩を落とした。
    「お前な……」
     レンはあの男から全て聞いていた。生半可な気持ちで交際を始めたわけではないことを、共に生きると誓って彼を選んだことを。レンの事情、レンのアキラに対する気持ちを知った上で、許されなくとも構わないと言われた。
     それが、レンにとってどれだけ感情を揺さぶられたのかさえ、見通している。
     でなければ「安心しろ。アキラはお前を残して死ぬことは絶対にない」などと言わないだろう。
     だから、腹が立つのだ。あの男は、アキラがレンを大切に思っていることを理解している。理解しすぎているのだ。
     もし、レンとあの男が窮地に立たされた時、アキラは絶対にレンを助ける。そう確信した上で、アキラを選んだ。その事実が、ただ悔しい。
    「……俺は、認めるつもりはない」
    「はぁ? 別にお前に認めてもらう必要なんかねーよ」
     売り言葉に買い言葉。
     カッとなりやすい性格は、三年経っても抜けきれていない。眉を吊り上げたアキラは、言いながら、不機嫌そうに踵を返した。荷物をまとめている。帰るのだろう。
     ここで喧嘩が始まらないところは、成長したとも言える。
    「…………」
     彼の後ろ姿を見ていると、焦燥感が生まれ、レンは唾を飲んだ。いくら立ち直れてきたとは言え、心の傷は深い。亀裂は、どれだけその穴を埋めようとも、跡が残るのだ。
     じわじわと燻る焦げ付き。レンは胸を掴んだ。行くな。胸中の叫びに応えたのか、扉の前に立つ男が、ふと、立ち止まる。
    「安心しろよ、オレはお前より先に死ぬつもり、ねーから」
     そう言って扉を開き、消えるアキラ。静かすぎるほどの室内。握りしめる拳。
     あの男から聞いていなければ、きっと満たされていた言葉。しかし、今は見せつけられたような気分だ。舌打ちが漏れる。
     マシンを蹴って八つ当たりしていると、不意に扉が開いた。次に利用する者が来たのだろうか。レンは開いた向こう側を見つめて、そこから覗かせた赤い髪に目を見開いた。
    「あー……言い忘れてたんだけどよ。まだ晩飯食ってねーなら、一緒に食いに行かね? ウィルも誘ってさ」
     元々誘うつもりでいたのだろう。気まずさに頬を掻くアキラに、レンはため息を返した。
    「いや、行かねーなら別に……」
    「行く」
    「え?」
    「行く、と言ったんだ」
     あの状況で戻ってきて食事を誘える神経の図太さは、やはり鳳アキラだ。
     そんなところに何度も救われてきたことを思い出して、レンは小さく笑みを浮かべた。
     まさか了承が得られるとは思わなかったのだろう。アキラが、嬉しそうに歯を見せる。
     帰り支度を始めるレンを扉の向こうから待ちながら、アキラは先程までの空気を忘れて揚々と話しかけてきた。
    「何か食いてーのあるか?」
    「寿司」
    「は?」
    「寿司が食べたい」
     アキラが呆けた顔を見せる。
     支度が終わり、レンは呆けた男の横に並んでもう一度言った。
    「寿司が、食べたい」
    「あ、いや……いーけど」
     言いながらも、苦手な食べ物に顔を顰めている。いつもなら断るくせに。気を使っているのが分かって、鼻を鳴らした。
     ウィルがいる時、彼の手によって、三人の外食は必ずエリオスチャンネルに投稿されている。それを知った上で、寿司を選択したのだ。
     兄を取られた腹いせに、このぐらいは許されるだろう。認めたくないが、認めざるを得ない。自分にとって兄であり、ライバルでもある男が選んだ相手なのだ。
     レンは、唸りながらもウィルに電話するアキラを横目で見て、胸中で「やっぱり馬鹿だな」と呟きながら、小さく微笑むのだった。
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