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    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。ワンライお題1回:自由(@brak_60min)すぐ影響受けるアの話です。

    ##ブアワンライ

    トムはエレンの腰を抱く なぁ、キスしよーぜ。
     そう言った十八歳の青年は、十センチ高い場所にある唇を見上げながら十歳年上の男の腰を抱き寄せた。
     力任せの強引な求愛に若さを感じながらも、ブラッドはやんわりとその腕を外し己の胸に恋人を閉じ込める。部屋着と違い生地が硬めの制服ではあまり温もりが伝わってこない。残念だと思う。押し潰され無残な最期を遂げる蛙の断末魔に似た鳴き声が胸の間から聞こえたが、気にせず恋人の背中に回した腕に力を込めた。革靴が浮き、フローリングにつま先が立つ。
     扉を開くなり待ち構えていたかと思えば、この仕打ち。彼の思考には必ず理由があると理解していても、予想出来ない言動に慣れることはない。ブラッドは己を振り回し踊らせ転がす無邪気なこの愛児を一層、抱き潰してやりたいとため息を溢す。
    「おい、ブラッド。聞いてた、かっ?」
     右巻きの旋毛に鼻先を押し付け頭皮の匂いを堪能していると、頭が忙しなく揺れた。汗と、太陽と、土の匂い。また芝生で寝転がりホットドッグを食べていたのだろう。混じった草が頬に掻痒を与える。シャワーも浴びていないのか。
    「あぁ」
     ブラッドは「ただいま帰った」と赤い髪に言葉を続けた。おかえりと渋々返事が返ってくる。悪くない。教育の成果に満足したので、拘束を緩めてやることにした。
     ようやく平静が戻ると、奥から流れてくる壮大な音楽に気付く。耳を傾ければ研修チーム共有スペースのリビング、テレビから聞こえてくる有名な曲に成程、と胸中で頷いた。この一連の奇行は全て映画の影響か。やはり紐解けば分かりやすい男だと口の端が持ち上がる。
     ストリートギャングに拉致された歌手を元恋人が助けに行くアクション映画だ。救出劇の中で愛を再び燃え上がらせる二人の結末は、キスをして別れを告げるものだったか。過去にディノとキースの三人で見た記憶を手繰り寄せながら、見上げる青年の双眸を眺める。影響を受けやすいとウィルから聞いてはいたし、早食い対決を提案した経緯からもそうだろうとは思っていた。しかし、実際それが自分のみに向けられるのは初めてのことだった。無邪気で素直で、けれど決して無垢ではない。なかなか、どうしようもなく、愛しいと思う。
    「オスカーとウィルは」
    「自分の部屋に入ってったけど?」
     首を傾げながら「で、するのかしねーのかどっちなんだよ」とアキラが聞いた。徐々に自分の行動に気恥ずかしさが生まれたのか唇を尖らせる姿にラバー・ダックを思い出す。
     ブラッドは寝かしつける子供にするようなキスを目尻に与え、次に鼻先へも贈った。そして違う、ここだと唇を指して不満そうに拗ねる子供の腰を引き寄せると、その背後で姿勢を正す大木のような男へ視線を向ける。
    「ただいま帰った。――が、また出掛けてくる。コートを二着、頼みたい」
    「おかえりなさいませ、ブラッドさま。すぐに用意します」
    「っ!?」
     腕の中で驚きのあまり飛び跳ねるアキラが首を後ろへと向ける。気配に気付けなかったのは未熟さ故か目の前の恋人に夢中になっていたせいか。後者であれば嬉しい。
     赤い耳に唇を寄せればやめろ、と手で押し返された。その指は羞恥のあまり震えている。可哀想に。映画のように恋人へスマートなキスを送るはずが、失敗した挙句その姿を第三者に見られるなど。意趣返しに成功したブラッドは取り乱した十八歳の青年を見ながら溜飲を下げる。我ながら大人気ないと思うが、そうでもしなければキスだけでは済まなかった。
    「今日限りはルーティンを休むような男だと思っていたのか? 覚えておけ。生真面目で少し不器用な俺の良き隣人は、お前の体裁を保つよりも主人の出迎えを優先する」
     恨みがましい視線を向けられたので、心外だと片眉を吊り上げ言い包める。あまり機嫌を損ねさせて逃げられては敵わない。ブラッドは戻ってきたオスカーからコートを受け取ると、一着はアキラの肩に乗せた。己も羽織ると、足早に共有ルームに背を向ける。アキラは何も言わなかった。
    「おいテメェ、まさか最初からそのつもりだったとか言うんじゃねーよな」
     夜風はまだ初冬に似た冷たさを残す。コートに違和感のない気温で良かった。居住区のないセントラルスクエアは日が落ちれば人の気配も消える。タワーを出てビル風に乱される髪を押さえながら周囲を見回していると、移動中ジト目を隠そうともしなかったアキラがようやく口を開いた。首を傾げながら、どうだろうかと呟く。
    「そのつもり、がどのつもりを指すかは理解しかねるが、少なくとも今日はエレンをタワーから救い出すつもりはなかった」
     暗にお前のせいだと告げてやると、馴染みのある呻き声が聞こえてきた。そろそろ未成熟な弟子の面子を立ててやろう。目を細め、顔を近付ける。
    「で、どこでキスがしたいか言ってみろ」
     顔を朱くさせて固まるアキラ。聞かずとも、返ってくる言葉は手に取るように分かる。
     言うか悩んだが、それは胸中にしまっておくことにした。
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