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    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。期間限定ワンドロワンライ同軸。深夜にチ○ンラーメンを食べる話です。
    新刊のブーストお礼でした。時系列は二号が~(煙草の話)の前ぐらいです。ブが気持ちを自覚し始めた頃ぐらいをイメージしてます。

    ##ブラアキ

    Enjoy the meal. 冷たい空気が廊下に静寂を作る。
     足音が煩いほどに響き、鼓膜に届く刺激すら苛立ちを覚えた。もうすぐ日付も変わろうかという時間。数日の激務に疲労感を覚えていたブラッドは、頭を振ると、深呼吸して荒ぶる感情を鎮めた。
     きっと、空腹のせいもあるだろう。
     普段は隙の無い職務態度を感心されることが多いブラッドだが、彼も人間である。疲労と空腹には勝てない。
     帰宅したら、オスカーのプロテインバーを摂ろう。本人に知られれば眉を顰めるような予定を脳裏で立てながら、ブラッドは研修チームの部屋の前に立つ。
     この時間だ。起きている者はいない。
     そう思い扉を開くと、鼻腔を刺激する香りに、思考が動くよりも先に腹が鳴る。
    「おー、おかえりー」
     扉の音で気が付いたのか、キッチンの方から声がする。
     灯り一つないはずのリビング。そこに、仄かな照明。リビングへと進めば、アキラがキッチンに立っていた。
     彼の前には立ち上がる湯煙。鍋を沸かしているのか。ブラッドは、空腹からくる強い食欲に抗えず、ふらふらとキッチンに近寄った。
    「これはなんだ」
     見れば、鍋の中で煮込まれた麺。首を傾げれば、アキラはそれをかき混ぜながら言う。
    「チキンラーメン。日本のインスタント麺だよ。本当なら湯入れるだけで出来んだけど、ちょっと足りねえなーって色々足してた」
     湯煙に混じって、食欲をそそる匂いが部屋を支配する。
     ――換気扇を付けていなかったな。
     本当なら窘めるところだが、生憎今のブラッドにその余裕はない。アキラは続けた。
    「実家では母さんがよく買い置きしてたんだけど、エリオスに来てから食ってなかったんだよな」
     丁度タイマーが鳴る。それを止めながら、アキラは棚を開けると丼を取り出した。鍋の中身が移される。
    「なんか寝る前に腹減っちまって。前にウィルとリトルトーキョー行った時に買ってたの思い出したから、作ってた。……よし、出来た」
     そう言って笑みを浮かべるアキラが、カウンターに丼を置く。
     距離の近くなったラーメン。
     ブラッドはついに耐えきれず、その腹から生理的な音を漏らした。
    「……」
    「……」
     まるでジャパニーズコミックに表現されるような、あまりにも分かりやすい腹の音。
     アキラはそれがブラッドから出たものだとは思わず、辺りを見回した。しかし、リビングにいるのは自分たちだけだ。ウィルとオスカーは寝静まっている。
     ブラッドは丼から目を逸らさない。
    「…………」
    「く、食うか?」
     流石のアキラもその姿に気圧されたのだろう。おずおずと聞けば、ブラッドは顔をあげ、静かに頷いた。
    「……いただこう」
     そう言って、椅子に座る。いささか気が急いて忙しない動きになったのは仕方ない。
     ブラッドは、とにかく目の前のラーメンが食べたかった。
    「こんな時間まで仕事してりゃ腹減るよな。お疲れさん」
     そんな彼の珍しい様子に、アキラは揶揄うわけでもなく、目を細めて労った。普段はお調子者のくせに、こういう時は欲しい言葉を与えてくれる。
     ブラッドはどこか安堵を覚えながら、差し出された箸を受け取った。改めて見れば、麵以外に、ベビースピナッチや人参、キャベツと、彩豊かな野菜も入っている。
    「具材が多いな」
    「ふっふっふ。これはな、アキラスペシャルだ。鳳家に代々伝わる自慢のレシピに、オレ流のアレンジをしてある。このソーセージが意外といけるんだぜ」
     そう言って麺の間から見えるソーセージを指さし、自慢げに胸を張るアキラ。
     次に彼は、冷蔵庫から卵を取り出し始めた。生でも食せる、低音殺菌されたものだ。
    「ここに卵を乗せて……っと」
     言いながら、器用に割った卵を中央に乗せる。
     ブラッドに生卵を食べる習慣はない。眉を潜めつつも、彼がいつも食べているものならと、いざ箸を丼に向けた時だった。
    「ちょっと待て!」
    「まだ何かあるのか?」
     早く食べたい。今のブラッドの顔には、そう書いてあるだろう。疲労と空腹で、いつものポーカーフェイスを作る余裕はどこにも無い。
     拗ねながら言えば、アキラは冷蔵庫から小さなタッパーウェアを取り出した。緑色のそれには見覚えがある。日本の食材、グリーンオニオンだ。
    「最後にな、ネギと、ちょっとだけ一味唐辛子をかけるとすっげー美味ぇ」
    「なるほど」
     一層豪華になった丼の中身に、ブラッドは自然と唾を飲みこんだ。
    「いただきます」
     そう言って、ネギが絡んだ麺を少しだけすする。野菜、ソーセージを食べた後は、生卵を割って絡めた。味が変化する。箸の動きは止まらない。
     その様子をジッと見ていたアキラが、恐る恐る聞いた。
    「……どうだ?」
    「美味い。卵が味をまろやかにしている。すきっ腹に丁度いい。このウンイナーもボリューム感があって、食べ応えがあるな」
    「だろ!?」
     ブラッドにしては珍しく手放しの賛辞に、アキラは興奮気味に笑った。喜びを隠せないのか、キッチンから身を乗り出し、口をうずうずと動かしている。
    「オレってやっぱ料理の才能あるな~。天才はなんでも出来て困っちまうぜ」
    「そうだな」
     自画自賛する彼に、ブラッドも肯定した。
     スープを飲む。温もりが胃に染みわたり、疲労感が和らぐ。僅かな辛みがしっかりとした味付けを作りながらも、優しさがあった。
     そこまで好んでいなかったはずなのに、すっかりラーメンの虜になったブラッドは緩んだ表情で言う。
    「お前の作るものは美味しい。嫁の貰い手には困らないだろう」
     自分の分を作ろうとしていたのだろう。
     新たに具材を取り出していたアキラが、振り返ってジト目を向けてくる。
    「オレ、男だけど」
    「冗談だ」
    「……? 冗談って、笑うところだよな?」
     困惑を隠しきれず首を傾げるアキラ。
     ブラッドは、そんな無邪気な彼に、別の食欲が沸くのを感じながら、静かに笑った。
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