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    2152n

    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    POIPOI 94

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    ブラアキ。ポッキーの日。

    ##ブラアキ

    察しのいい男 ポキッ。……シャクシャク、シャク。
     聞き慣れない音がする。
     必要な書類を取りに一度部屋へと戻ってきたブラッドは、共有ルームに入るなり聞こえてきた軽快な咀嚼音に眉を釣り上げた。
     ポキッ。……シャク、シャクシャク、シャク。
     その音はキッチンから聞こえる。視線を向ければ、カウンターの向こうで赤い穂先がひょこひょこと揺れていた。すぐに音の犯人を理解し、ため息をつく。

    「何をしている」
    「うぉっ!? っ……ぁ、あぁっ、クソッ! いってぇ……っ」

     ガンッ、ゴンッ!
     面白いほど分かりやすい音に、思わず吹き出しそうになったブラッドだったが、すぐに息を止めて耐え切った。
     しゃがみこんでいたのだろう。ブラッドの声に動揺して立ち上がり、カウンターの角に頭をぶつけたアキラの苛立たしげな顔が、隔たりの向こうから徐に現れる。

    「んだよ、ブラッドか。驚かすんじゃねーよ」

     不機嫌さを隠そうともせず、アキラはブラッドを睨みつけ毒づくと、右手に持つ袋から細長い棒を取り出し、それを口へと運ぶ。
     ポキッ。……シャクシャク、シャクシャク。
     なるほど、音の正体は彼の手に持つものにあるようだ。
     ブラッドはそれに興味を惹かれ、顎をしゃくる。

    「それは?」
    「……? あぁ、これか? ポッキー。ジャパニーズ発祥のスナックだよ」

     ポッキーと呼ばれる、チョコレートがコーティングされた細長い棒状のクッキーには見覚えがある。街でアイスクリームなどに刺さったスナックだ。
     まさかそれがジャパニーズ発祥のものだとは思わず、途端にブラッドはそのスナック菓子に釘付けになる。
     その様子にアキラは困惑の表情を浮かべた。

    「え、お前、まさか知らねえの? スクールでも誰か一人は持ち歩いてただろ」
    「見たことはある。だが、そのような音を立てているのを聞いたことがない」
    「音ぉ?」

     そう言ってアキラはまた袋からポッキーを取り出し、口に突き刺した。
     ポキッ。……シャク、シャクシャク。
     その気持ちいいほど軽快な音に、ブラッドは名称の由来を理解して頷いた。
     確かにその音に相応しい名前だ。

    「お前の周りのヤツ、よっぽどお上品に食ってたんだな」

     アキラはそう言ってカウンターを回り込むと、ブラッドへと近付いた。
     まだ制服姿を見るに、パトロールから帰ってきたばかりなのだろう。
     袋の中身は残り六本といったところか。

    「で、キッチンで何をしていたんだ」

     ブラッドは袋に視線を注いだまま問う。
     アキラは自身の行動を忘れたのか、首を傾げた。おそらく頭をぶつけたことも既に遠い記憶なのだろう。

    「あ? ……あー、あぁ、今日はポッキーの日だー!っつって、近所のスナック屋がセールしてたんだけど、思ったより売れ行き悪かったみたいでさ。泣きつかれたから、仕方なくまとめ買いしてきたのを仕舞ってたんだよ」

     ポキッ。……シャクシャク、シャク。
     いっぱいあるから食ってもいいぜ。そう言ってアキラはまたスナック菓子を咥えた。
     唇で挟み、器用に折る。厚みのない薄桃色が持ち上げられ、折れた反動でふるりと揺れる。
     その動作につられて、ようやく視線をアキラへと戻したブラッドは言った。

    「ポッキーの日?」
    「ほら、十一月十一日って棒が四本並んでてポッキーみたいだろ。メーカーが決めたんだとよ」
    「販売戦略か。メーカーも必死だな」

     とはいえ、形は何にせよ、その戦略の結果アキラはポッキーを大量に買ったので、効果はあると言えるだろう。
     販売戦略の意味を理解していないのか、首を傾げるアキラはまた袋に手を伸ばす。そして、取り出したポッキーを口へと運んだ時だった。

    「そうだな、一つもらおう」

     言葉と共に、顔が近付く。驚いて引いたアキラの背中に手を回し、顎をすくって逃げ道を奪う。
     そのままブラッドは、唇に挟まれたスナック菓子の端に齧り付いた。
     ポキッ。

    「……ふぉい」

     ポキッ、ポキッ。

    「……ふらっほ」

     ポキッ、シャクッ。

    「……っ」
    「……まだ終わってないが」

     ブラッドの口へと消えていくスナック菓子。距離の迫る唇。
     思わずアキラが顔を背けると、不服そうな声が聞こえてきた。

    「っ、こっちにもあんだろ、こっち食えよ!」

     物言いたげな視線に耳を赤く染めたアキラは袋を突き出す。しかし、残り四本のそれは、アキラが驚いた時に握り潰してしまい、小さく折れていた。
     砕けたそれを見たブラッドは、辛うじて長さが残る一本を取り、アキラの唇に挟む。今度は焦らさず、根本まで一気に咥え込んだ。

    「んっ」

     唇が触れ、次いで薄く開いた扉に舌が滑り込む。
     チョコレートの甘味と匂いの広がる口内を、コーティングを溶かせクッキーだけになったスナックが、舌で折られながら二人の間を行き来する。
     ようやく全てを飲み込み口を離したブラッドは、またアキラが手に持つ袋から折れたポッキーを摘んだ。
     それを見てアキラは思わず半眼になる。

    「……ブラッド、お前、ポッキーゲームって知ってるか?」
    「聞いたことがないな」
    「あぁ、そう。じゃあいいや――って、もういらねぇよ! 一人で食え!」

     また唇にポッキーを挟もうとするブラッドに、アキラは声を荒げた。
     しかし、ブラッドに表情の変化はない。淡々とした目をこちらに向けている。
     いや。よく見れば、その瞳の奥に燻る熱が見える。
     アキラは背筋を粟立たせた。

    「この状況で、お前の反応で、その単語が何なのかぐらいは予想がつく」
    「うげ……」

     察しのいい男は嫌いだ。顔を顰めるアキラに、ブラッドは口の端を持ち上げる。

    「たくさんあるそうだな。丁度甘いものが欲しいと思っていたところだ。有り難くいただこう」
    「だから普通に食えって、普通に」

     まさか満足するまで俺の口から食う気じゃねぇだろうな。
     そう言ってジト目を送るアキラに、ブラッドは「どうだろうな」と小さく目を細めた。
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