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    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。お昼寝する話。

    ##ブラアキ

    愛しいの意味 布ずれの音につられて、ゆるやかに覚醒する。体内時計はまだ朝を告げていない。窓から僅かに差し込む光に、そういえば昼食のあと、珍しく昼寝をしたのだと思い出した。
     昨夜は遅くまで書類を片していたこともあり、胃が満たされたまま訪れた睡魔。今日ぐらい穏やかにオフを過ごしてもいいだろうと、抗うことをせず、自室のベッドで横になった。おそらく、一時間ほど経っただろうか。
     瞼を下ろしたまま、ブラッドはシーツに指を這わせた。そして、触れた布ではない感触に長い睫毛を持ちあげる。
    「…………」
     視界に広がった、燃えるような赤。途端に頭が冴え、ブラッドは目を瞠った。
     エメラルドグリーンは姿を隠し、あどけない寝顔が上下に揺れる。それが己の部下であることを理解すると、今度は疑問が浮かんだ。目線を動かし、ここが自室であることを確認する。上司の部屋の、ベッドの上に、何故彼が寝ているのか。
     最近は反発心が薄れ、打ち解けてきたようにも思う。懐けば早いもので、共有リビングで仕事をしていれば、当然とばかりに隣でゲームを始めるし、食事を作る時も「お前も食べるか」と声をかけてくることが増えた。まるで、反抗期が落ち着いた弟みたいだ。
     ……弟といえば。ブラッドは脳裏でフェイスの顔を過ぎらせる。愛しい弟。どこで道を間違ったか、関係を拗らせてしまったが、大切な家族であることに変わりはない。
    「…………」
     目の前で無防備に眠る男は、フェイスではない。弟でもないし、実家で飼っている人懐っこい犬でもない。けれど、愛しいと思う感情は、家族にも似ている。
    (似ている……が、違う)
     彼は他人だ。つい数か月前に知り合ったばかりの他人。――本当は、もっと前から彼のことを知っていたが。
     赤い髪を梳く。身動ぎするが、起きる気配はない。
     炎の中で死にかけた少年が、炎を纏い、人を守る。皮肉な話だ。それを前向きに捉える性質が羨ましい。もっと正直に言えば、妬ましいとさえ思ったこともある。諦めないということは、信じ続けるということだ。信じるから、諦めない。諦めないから、努力する。努力するから、成長出来る。
     伸びしろのある少年。まだ発展途上の彼を、育てる自分。責任は重い。重いが、この荷は誰にも譲りたくない。それが例え、レジェンドヒーロー相手でも。
     血の繋がりや月日を重ねて生まれる情とも違う、確かな愛しさがブラッドの中で育ち、溢れてくる。
     起きても構わないとばかりに、ブラッドは赤い髪とシーツの間に腕を入れた。頭を抱き寄せる。眉をしかめた少年が、口をもごもごと動かして、右手を持ち上げる。それが、ブラッドの腰へと伸び、何度か感触を確かめた後、へにゃりと笑って止まった。
    「ん、へ、へへ」
     どんな夢を見ているのか。自分には想像もつかない。
     きっと、くだらなくて馬鹿らしくて、そして楽しいことなのだろう。少しだけ、彼の夢の世界に入ってみたいと思った。
     日系の幼い顔立ち。勝気な目が閉じられているせいか、一層子供っぽく見える。あの真っ直ぐに澄んだ、優しい色が懐かしいと、ブラッドは思った。エメラルドグリーンの中に映る、閉じ込められた自分が揺らめく様を見たい。けれど、この時間を終わらせたくもない。
     じんわりと、心が温かくなる。愛しい。でも、その愛しさの中にはしっかりと、静かな情欲が蠢いている。
     無防備に晒した素肌。ブラッドはそれを撫でようとして――やめた。今はまだ、その時ではない。
    (我ながら……どうかしている)
     下腹部に眠る欲望。形を成すそれを、深呼吸して鎮める。その時が来るかは分からない。分からないが、今はこのシエスタを楽しみたい。それだけだ。
     抱き寄せる。シャワーを浴びてきたのだろうか。石鹸の香りに混ざる、太陽の匂い。少年の左腕をとり、頭を乗せる。仲良く添い寝などして、起きた時どのような反応を見せるのだろうか。
     想像して、思わず笑みが漏れた。

     *****

    「ボルダリング行ったけどさ。なんか不完全燃焼で体、動かしたりねーから、ブラッドがオフならトレーニング付き合えって、言おうと思ったんだよ」
     ぶっきらぼうに言うアキラは、気まずそうに目を逸らす。
    「そしたら、なんか気持ち良さそうに寝てるから、見てたら俺も眠くなって、きて……」
     弱くなる言葉尻。ブラッドはわざとらしいため息をついた。
    「それで上司のベッドに潜り込むとは、お前らしい」
    「だ、だってよ……つか、もういいだろ。起きたんなら離せよ」
     もぞもぞと動かす体。腕に力をこめて封じ、拘束を強くする。
     あれから十数分後に目覚めたアキラは、上司の腕の中に収まっていることに気付くと、大きな悲鳴をあげた。すぐに抜け出そうとしたのだが、ブラッドが頑なに離そうとせず、ベッドの上で静かな攻防戦を繰り広げている。しかしそれにも限界がきたのか、アキラは眉を下げ、情けない声で鳴いた。
    「おい、オスカー! 見てないで助けろよ……!」
     目の前に自分がいるというのに、別の男に縋るとは。ブラッドは胸中で唇を尖らせる。数分前に戻ってきたオスカーは、困っているのか、背後でオロオロとしていた。彼も彼でこの状況に狼狽えているのだろう。
     ブラッドは首を彼の方に向けて言った。
    「オスカー、これは抱き枕だ」
    「……は、ぁ」
     困惑が強くなる。ブラッドは言った。
    「話すこともできるし、動くこともできるし、人の形をしている。けれど、抱き枕だ。抱き枕を抱いて寝ることは、用途として間違ってはいない。分かるな」
    「な、なるほど。確かに抱き枕なら、問題はありませんね」
    「おい、やめろブラッド。お前の冗談は冗談にならねーんだよ。特にオスカーには通じねーんだからな。あの顔、マジで信じかけてるじゃねぇか」
     真剣な表情で頷くオスカーに、ジト目を向けてくるアキラ。ブラッドは気にせず、アキラを抱き寄せ、あまつさえ足を絡ませる。
    「ちょっ、おいって」
    「お前は抱き枕だ」
    「あのな……」
    「忙しい俺のために用意された、今日限りの抱き枕だろう。違うのか?」
     そう言って小首を傾げる。アキラはウッと言葉を詰まらせた。彼は、普段自分にも他人にも厳しいブラッドが甘えてくる姿に弱い。
    「ぐ、うぐぐぐぐ」
     あと一押しか。腰に回した手を引き寄せる。アキラは降参だと両手を掲げた。
    「今日っ、今日だけだからな!」
     そう言ってブラッドの頭を両手で抱き込み、髪を乱暴に撫でてくる。乱れ、絡れた髪。そこまではしなくていい。
     言いたかったが、悪い気分ではなかったので、あと三十分で解放してやることにした。
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